らんかみち

童話から老話まで

妖怪病室の花束

2007年06月02日 | 暮らしの落とし穴
 月曜日の午前中に退院が決まったといえば「おめでとう」となるのが普通だろうけど、ぼくの場合は医者から匙を投げられた有様なので、娑婆に戻れるからといって必ずしもおめでたくはありません。だからといって、人間を長くやっていると、こういう事もあるんかなってくらいの感慨めいたものしか思い浮かんで来ないのです。
 
 でもそれで良いんです。あんまり考えていると「あれが悪かった、これが悪かった」というだけでなく「あいつのせいか? いや、それともあの時……」と、関係無い事にまで責任転嫁しようとしている自分に気づいて愕然となるんです。このネガティブな性格が招いた災いかもしれないというのにです。
 
 バラの花束が届きました。フラワーアレンジメントというんでしょうか、手作りのミニいけばなを童話仲間にいただきました。
 あんまり綺麗なんで思わず食いたくなってしまうほどです。いやほんと、良い匂いがしますし、それほどの飢餓状態なので、明日の朝目が覚めて、ぼくが無意識のうちにこの花を食ってなく、原型を留めているのを願うばかりです。
 
 それはオーバーだとしても、この二日ほど同室のAさんの体調が思わしくない上に、一人は外泊されているので、部屋の音といったらAさんの発作のような、喉の穴から出る「ビシュン」という激しい咳、Bさんの「あひ~ん」という裏返った咳、Cさんの「ゲロロ~」という低い癖のような咳払だけです。もう暗いったらないです。妖怪屋敷にでも泊めてもらってるんじゃないかって錯覚します。
 
 そんなところへこの花多束ですから、そりゃ気分が良いです。癒される、惑わされる、食いたくなる……、夕ご飯に出たマヨネーズは取ってあるし、えへへへ~!
 ふと気がつくと、こんな風に自分も妖怪に変化しかかっていることに気がつかされ、治っても治らんでも一刻も早くここを抜け出さねば取り返しがつかないことになるなと、花を観て気がついた次第です。いやはや、花の威力は素晴らしい。人に戻れました。

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