ひとこと・ふたこと・時どき多言(たこと)

〈ゴマメのばーば〉の、日々訪れる想い・あれこれ

『肉まん』と、やさしさ と。

2015-03-16 06:51:27 | 日記
どんなやさしさであっても、
「やさしさのかたち」の一つに触れることは心地よいものです。
そんなやさしさの一つに出会いました。

先日、JR駅前からバスに乗りました。
と、発車間際に一人の青年が乗りこんできたのです。
そして、Dバッグをドサッと床に置くやいなや「肉まん」を食べ始めました。
買ってすぐのアツアツなのでしょう、車内は、「肉まん」のにおいが充満。
悪臭とはいえませんが、できれば車内では嗅ぎたくないにおいでした。
スマホをいじりながら食べています。
「肉まん」の次はアイスバー。
床にこぼさないだろうか………私は、少し非難めいた意地悪な視線で眺めていました。
小さな子どもでもあるまいし、“もう、いい大人だろうが”と。

あるバス停に、高齢の男性がバスを待っていました。
おじいちゃんです。
バスのドアーが開きましたが、なかなか乗りこみません。

と、「肉まん」の青年が、つっと立ち上がり、乗車口へ行ったのです。
スマホを いじっていながら よく気づいたものです。
おじいちゃんは、何やら平べったい箱の様なものを抱えていて、乗車口のステップに
足をかけられないでいたのでした。
青年は、その箱を、自分が持ってやりました。
でも、おじいちゃんは、やっぱり乗れません。

青年は自席に箱を置き、おじいちゃんに手を差し伸べて、ステップを昇らせたのです。
空いている席に おじいちゃんを掛けさせ、その膝に箱を持たせました。
言葉もなく、たんたんと。
一連の作業のように。

バスが発車。
おじいちゃんは、青年に黙礼。
青年は黙礼に応えることもなく、またスマホへ。

何ごともなかったようにバスは走り続け、
何ごともなかったように、青年は、スマホを操作し続け、
何ごともなかったように、青年は、バスを降りて行きました。

私は青年の後姿へ、心の中で
“ありがとう”
を、言いました。

そして、吉野弘さんの詩『夕焼け』を思い出しました。
  夕方、満員電車に乗った娘が、としよりに席をゆずったのです。
  何回も、何回も席をゆずった娘は、電車で立ち続けます。
  《美しい夕焼けもみないで》
  《下唇をキュッと噛んで》


  『夕焼け』
                  吉野弘
  《………略………
  やさしい心の持ち主は、
  他人のつらさを自分のつらさのように
  かんじるから。
  やさしい心に責められながら
  娘はどこまでゆけるだろう。
  下唇を噛んで
  つらい気持で
  美しい夕焼けも見ないで。》

何ごともなかった様子で、スマホに目をやったままバスを降りて行った あの青年の目、
心の目は、きっと、やさしい眼差しだったのでしょう。
                                    〈ゴマメのばーば〉
コメント (4)
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