エスカレーターも、電気が停まればただの金属の階段でした。天然資源に乏しい日本は金属文化というよりはやっぱり木や紙の文化の国です。目新しい資源(金属)を使って新たな技術を生み出すことはスバラシイですが、「そんな慣れないもの使うから~」ということにならないように智恵を絞りたいものです。
さて、江戸時代の金属といえばやはり“お腰のもの”――刀剣です。世界の刀剣類の中でも、日本刀は群を抜くハイ・クオリティを実現しています。芸術の域に達しているほどです。そもそも西洋の刀剣類は、「研ぐ」ということをあまりしなかったそうなので刃先が鈍く、こんなんで斬られたらさぞ痛かろーと想像されます。日本のSAMURAIが"HARAKIRI" なんてことをやってのけることができたのは、天下一品の切れ味のおかげでしょう。
その日本刀の刃の、究極の精錬法が『たたら製鐵法』と呼ばれるものです。昔、ある文庫本を読んで、“玉鋼(たまはがね)”という刃材を生み出すこの『たたら製鐵法』は、現代の工業技術をもってしても再現できないということを知りました。
純度100%の“玉鋼(たまはがね)”はどうやって作られるのか。私の読んだ文庫本によると、
「四角い粘土製の炉に砂鉄と木炭を交互に積み重ねては赤熱させ、〝鞴(ふいご)〟で温度を調整する作業を三日三晩文字通り不眠不休で行う。そうするとその中にこぶし大の固まりとして分散した玉鋼が採れる。」
のだとか。職人さんのワザと労力は並大抵ではないことが容易に想像できます。こうして採れた玉鋼は、鉄と炭素以外の不純物を一切含まない、純度100%の最高の刃材なのだそうです。日本古来の製鐵法は、完成度を極めた、現代テクノロジーを凌駕する匠の技だったわけです。
あっぱれ、ニッポンのご先祖さま。
参考文献
風見明(2002)『日本の技術レベルはなぜ高いのか ―その智恵と精神の歴史をさかのぼる』PHP文庫.
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