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■京都国立近代美術館名品展「極と巧 京のかがやき」 (2018年9月29日~10月21日/24日~11月14日、札幌)

2018年10月21日 15時16分52秒 | 展覧会の紹介-複数ジャンル
 京都国立近代美術館の所蔵品のうち、日本画と工芸を紹介する展覧会。

 ことしは「STV創立60周年記念」と銘打った展覧会が四つも札幌で開かれているが、その中ではこれが一番見どころがあったと思う。図録も出ていた。
 少なくとも、この展覧会の前に開かれていた東京富士美術館の展示よりは、良い作品が来ていると感じる。まあ、富士美術館のときは近世中心、今回は近代なので、単純な比較はできないが。

 京都国立近代博物館はもちろん彫刻や洋画も収集しているし、現代アートの展覧会も古くから行っているが、今回はいっさい来ていない。
 これはこれで、会場の構成がすっきりしたと思う。

 「日本画」は、1860年代から1970年代まで。
 前期でいちばん古いのは幸野楳嶺「春秋蛙合戦図」で、1864年ごろ。

 個人的に圧巻だったのは、富岡鉄斎の「富士遠望・寒霞渓図」。巨大な南画の屏風で、スケール感がすごい。いわゆる南画・水墨画の決まり切った約束事から自由でありつつ、西洋画の模倣からも完全にまぬかれている。
 鉄斎が、日本の近代絵画史で「弧峰」とされるのもうなずける。
 解説文で、鉄斎が賛を重視していたと書いていたが、だったら釈文をつけてほしい。

 竹内栖鳳「枯野の狐」は1897年作。
 キツネの毛の描写が迫真。
 一方で、背景の枯れ草は、茫漠とした簡素な描写にとどめている。
 おそらく近代日本画とは、洋画を見た画家が「輪郭線って、なんだろう」と考えたことが出発点のひとつになっているのではないかと思うのだが、そういう意味ではまさにその出発にある作といえるかもしれない。

 「美人画」というセクションがあったのが興味深い。
 ここの目玉であろう、上村松園の2点「舞支度」(1914)「花のにぎわい」(1907~12)は、日本画ではめずらしく前期・後期通しての展示になっている。
 輪郭線についていえば「花のにぎわい」は、それぞれの女性の和服の色にあわせた輪郭線が用いられており、浮世絵や日本画でありがちな黒が排されている。
 「舞支度」は、対角線上に重要な要素を配した構図がすばらしい。

 このセクションでは、谷角日沙春「洛北の佳人」(1933)も興味を引いた。
 火をともしたろうそくと、わずかな影の描写が、この場面が夜であることを示す「記号」になっているのだが、そういう「約束事」を知らないと読み解けないというのも、なかなか大変なことだと思う。

 戦後は、前期・後期5点ずつ。
 やはり福田平八郎はいいな~と思う。西洋画と日本画の止揚である。
 京都の美術館らしく、戦後の前衛美術運動をになった「パンリアル」の三上誠と星野眞吾が展示されている。


 さて、工芸は、いわゆる「超絶技巧」といわれて近年注目を集めている安藤緑山や高瀬好山の置物が16点。
 「金工」セクションは16点あるが、その大半は有線七宝で、並河靖之や濤川惣助の花瓶の高度な技術に息をのんだ。

 個人的な感想になるが、「そっくり」セクションの安藤緑山などにそれほど驚かなかったのは、道立函館美術館の「ニッポンの写実 そっくりの魔力」展で昨年見ていたためだということに気がついた。
 展覧会の仕立てとしては、函館のほうが、批評的な視線があって良かったと思う。
 一方で、七宝に感服したのは、先に江別市セラミックアートセンターで開かれた「多彩なる近現代工芸の煌めき 東京国立近代美術館工芸館名品展」にこのジャンルが欠落していたことが大きい。

 「陶芸」は七大錦光山宗兵衛、板谷波山、富本憲吉、河井寛次郎、十五代樂吉左衞門など31点。
 さすがに京都の陶芸家の作が充実している。
 ただし、こちらは江別での東京国立近代美術館工芸館名品展とかなり傾向が重複している。
 また、樂焼などは2010年の作まで展示されている。

 「漆芸・木工」はすべて別の作家によるもので16点。
 「源氏物語蒔絵飾棚」は、贅を尽くした豪奢な棚だが、この展示方法では天板が見えない。鏡を活用するなど、なんとか方法がなかったのか。

 工芸では「染織」のみ、前期・後期で作品が入れ替わる。
 このセクションでハッとさせられたのは、たとえば山鹿清華の「手織錦壁掛清晏舫図ておりにしきかべかけせいあんほうず」や作者不詳の「桜に孔雀図刺繍壁掛」などは
「こういうものも美術だ」
と誰かが気づかないと、収集の網に引っかからないのだ。

 ちなみに、山鹿清華のタペストリーの両側に書かれた文字は次の通り(正字は新字に改めた)。

実作無疆万年錦茅禄
天顔有喜四海花蕃甃

 全体を通して、作品タイトルや解説文に、正字と新字が混在しているところが散見されるのが気になったが、作者の意向でもあるのだろうか。


 長くなってきたので、いちばん書きたかったことは、次の項に回します。


2018年9月29日(土)~10月21日(日):前期
   10月24日(水)~11月14日(水):後期
午前9時半~午後5時、会期中無休
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)

□公式サイト https://www.stv.jp/event/kyokimbi/index.html
□京都国立近代美術館 http://www.momak.go.jp/

一般1100円、高大生600円、中学生400円 ※小学生以下無料(要保護者同伴)




・中央バス、ジェイアール北海道バス「道立近代美術館前」で降車すぐ
(小樽、手稲方面行きは、都市間高速バスを含め全便が停車します)
・地下鉄東西線「西18丁目」4番出口から400メートル、徒歩6分

・市電「西15丁目」から700メートル、徒歩10分


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