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■New Eyes 2017 家族の肖像 (7月22日~10月1日、札幌) =9月23日は9カ所(1)

2017年09月24日 12時48分00秒 | 展覧会の紹介-現代美術
 企画した美術館のサイトによると
「世界と向き合う作家の斬新な視点を今日的テーマのもとで紹介する「New Eyes」の3回目」
とのことで、今回のテーマは「家族」。
 道内の美術館では、もっともしっかりした視点で、地元作家を取り上げキュレーティングしてきたと、筆者は思います。

 今回は、同館が所蔵する本郷新「嵐の中の母子像」と、今村育子、唐牛幸史、佐竹真紀、鈴木涼子、深澤孝史、門馬よ宇子の札幌拠点の6氏の作品を展示しています。
 このうち門馬よ宇子さんは2007年に亡くなっています

 本郷の「嵐の中の母子像」は、道立近代美術館の前庭にもあるのでご存じの方も多いでしょう。
 本郷新の母子像といえば、道庁前の「北の母子像」など慈愛を感じさせるものが大半で、この「嵐の中の―」は珍しいタイプとのこと。
 筆者はこれを見たとき
「父親はどこにいるんだ! こんなことまで男は女に任せて、どこかに行っているのか?」
と思ったのですが、時代背景を考えれば、夫は戦死したとみるのが普通でしょうね。

 門馬さんは、戦前に道展入選の経験があり、子育てが一段落してから再び絵筆を執って、全道展会員になりました。しかし、会員になった70代頃から現代美術に転じ、自宅をギャラリーに改装するとともに、現代アート祭の札幌開催を目指して活動を始めていました。札幌国際芸術祭は、亡くなった門馬さんの遺志をついで実現したものともいえ、ちょうど同じような会期(最終日は全く同じ!)に芸術祭が開かれているのも何かの因縁でしょう。

 門馬さんの出品作品は「ふたり」は1点で、戦前期の結婚式の写真約90枚をコラージュした大作です。あらためて仔細に見ると、男性が洋装、女性が和装という組み合わせが多いです。男女ともに洋装というのは全体の2割に達しません。
 これは、女性の「社会進出」が男性にくらべて遅れていたことの反映でしょう。
 一般的な傾向として、農作業や近所へのおつかい、台所仕事や職人の仕事といった近代化以前と作業内容が基本的に変わっていない場面では、和装が残りますが、近代化以降に生まれた職場(工場、会社事務所など)では洋装が基本になります。大正から昭和初期にかけては、日本人の服装が大きく洋装にシフトした時代で、この作品に用いられた写真群は、それを反映しています。

 なお、写真の全体の半数以上が、夫が立ち、妻がいすに腰かけています。
 残りは2人とも立っており、夫がすわって妻が立っている写真は1枚もありません。
 もちろん構図を整える意味が大きいでしょう。重い婚礼衣裳に身を包んだ新婦へのいたわりとも取れる半面、「夫は外(社会)へ、妻は家庭内に」
という近代日本のイデオロギーが影を落としていると解釈することも可能でしょう。


 本展での筆者の一押しは、佐竹真紀さん「肖像記」です。
 2016年のVOCA展で佳作賞を受けた作品のようです。
 筆者は初めて見ました。そして、深い感銘を受けました。

 モニター8台による作品で、最上段に4台、次の段に2台、3段目と4段目に1台ずつ、壁に掛かっています。
 上の段は祖父母、次が父母、3段目が作者自身、4段目が作者の幼い息子に割り当てられ、各自の1年間の写真を5秒間に圧縮して投影します。着想自体はとっぴなものではありませんが、家族それぞれの時間が8人分同時にぎゅっと圧縮されて流れるのを見ると、あらためて感慨深いものがあります。

 容易に想像できることでしょうが、最上段のモニターは画像の流れが、大半の時間で緩やかです。昔は、写真を撮ること自体が非日常の行為でした。
 4人とも晩年に至って写真が増えます。左上の父方の祖父は最後の1枚が遺影で、その後黒い画面が続き、居ずまいを正さざるを得ません。

 反対に、下の2段は、目にもとまらぬスピードで写真が流れていきます(顔の位置をそろえているので、連続した画像に見えます)。赤ちゃんの写真が多いのは理解できますが、佐竹真紀さんの写真も幼時から負けず劣らずたくさんあります。途中、さらにスピードアップするのは、高校時代のプリクラのせいです(笑)。

 しみじみ感じたのは
「人の一生涯ってこういうふうに総括されちゃうのか~」
っていうこと。
 ただ、もちろん、これで全部ってわけじゃないんですよね。

 佐竹さんが長い時間を圧縮して見せたのは、ここにない時間の厖大さと豊かさを、あらためて私たちに気づかせるためだったのかもしれない。

 あるいは、長いと思える一生も、あっという間なのだから、一日一日を大切に生きていかなくてはいけないという、昔ながらの教えを読み取ることだって可能かもしれない。

 本当にさまざまなことを考えさせられる作品でした。

 

 最後に、茨城県北や奥能登など各地の芸術祭で活躍中の深澤さんについて。
 筆者は今回初めて深澤さんが山梨県出身ということを知りました。それぐらい北海道人というのは、昔からの伝承や民俗学的な話に疎いといえます。
 深澤さんの作品展開が、北海道の人にそういうことを気づかせてくれる役目を(結果として)果たしていけば、面白いなと思いました。


2017年7月22日(土)~10月1日(日)午前10時~午後5時(入館~4時半)、月休み(祝日開館し翌火曜休み)
本郷新記念札幌彫刻美術館(中央区宮の森4の12)

一般500(10人以上の団体400)円、65歳以上 400(同320)円、高大生 300(同250)円、中学生以下無料





・地下鉄東西線「西28丁目」駅で、ジェイアール北海道バス「循環西20 神宮前先回り」に乗り継ぎ、「彫刻美術館入口」で降車。約620メートル、徒歩8分

・地下鉄東西線「円山公園」駅で、ジェイアール北海道バス「円14 荒井山線 宮の森シャンツェ前行き」「円15 動物園線 円山西町2丁目行き/円山西町神社前行き」に乗り継ぎ、「宮の森1条10丁目」で降車。約1キロ、徒歩13分

・地下鉄東西線「西28丁目」「円山公園」から約2キロ、徒歩26分

※札幌宮の森美術館から約690メートル、徒歩8分



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