ひとこと・ふたこと・時どき多言(たこと)

〈ゴマメのばーば〉の、日々訪れる想い・あれこれ

『からすよ、二度と、海をこえるな』

2015-03-10 06:27:08 | 日記
児童文学作家の松谷みよ子さんが亡くなられました。
残念です。
私の好きな作家の一人です。
「ちいさいモモちゃん」
「ふたりのイーダ」
「龍の子太郎」
その他、たくさん楽しませていただきました。

そして、『現代民話考』全12巻からは、たくさん学ぶことができたのです。
心からの追悼と感謝を込めて、
『ぼうさまになったからす』
を、紹介させていただきます。

   『ぼうさまになったからす』
                      (松谷みよ子 文・司修 絵)

   すこしむかし、からすがたくさんいる村があった。
   山にも、たんぼにも、りんごえんにも、そりゃぁいっぱいからすがいた。
   ある年、戦争がおこった。
   戦争は何年もつづき、村の男たちは戦いに出ていった。
   出ていった男たちは、つぎつぎと死んでいった。
   海のむこうの大陸で、南の島で。

   ある日、村のひとが、ふと気がついたら あれほどいた からすがいない。
   りんごえんにも たんぼにも一羽もいない。
   どこへいっちまっただ からすは―――。
   すると、ひとりのばあさまがいうた。
   おらぁしってるだ。からすは おとむらいにいっただよ、海をこえてなあ。

   え、おとむらいに?
   ああよ。からすは ぼうさまになって、おとむらいにいっただよ。
   おらのむすこのところへ、たしかにいっただよ。
   おまえのていしゅのところへも。
   おまえのあにさのところへも―――。
   むすこが死んでも、なみだぁだせねえ、ていしゅが死んでも、なみだぁだせねえ、
   おらたちのかわりに、からすは いってくれただよ。
   ひとつひとつのおはかに、おきょうをあげてくれただよ。

   いま、その村のりんごえんに、たんぼに、からすはむかしのように、むれている。
   せんそうが、おわったから―――。

   からすよ、二度と、海をこえるな。

松谷みよ子さんは、信州上田へ民話採訪に行った際、上田の図書館長さんから 
この話を聞いて、絵本にまとめたそうです。
松谷みよ子さんの多くの著書から、私は、ものがたりでしか語れない「真実」について、
たくさん教えられました。

NHK朝ドラ『マッサン』では、一馬の出征を、涙の「蛍の光」で送り出しましたが、
当時は、あんなことをしたら、「非国民」として糾弾されたと思います。
それに、夫や、息子の戦死が伝えられても、人さまの前では泣けませんでした。

『からすよ、二度と、海をこえるな』
は、松谷みよ子さんの願いでもあり、祈りでもあったことでしょう。

憲法9条が、危ぶまれる昨今の政情です。
『からすよ、二度と、海をこえるな』
は、私の祈りでもあるのです。
                                    〈ゴマメのばーば〉
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする