らんかみち

童話から老話まで

小物的処置法

2015年03月12日 | 暮らしの落とし穴
       

 ウィスキーのおまけに付いていたグラスを愛用してきたけど、別のウィスキーに付いていたグラスを使い始めた途端、今までのが割れてしまった。スポンジで洗っていたときにパリンと音がして、指にグサリ! 結構深く切ったか、なかなか血が止まらなかった。グラスの嫉妬って、怖ろしい。

 怪我をして出血したときは、傷口が汚れていないなら放置しても大丈夫としたもんだ。しつこく傷口を消毒したりすると、かえって治りが悪くなるのは経験的にも知っている。でも朝になって傷テープにドス赤い血が見えたら、汚染されたような気がして洗い消毒もしてしまった。
 こんなことではいかんと反省し、最近になって薬局で買った湿潤テープを貼っていたら、屋台で焼き鳥を焼いているおばちゃんのことを思い出した。

 ある日、おばちゃんが手を切ったという。包丁使いに長けた人なので、コブラが自家中毒することはないだろ、と不思議だった。聞いたら、流し台に水を溜めて洗い物を始めようと、包丁を放り込んだのをうっかりして手を突っ込んだと。

 ぼくが他人様の傷口をじっくり観察したいタイプだったら、生命線が二本になって良かったねと慰めてあげられたろう。それくらいの怪我だったけど、病院で診てもらおうなんて考えないのがすごい。大物らしいルックスを裏切らない人だ。それどころか傷の処置というのが、セロテープで手をぐるぐる巻いただけという豪傑ぶり。

 侍みたいなおばちゃんだけど、今思えばあのやり方は理にかなっていた。最近では多くの病院が傷口を洗って保護テープを貼るだけの治療を選択しているからね。ぼくみたいにビクビク消毒して、痛いからと左手でご飯を食べているようでは傑物にほど遠い。小物的治療法は、むしろ治りが遅くなるんだよね……。