なぜここに時間と情熱をかけるのだろうか。
最近亡くなった友人の所用で、乗ったことのない地下鉄線に乗る機
会がたびたびあった。夜であったり、満員で外を見られなかったりで
気が付かなかった壁のいたずら。近代美術館が改築中,分室のあっ
たコンテンポラリー アート センター P.S.1 のある地下鉄駅、高架線
が交わるところだ。そのスケールの大きいこと!街のくかく、1ブロッ
ク一杯の町工場の壁。地下鉄の窓からのぞいたのが面白くて早速
現場に行ってみた。
このエネルギーは一体何なのだろう。社会から拒絶された人たち
の寂しいやり場のないエネルギーにも思える。上手,下手ではなく壁
に喰い入り描き込んだエネルギーが伝わってくる。発想を変えれば
この人たちから何かをしでかすであろう地底から沸騰するエネルギー
を感じる。無料のキャンバスと無料の人材が群がる巨大パノラマ絵
画? 日本人の血にはない発想だ。
ビルの外側には5階まで火災用階段が付いていて自由に登れる。
私も登ってみた。
バックにはクイーズボローブリッジ、その横にクライスラービル、マン
ハッタンの摩天楼がそびえている。
目前にみるニューヨークらしい表と裏,質の違う人間の生きる競争だ。
若者たちのやり場のない創作の発露を伸ばし、NYにツーリストが
集まれば、それも市に還元される。ペンキは市の援助。ここにはもう
描く隙間がないけれど誰でも参加できる。爆発するニューヨークの若
者たちのエネルギーを利用する市の企画であり、奨励のひとつにな
っている。