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寺田徳MSCI特別顧問、GPIFの年金運用を激烈批判-「異常な国内投資偏重」と

2008-11-10 | 株式・為替マーケット全般
素晴らしい論考を発見しました。

GPIFの運用は超低利回りの日本国債が資産の7割近くという
とんでもないポートフォリオになっています。
これでは国民が委託した大切な資産が眠りこけているようなものです。
機会損失の責任追求が当然なされるべきではないでしょうか。

外債と外国株の比率を上げなければリターンは伸びません。
リスクを抑制したければ外債のウエイトを高めれば済む話です。
この国内資産偏重を誰も不思議に思っていないのだろうかと
私は前々から疑問に思っていたのですが、
やはり同様の視点で捉えている方がいらっしゃいました。

GPIFの運用は「常軌を逸した前提」寺田徳MSCI特別顧問(日経ヴェリタスonline)
http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MS3Z07033%2010112008

”2006年3月まで約5年間、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)
 の投資専門委員を務めた寺田徳MSCI特別顧問は、現状のGPIFの運
 用手法に極めて批判的。その論拠を聞いた。
 ――GPIFの運用の問題点は何ですか。
 そもそも基本ポートフォリオの決め方が間違っています。現代投資理論で
 は、個々の投資家の最適のポートフォリオを2つの要素で決めます。1つ
 が実現可能なリスクとリターンの組み合わせである「有効フロンティア」。
 ハイリスクならハイリターン、ローリスクならローリターンになる。もう
 1つが「効用曲線」。こちらは個々の投資家のリスク許容度を示す。双方
 が均衡する点が最適なポートフォリオになります。
 GPIFは後者の効用曲線の代わりに「シャープ・レシオ」という指標を
 使っています。これは各市場の過去の収益実績と短期金利の水準で一義的
 に決まるもので、リスク許容度を反映する余地がありません。個人投資家
 でさえ、自分の取れるリスクに応じて株式投資の量を調整するでしょう。
 公的年金はそれさえしていない。明らかに投資理論の誤用です。
 ――国債偏重と言われるポートフォリオのバランスについてはどう考えま
 すか。

 国内債が7割という結論が出るのは「有効フロンティア」を出すのに常軌
 を逸した前提を置いているからです。有効フロンティアは株式や債券など
 各資産の期待リターンとリスクのバランスで決まりますが、GPIFは国
 内債の期待リターンを3%と置いている。長期金利が1%台の国ではあり
 得ないリターンだし、民間の運用機関の前提と比べて異常な数字です


 ――国内資産の比率も8割と海外の公的年金に比べて高いです。
 いわゆるホームカントリーバイアス(自国投資偏重)が非常に高い。現在
 は日本株比率が11%、海外株が9%となっていますが、代表的な世界の株
 価指数のウエートでは日本は1割弱しかない。どの国でも年金基金の運用
 は自国資産に偏りがちですが、例えば昨年からカリフォルニア州職員退職
 年金基金(カルパース)が市場平均並みの組み入れ比率に転換するなどホ
 ームカントリーバイアスを下げようと努力しています。
 資産別の分散投資も十分ではない。国内外の株と債券では4種類しかなく、
 オルタナティブ(代替投資)やインフレ資産の組み入れなどが進んでいる
 海外の最新の流れに取り残されています。10年前と変わらぬ運用は海外の
 大きな年金では例を見ない旧態依然さです。
 ――先進的な手法の採用にGPIFは慎重です。
 運用の世界は革新が早く、海外年金は絶えず変化にチャレンジしています。
 でも、日本では年金を預かっているのは運用のプロではなく、前例踏襲主
 義の役人です
。彼らの優先事項は組織の利益であって、受益者の利益を守
 るという発想がそもそもない。社会保険庁と全く同じです。厚労省の役人
 に運用の専門家としての能力がないのは誰の目にも明らかです。運用担当
 部門の長を2年のローテーションで役人が務めると話すと、海外年金関係
 者は「信じられない」とびっくりしますよ。でも、それが現実です。
 ――GPIFも中途採用や運用委員会のメンバー入れ替えなどで専門性を
 高めています。

 理事長、理事などボードメンバーが専門家でなければ使いこなせません。
 世界で最良の体制を持つと評価されるカナダの公的年金では、財務大臣か
 ら任命された独立性の高い理事会メンバーが運用の基本的な方針を決め、
 実務はプロ集団である執行部門に任せている。理事会はその監視に当たっ
 ています。GPIFの運用委員会は受託者責任も負っておらず、厚労省や
 GPIFの意思決定を追認するだけの機関です。委員もすべてが必ずしも
 運用の専門家ではない。投資専門委員として在籍中に内部から見た経験で
 も、事務方の根回しで異論や反対論が押さえ込まれてしまうケースは少な
 くありませんでした。
 ――運用のプロを雇うと、コストが高くついたり、出身母体に便宜を図っ
 たりといった利益相反が起きませんか。

 コストをかけないといい運用はできません。人材確保で民間と競合する以
 上、ある程度の報酬は必要です。でも、必ずしもとんでもない高給はいら
 ない。「公的年金で責任あるポジションにいた」というのはキャリア形成
 になるからです。利益相反の問題はもっと透明性を高めれば難なく回避で
 きる。
議事録を実名ですべて公開すれば、おかしなことはできない。匿名
 で運用委員会の議事要旨を開示している現状の方が問題です。”

 → 組織内にいらっしゃった方なので、
   詳しい内情が紹介されています。
   「やはりそうか」と思わせる指摘が随所に出てきますね。

   公的年金運用は絶対に改革が必要です。
   今回の記事で確信しました。

「積立ではなく賦課」川瀬隆弘GPIF理事長(日経ヴェリタスonline)
http://veritas.nikkei.co.jp/features/12.aspx?id=MS3Z1500C%2007112008

”老後の生活を所得面から支える公的年金制度。年金積立金管理運用独立行
 政法人(GPIF)の川瀬隆弘理事長に運用方針を聞いた。
 ――GPIFの使命と運用の基本的な考え方を教えてください。
 公的年金の積立金運用は私たちが担っていますが、資産運用をどうするか
 を私たちが独立して勝手に考えてやっているわけではありません。積立金
 運用は年金財政の重要な一環です。2004年の年金制度改革は100年均衡を
 うたい、今後100年間の年金財政を設計しました。保険料率については、
 (月々の標準報酬とボーナスの)18.3%(半分は会社負担)が上限。しか
 も100年後の年金額が現役世帯の手取り年収の50%を上回らなければなり
 ません。
 そのときに年金積立金に期待される役割は2つです。まず、年金積立金
 はそんなにたくさん要らないだろうということです。04年当時は約5年
 分の給付額に相当する積立金を持っていましたが、これを1年分ぐらい
 まで取り崩します。もう1つはこの間に名目賃金上昇率プラス1.1%の
 利回りをターゲットに積立金を運用するということです。これをなるべ
 く小さなリスクで達成することが求められています。
 ――「諸外国の公的年金運用組織に比べて運用が下手だ」という批判が
 あります。

 海外基金との差は主として自国金利水準の差と運用方針の違いという2
 つによるものです。運用が下手だというのは、例えばカリフォルニア州
 職員退職年金基金(カルパース)やカナダの公的年金が2ケタの収益を
 上げているのに対してGPIFが5%ぐらいだ、ということを指してい
 るのでしょう。運用利回りが違う理由は大きく3つあります。1つはそ
 の通貨のベースとなる金利です。どこの国の年金でも運用対象は、基本
 的にはその国の債券がかなりの割合を占めます。2つ目は為替レート。
 外国資産の評価は通貨高か通貨安かで左右されます。3番目が株式比率
 です。
 例えば過去5年間で、カルパースやカナダは平均十数%の利回りを上げ
 ています。GPIFは03~07年度の市場運用分で年率が5.7%です。も
 しも日本債券がカナダと同じような金利だったらどうか。カナダの国債
 は5年間で年6%強、国内債券の比率が60%強ですから3%強の金利が
 出ます。
 もう1つは株式比率です。GPIFは20%強ですが、彼らは50%ぐらい
 です。ベースとなる国内債券の金利だけではどこの国もなかなか目標に
 達しないので、リスクは高くてももう少し利回りがいい株式でも運用す
 る。目標金利が債券金利に比べて高いほど株式の比率が高くなる。した
 がって、リスク、つまり収益の振れが大きくなる。
 ノルウェーは株式の保有比率を60%に引き上げる過程にあり現在5割弱
 です。そのため、07年4月~08年3月の収益率は2ケタのマイナスとな
 ったようです。カルパースも年間2割を超えるマイナスと報道されてい
 る。それに対しGPIFは6.1%のマイナスです。
 〔中略〕
 ――GPIF批判の背景には「納めた年金保険料は受取時までGPIF
 に積み立てられ、受け取る年金額は運用の結果により決まる」といった
 「過大な」期待もあるように思います。

 積立方式を考えられているのであればそれは誤解です。誤解をGPIF
 が解くのか、厚生労働省が解くのか。(現役世代が納めた保険料を積み
 立てずにそのまま給付に回す)賦課方式ですよ、ということは政府の方
 が説くべきではないか。GPIFもディスクロージャー(情報開示)資
 料を作って、その中で賦課方式と積立方式ということも書いてはいます
 が、基本的なことは年金制度の説明だと思います。
 運用がうまくいけば将来の財政にプラスだというのは誤解とは言えませ
 ん。もちろん我々の運用が賃金上昇率プラス1.1%ではなく、例えばプ
 ラス5%といった水準を期待して、それがうまくいけばいいのですが、
 その代わりに市場がマイナスに振れたときにどうするか、という問題を
 考えておかなければなりません。
 世代間格差も年金制度の設計の問題です。現役世代の保険料の上げ方を
 どうするか、といった話は制度設計の問題で、運用の問題ではありませ
 ん。”

賢いお役人さん、という印象ですね。
処世術としては参考になりますが、
何か大きな改革を実施する際には頼りにできないでしょう。

ついでに指摘させて頂くと、
日本の公的年金は積立方式でも賦課方式でもありません。
払った以上に大盤振る舞いする「バラまき方式」です。




『年金問題の正しい考え方―福祉国家は持続可か』(盛山和夫,中央公論新社)

野口悠紀雄 教授も全く同じように
年金制度設計のいい加減さを指摘されています。
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