自然となかよしおじさんの “ごった煮記”

風を聴き 水に触れ 土を匂う

地域ミュージアムで考える(10)

2016-05-06 | 随想

5月5日(木)。こどもの日。公園にはたくさんのファミリーが訪れ,一日中活気にみなぎっていました。ミュージアムは,お蔭さまで入館者が多く,対応に追われました。小中学生の入館については,この日のサービスということで無料にしたことも効果があったと思われます。とくべつな問題も生じずに無事に一日を終えられうれしい限りです。


ミュージアムは,学び・体験・交流の場です。ここにはさまざまな出会いがあって,さまざまなふれ合いが生まれて行きます。わたしたちはこれら一つひとつをとても大事にしたいといつも願っています。そのためのおもてなしのこころは,一つひとつに丁寧に対応していくという点に尽きます。

その1。乳児を抱いた一人のお母さんが来られて「授乳をしたいのですが,その部屋はありませんか」と,困っていることを話されました。ミュージアムにはそうしたスペースはまったく設置されていませんし,来園者に対してそれを考慮した施設もありません。それで急きょ,日頃科学教室で使っている部屋を使っていただきました。その時間帯はちょうど教室実施のために準備中でした。当たり前の配慮とはいえ,咄嗟の判断というものは難しいものです。

その2。小学生が3人,ある展示物の前で「ふしぎや」「どうしてなんやろ」といっていました。わたしが傍に行くと,「教えて」といいました。わたしは「この科学館はふしぎをたくさん感じてもらうためのミュージアムなんだよ。あなたたちはしっかり感じて,そのことをことばにしたね。スゴイね」といいながら,子どもの感じるふしぎに迫って行きました。こんなときの心得は,一緒に解く姿勢に限ります。子どもたちは喰い付いて考えました。子らは次の展示に移動していって,そこでまたわたしにふしぎをぶつけて来ました。科学館には初めて来たのだそうです。ふしぎが解けて,「ありがとうございました」と頭をぺこんと下げました。

その3。ジャガイモを真正種子から栽培する話題と,ナナフシを紹介した展示コーナーがあります。一組の親子が興味深くご覧になっていました。ナナフシに続き種子栽培の説明を簡単にしていると,お二人が夢中になって「それだったらチューリップも同じなんですか」「ジャガイモのイモが茎なんだったら,タマネギはどうなんですか」と次々にふしぎを口にされて,「おもしろいなあ」とおっしゃいます。「今晩,タマネギ料理をして親子でタマネギの断面をくわしく観察してみてください。茎をじっくり見てください」というと,「ぜひ,そうします」とのこと。

おしまいに,「このジャガイモの苗,いただけませんか。子どもと一緒に自由研究をしたいんです」と話されました。子どもさんももちろん,その気。それで数株,差し上げることに。「何月頃まで続ければいいのですか」「どんなところに気をつければいいですか」「また,結果を持って報告に来ます」といって,帰って行かれました。お母さんの好奇心が子どものそれに,さらに火を付けるといった感じでした。


その4。ある展示でわたしが対応した親子4人が帰られるときのこと。お母さんが「たのしかった」と呟かれました。たまたまわたしはそこにいたので,「ご満足いただけましたか」と尋ねると「たっぷり」とおっしゃいました。「なにがいちばんこころに残りましたか」とお尋ねすると,「温かいですね」という返事。

思いがけないことばに,わたしは驚きました。きらきら光ったような展示物でなくても,好奇心をくすぐるなにかがあり,立ち止まって見ていたい,そんな気持ちになるようなのです。そこには,手作りをした展示物の評価もあるでしょう。一味ちがったローカルな匂いがするのかもしれません。「また来ます」といいながら,お帰りになりました。

スタッフがそれぞれに笑顔と,来館者のこころを配慮したことばとで接することが,来館者の目線に立ったミュージアムの立ち位置です。科学をたのしむことを共に味わいたい,とわたしたちは願っています。