朝顔

日々の見聞からトンガったことを探して、できるだけ丸く書いてみたいと思います。

ダブルクロス

2013-12-30 | もろもろの事
特定秘密保護法なる法律の審議を巡って国会で大きな議論になりました。特にほとんど全ての新聞社や多くのテレビコメンテータが、反対の意見を述べていました。

そんな時期に、ある書評欄が目に止まってこの本を読んでみました。



ベン・マッキンタイアー「英国二重スパイ・システム」(中央公論社)
ーノルマンディー上陸を支えた欺瞞作戦

DOUBLE CROSS: The True Story of the D-Day Spies

”上陸地点はどこだ?”
ヒトラーの目をそらすべく、偽ナチ・スパイたちが織り上げた壮大な嘘のタペストリー


英国の公文書館などの歴史的資料に基づいたドキュメンタリーです。

戦後、数十年を経て秘密解除された文書や写真に、実名で二重スパイの人たちの行動が解き明かされています。

そのスパイシステムを立案し実行した「ター」ことトミー・アーガイル・ロバートソン。英国諜報機関MI5の係官でした。

ダブルスパイたちは、例えば、セルビア人のプレイボーイ、養鶏学学位を持つスペイン人、両性愛者のペール-人女性、熱狂的なポーランド愛国者、愛犬家のフランス人女性など。



当時、米国の国内防諜に協力するためにMI5が送り込んだスパイは、FBIに冷淡に扱われますが、時の経過とともにFBIも見習って二重スパイの活用を検討するようになります。

ナチスが占領したフランス、スペイン、ポーランド、ユーゴスラビア(セルビア)など多彩な民族と政治が背景に在ります。

本の中で度々触れていますが、連合軍が欧州に上陸する可能性のある海岸が複数あり、敵の防衛体制の裏をかくことができれば、将兵の損害を数千、数万人も少なくすることができます。

実際、ノルマンディ上陸は陽動作戦であって、本命は海峡の幅が狭いカレーだと最後までナチスが信じたので大部隊の救援移動ができなかったのです。

スパイたちの動機は様々です。愛国主義、金銭、あるいは独善。

007のような殺人を許可されたスパイは登場しません。ただし、二重スパイと疑われると、ナチのゲシュタポに逮捕されて尋問や拷問、拘禁、さらには処刑されてしまいます。

上の写真の左上にあるのは英国の秘密の暗号解読所の室内です。スパイからの連絡や偽情報の流布状況は、ドイツ軍が発信した無線の暗号がすでに解読されていたので確認をとることができました。


(右下写真、ヒトラー(右)に信任状を提出する大島日本大使(左))

また、日本外務省の暗号も解読されていました。

皮肉なことにヒトラーの信頼が厚く常に身近でドイツの機密情報に接していた在ベルリン日本大使の大島浩が日本外務省に報告した暗号電報もすべて英国に読まれていたと記録されています。その上質な機密情報は、英国と米国で共有されていて、ノルマンディー作戦の最終決定に反映されています。

大島の報告書類は日本側には残されていないとのこと。終戦時の文書処理ですべて焼却されたのでしょう。

とても興味深い本です。

歴史の検証に耐えるため、公文書や税金の使途証拠などの資料は必ず保存する必要があります。


写真の出典:「英国二重スパイ・システム」
コメント
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