らんかみち

童話から老話まで

男の更年期の不安

2007年04月26日 | 童話
 誰かに見られているような気がして、時々きょろきょろ辺りを見回してみるけど誰もいません。気のせいかなとは思うんですがなんだか妙に落ち着かないので、場末の飲み屋で知り合いに打ち明けました。
「そらあるよ、オレなんか窓を開けて『だれじゃーワレー!』て、電柱に向かってわめいとったもんや。ポリとかよその組の者につけられとるいう妄想があったんや」
 なるほど、電柱を人と間違えることはまだ無いんですが、床の染みとかがゴキブリに見えることは良くあります。
「そういう時はな、イリコとか食べたもんや。ていうのはシャブ食うたらどうしてもカルシウムが不足気味になってな……」
 注射違反をやらかし、塀の内側でリハビリした元ヤクザに話したぼくのエラーだったようです。
 
「そら更年期とちゃうか? 最近は男もなるていうのが常識や。不定愁訴いうやつでな、目とか見え難くなったと感じたら間違いないわ」
 今度は更年期を過ぎたかもしれないマスターが口を挟んできました。確かに焦点距離は年々遠くなってきますが、そういうんじゃないんです。以前、童話教室が近づくと耳鳴りがしたこともありましたが、別に体がだるいとかではなく、胸騒ぎがするというか不安感がぬぐえないんです。
 
 結局何も解決しないまま飲み屋を後にして歩いたんですが、だんだん不安感はつのるばかり。誰かがついて来る気がして振り返るんですが、回りには人の姿はおろか猫一匹すら見当たりません。それなのに何かの足音が聴こえて、それがだんだんと大きくなってきます。息を切らしながらエレベーターに乗り込んだのですが、それでも何かが聴こえます。ハッ! 携帯の音か? と携帯を取り出してみても特に異常はありません。
 
「ちゅ~、ちゅ~」
 玄関の戸を開けて部屋に入ったら周りの雑音が消え、ネズミの鳴くような声がはっきり聞こえてきました。
 ハツカネズミや!
 そう気がついてハツカネズミをつかまえてやろうと、ポケットというポケットに手を突っ込んだんですが、そんなものがいたらとっくに気がついてるはずです。
 アカン! 脳内ハツカネズミやぁ~!

 もう万策尽きて靴を脱ぎ散らかして部屋にあがりました。するとどうでしょう、さっきまで聴こえていたネズミの鳴き声がぱたりと止むではありませんか。
 はは~ん、そこだ!
 もう一度靴を履きなおすと、案の定また鳴きはじめました。靴の中にハツカネズミが……いたのではなく、空気クッションの付いた靴がパンクしていたのです。子どもが履くちゅ~ちゅ~鳴る靴になっていたんですね。
 胸騒ぎの原因は突き止めましたが明日は童話教室の日です。何も良からぬ事が起きないように念じながら眠りに付くとします。

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