(承前)
苫小牧市美術博物館では、前項で紹介した坂東史樹さんの「中庭展示」だけでなく、坂東さんの旧作(同館の所蔵)と、いずれも札幌在住の映像作家である大島慶太郎さんと佐竹真紀さんの映像作品、さらに北大総合博物館が所蔵する映像資料による特集展示も行われていました。
筆者はこの展示自体、ぜんぜん知らなかったのですが、佐竹真紀ファン?としてはうれしい驚きでした。
同館のウェブサイト( http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutsukan/tenrankai/kako/2019/home.html )には、展覧会のフライヤーとは若干異なる文面が記載されています。
次に引くのは、フライヤーの文章です。
冒頭画像は、大島慶太郎《Mind Mounter》(2015)の一部分。
フライヤーには「トラベルプレイ - スカイ - 再編集バージョン」(2015)というタイトルも記されていますが、上映していた記憶がありません。
「Mind Mounter」は海外のスキーリゾートなどの古い絵はがきを素材としています。
道立近代美術館でことし1、2月に開かれていた「北海道151年のヴンダーカンマー」の出品作も、夕張などの絵はがきを用いていましたが、こちらの作品のほうが、絵はがきがもともと持っている文脈(場所や歴史的背景など)から素材を切り離して使用している印象がより強まっているようでした。
もっとも、モアレが目立つ古いカラーの絵はがきの引用を見ると、祭太郎が2003年に制作した映像「SOTOZURA 1」を思い出してしまうのは筆者だけでしょうか。
同館のサイトには、次のようにあります。
次の画像は佐竹真紀《STUDIES OF CLOUDS OVER THE PACIFIC OCEAN》2018。
北大総合博物館学術資料アーカイブの映像コレクションにある、気象学者の菊地勝弘が1965年に撮った映像を使用しています。
最後は坂東史樹のインスタレーション《その仔犬をポケットに入れよ。旅を続けよう。》から、「苫小牧遠景」「苫小牧西港」「苫小牧埠頭西 No.1 倉庫」。
白い数十センチの直方体が立っており、窓がしつらえられています。ガラスかアクリルごしにのぞき込むと、苫小牧のパノラマ模型が見えるという仕組みで、画像は「苫小牧埠頭西 No.1 倉庫」。
きわめて精緻な仕事です。
いずれも、撮影可となっていますが、撮影はかなり難しいです。
そして、透視図法を逆手にとって、あえて手前側を大きく作り込んでいるのは、以前指摘したとおりです。
そのこともあって「非常にリアル」なのにもかかわらず、「闇の中に浮かび上がってどこか無意識の光景や夢の中のよう」に見えてしまうのは、坂東さんの作品の特徴といえるのではないでしょうか。
さらに言えば、鳥瞰というまなざしのありかたは「国見」などにも通じており、どこかで、その視野の及ぶ範囲をつかむという、一種の権力性を帯びているといえます。いまふうの言い方なら「上から目線」ということになるのかもしれませんが、たとえば、ゲーテが描写したファウストとメフィストフェレスが山の上から農民たちを見下ろして語り合う場面を思い出すのもいいでしょう。
坂東さんの作品は、おなじ向きの視線なのにもかかわらず、権力性とは反対方向の、無意識や夢のほうを指向しているのがおもしろいです。
北海道のアートの「いま」を発信し続けようとする苫小牧市美術博物館の姿勢は、すばらしいと思います。
ちなみに2020年度の中庭展示は、艾沢詳子さんと磯崎道佳さんが予定されています。
2020年2月8日(土)~3月29日(日)
苫小牧市美術博物館(末広町3)中庭展示スペース、第3展示室
※3月4~23日はコロナウイルスの感染拡大防止のため臨時休館していました
□ http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutsukan/tenrankai/kako/2019/home.html
□Keitaro Oshima Website http://www.filmfilmfilm.org/
■北海道151年のヴンダーカンマー 《歴史》と《アート》を集めた《驚異の部屋》へようこそ(2020)
■500m美術館(2010)
■FIX・MIX・MAX!アワード入選作品展(2007、画像なし)
■DESIGN LABORATORY EXHIBITION 2004 (画像なし)
■カルチャーナイトフィーバー (2003、画像なし)
■武田浩志「A(&m).s.h.」 タケダsystem vol.02 (2003、画像なし)
■北海道教育大学札幌校 視覚・映像デザイン研究室展 (2001、画像なし)
□ http://www.makisatake.com/
■New Eyes 2017 家族の肖像
■クロスオーバー (2017)
■愛する美術 ヒューマンラブ(3) 佐竹真紀「インターバル」(2008)
札幌の佐竹真紀さんが「デジスタ・アウォード」のグランプリに!(2006)
■DESIGN LABORATORY EXHIBITION 2004
■北海道教育大学大学院 院生展 (2003)
■カルチャーナイトフィーバー (2003) ※7月25日の項
北海道教育大学札幌校芸術文化課程美術コース卒業制作展 (2003)
■北海道教育大学札幌校 視覚・映像デザイン研究室展 (2001)
■七月展 2001 北海道教育大学札幌校美術科作品展
■坂東史樹「小さくて深い空」 中庭展示―Court installationーvol.13
■記憶の循環 (2011)
■FIX MIX MAX! 現代アートのフロントライン (2006年)
■絵画の場合2005
■Northern Elements (2002年)
■“The Reassurance Found in Everyday Life”/「安堵感」(2002年)
苫小牧市美術博物館では、前項で紹介した坂東史樹さんの「中庭展示」だけでなく、坂東さんの旧作(同館の所蔵)と、いずれも札幌在住の映像作家である大島慶太郎さんと佐竹真紀さんの映像作品、さらに北大総合博物館が所蔵する映像資料による特集展示も行われていました。
筆者はこの展示自体、ぜんぜん知らなかったのですが、佐竹真紀ファン?としてはうれしい驚きでした。
同館のウェブサイト( http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutsukan/tenrankai/kako/2019/home.html )には、展覧会のフライヤーとは若干異なる文面が記載されています。
次に引くのは、フライヤーの文章です。
既存の世界をある一定の地点から見下ろす鳥瞰のまなざしには、万物の成り立ちへの関心や、その時々の眼前の対象を一望のもとに把握しようとする、人間の普遍的かつ根源的な欲求を指摘できるでしょう。企画展「大正・昭和の鳥瞰図と空から見た昭和30年代の苫小牧」の連動企画として開催する本展では、当館の位置する苫小牧という「本拠/Home」を軸としながら、物理的・心理的に離れた地点を「外/Away」として位置づけ、双方向からのまなざしのありようについて焦点を当てます。
美術家・坂東史樹(1963~)の鳥瞰と当地におけるまなざしを感じさせる精緻な模型作品をはじめ、ポストカードや映像資料など既存のイメージを素材として織り交ぜ制作された大島慶太郎(1977~)と佐竹真紀(1980~)の二人による映像作品、そして北海道大学総合博物館学術資料アーカイブの映像資料を展示することにより、鳥瞰というまなざしに含まれる内と外ないし天と地からの視座、さらにはその所作のもつ意味について考察する場の創出を図ります。
冒頭画像は、大島慶太郎《Mind Mounter》(2015)の一部分。
フライヤーには「トラベルプレイ - スカイ - 再編集バージョン」(2015)というタイトルも記されていますが、上映していた記憶がありません。
「Mind Mounter」は海外のスキーリゾートなどの古い絵はがきを素材としています。
道立近代美術館でことし1、2月に開かれていた「北海道151年のヴンダーカンマー」の出品作も、夕張などの絵はがきを用いていましたが、こちらの作品のほうが、絵はがきがもともと持っている文脈(場所や歴史的背景など)から素材を切り離して使用している印象がより強まっているようでした。
もっとも、モアレが目立つ古いカラーの絵はがきの引用を見ると、祭太郎が2003年に制作した映像「SOTOZURA 1」を思い出してしまうのは筆者だけでしょうか。
同館のサイトには、次のようにあります。
絵葉書や古写真など既存の印刷物を素材とする大島慶太郎の鳥瞰的な視点を感じさせる映像作品《トラベルプレイ》(企画展「NITTAN ART FILE3:内なる旅~モノに宿された記憶」出品)の空撮パートを中庭空間に展示。既存のイメージに含まれる「他者のまなざし」を援用する大島の表現に焦点を当て、絵葉書というモノに内在する記憶や「観光」のまなざしについても指摘する。あわせて、第3展示室において「山」をモチーフとする《Mind Mounter》を上映することで、観覧者に空間の「内」と「外」の対比を意識させる内容とします。
次の画像は佐竹真紀《STUDIES OF CLOUDS OVER THE PACIFIC OCEAN》2018。
北大総合博物館学術資料アーカイブの映像コレクションにある、気象学者の菊地勝弘が1965年に撮った映像を使用しています。
見下ろす視点と見上げる視点、過去と現在、そして「作品」と「資料」という境界を横断する表現を紹介する。大島慶太郎の《Mind Mounter》と交互に上映することにより、鳥瞰に付随する天と地の対比関係についても示唆する展示を試みます。
最後は坂東史樹のインスタレーション《その仔犬をポケットに入れよ。旅を続けよう。》から、「苫小牧遠景」「苫小牧西港」「苫小牧埠頭西 No.1 倉庫」。
白い数十センチの直方体が立っており、窓がしつらえられています。ガラスかアクリルごしにのぞき込むと、苫小牧のパノラマ模型が見えるという仕組みで、画像は「苫小牧埠頭西 No.1 倉庫」。
きわめて精緻な仕事です。
いずれも、撮影可となっていますが、撮影はかなり難しいです。
そして、透視図法を逆手にとって、あえて手前側を大きく作り込んでいるのは、以前指摘したとおりです。
そのこともあって「非常にリアル」なのにもかかわらず、「闇の中に浮かび上がってどこか無意識の光景や夢の中のよう」に見えてしまうのは、坂東さんの作品の特徴といえるのではないでしょうか。
さらに言えば、鳥瞰というまなざしのありかたは「国見」などにも通じており、どこかで、その視野の及ぶ範囲をつかむという、一種の権力性を帯びているといえます。いまふうの言い方なら「上から目線」ということになるのかもしれませんが、たとえば、ゲーテが描写したファウストとメフィストフェレスが山の上から農民たちを見下ろして語り合う場面を思い出すのもいいでしょう。
坂東さんの作品は、おなじ向きの視線なのにもかかわらず、権力性とは反対方向の、無意識や夢のほうを指向しているのがおもしろいです。
北海道のアートの「いま」を発信し続けようとする苫小牧市美術博物館の姿勢は、すばらしいと思います。
ちなみに2020年度の中庭展示は、艾沢詳子さんと磯崎道佳さんが予定されています。
2020年2月8日(土)~3月29日(日)
苫小牧市美術博物館(末広町3)中庭展示スペース、第3展示室
※3月4~23日はコロナウイルスの感染拡大防止のため臨時休館していました
□ http://www.city.tomakomai.hokkaido.jp/hakubutsukan/tenrankai/kako/2019/home.html
□Keitaro Oshima Website http://www.filmfilmfilm.org/
■北海道151年のヴンダーカンマー 《歴史》と《アート》を集めた《驚異の部屋》へようこそ(2020)
■500m美術館(2010)
■FIX・MIX・MAX!アワード入選作品展(2007、画像なし)
■DESIGN LABORATORY EXHIBITION 2004 (画像なし)
■カルチャーナイトフィーバー (2003、画像なし)
■武田浩志「A(&m).s.h.」 タケダsystem vol.02 (2003、画像なし)
■北海道教育大学札幌校 視覚・映像デザイン研究室展 (2001、画像なし)
□ http://www.makisatake.com/
■New Eyes 2017 家族の肖像
■クロスオーバー (2017)
■愛する美術 ヒューマンラブ(3) 佐竹真紀「インターバル」(2008)
札幌の佐竹真紀さんが「デジスタ・アウォード」のグランプリに!(2006)
■DESIGN LABORATORY EXHIBITION 2004
■北海道教育大学大学院 院生展 (2003)
■カルチャーナイトフィーバー (2003) ※7月25日の項
北海道教育大学札幌校芸術文化課程美術コース卒業制作展 (2003)
■北海道教育大学札幌校 視覚・映像デザイン研究室展 (2001)
■七月展 2001 北海道教育大学札幌校美術科作品展
■坂東史樹「小さくて深い空」 中庭展示―Court installationーvol.13
■記憶の循環 (2011)
■FIX MIX MAX! 現代アートのフロントライン (2006年)
■絵画の場合2005
■Northern Elements (2002年)
■“The Reassurance Found in Everyday Life”/「安堵感」(2002年)
(この項続く)