「英雄の書」を読んだ(中編)

2016年05月16日 00時05分00秒 | 生き方

▲<ポプラ社 2015.9.1 第1刷>

GW明けてから、沖縄は凄くいい天気が続いている(5月15日は、30度!)。


▲<5月15日、「豊崎美らSANビーチ」の周辺で、駅伝をやっていた>

連休前から読んだ、「英雄の書」に、はまっている。

作者、黒川伊保子氏の本業であるAI(人工知能)の研究から解明された人間の脳の成長過程を解りやすく解説してくれている。

ヒトは、人生最大多数の脳細胞を持って生まれてくる。それは、どのような環境にも対応出来るため。例えば、2歳半くらいまでの幼児は、世界中のどの言語の母音も、目の前でネイティブの人が発音してやれば、同じように発音出来る。しかしながら、あらゆる母音の認知が可能という事は、「言葉の音声認識がかなわない」という事である。余分な脳細胞を切り捨て、母語の母音に絞り切った時、脳には、周囲の音声が言葉として聞こえ出す。

●脳細胞数は、生まれたその日から減少し、2歳半頃をピークに劇的に減少する。代わりに、神経線維のネットワークは増え続ける。3歳のお誕生日くらいまでに不要なものを捨てる事で感性を研ぎ澄まし、やがて「思考の旅」を始める。「三つ子の魂百まで」という諺は、脳科学的にも一理ある

15歳から28歳までの脳は、世間を知り、生きるコツを掴み、自分らしさを確立して行く。「社会的自我の確立期」に当たる。この時期に、どんな色合いの英雄になるかが決まる。その大事な時期に、周囲や空気を読み、他人の顔色を伺い、そつなく過ごして行くのは勿体ない。

●ヒトの脳は、生まれて最初の28年間は、著しい「入力装置」だ。特に、15歳~28歳までの単純記憶力のピーク時には、脳自体が執拗に世の中のありようを知ろうとしている。勉強しても、仕事をしても、恋をしても、趣味に没頭しても、何をしてもがむしゃらになれる時。そうして、30歳の誕生日頃までに、自らの世界観を確立して行く。

●30歳は、世の中のありようのすべてを見通せるようになり、「世の中こんなもん」と、見切ったような気持ちになる時。確かにそうなのだが、安穏(あんのん)としていられる時間は意外と短い。人生は片時も止まらない。ここから、「自分にしか出来ない、新しい世界観を生み出す旅」が始まる。その旅の最初の10年間、すなわち30代は、「失敗」適齢期でもある。脳は、30代までに、その脳が生きる環境において、世の中のすべてを見切るだけの数の回路を手に入れる。ここからは、要らない回路への電気信号を減衰させ、重要な回路を何度も電気信号を流す事によって、脳の個性を創り上げて行く28年間だ。その前半の10年が30代に当たる。

●苦しいかもしれないが、ここで痛い思いをした脳だけが「一流の脳」になれる。「失敗」は、買ってでもする。そうは言っても30代は、成功の階段を上り始める勢いのある時でもある。痛い思いをしながらも、一方では、多くのドラマを紡いで行く。賞を貰ったり、昇進したり、恋をしたり。その表の花も、痛い思いの数と深さの分だけ輝くように、人生は出来ている。

●洗練のための28年の果て、56歳からの28年間は、脳が最大の出力性能を示すようになり、本質を瞬時に見抜き、勝ち手しか見えない脳になる。ヒトの脳の完成期は、意外に遅くやって来る。50代半ば以降に、どんな脳に仕上がっているかが本当の勝負で、20代や30代でライバルの後人に甘んじている事なんて全然問題ない。

●超一流の領域に達するために必要なのは、「基礎力」と「戦略力」だ。自分の脳が繰り出す戦略に、身体が付いて来なければ意味がない。だから、基礎力を淡々と鍛える事を抜きに出来ない。そして、戦略力の方は、失敗なしには鍛えられない。失敗の数だけ、機知の回路が出来上がる。上手にエリートになってしまって、機知の回路が少ないままに上に立つ者は脆弱だ。結局、「自分らしい仕事」をする前に消えてしまう。失敗したっていい。負けたっていい。人生のゴールは、遠いほど輝かしく、遠いほど唯一無二なのだから。

●ヒーローになる者は、逃げの「諦めの試合」をしてはいけない。失敗を怖れない事と、勝に行かない事は大きく違う。勝ちに行って負けた人は、成功しやすい脳に変わり、逃げに行って負けた人は、挫折しやすい脳に変わる。同じ負けでも、その結果は180度違う。人は失敗から学び成長する。だから、失敗の数だけ学び成長するのだ。

「英雄の書」黒川伊保子著【第一章 失敗の章】より