宅配が届いた。甲州に住む古い友人・Tから。入っていたのは野菜。白菜、大根、菜花、柿、蜜柑、唐辛子。それに、ほうとうや甲州ワインも添えてある。いや、これはすごい。今夜、鍋でもしようかといって買い物に出たカミサンに、こんなものが入っていたとメールをする。
「うわあ!」という返信が来た。
早速、Tに御礼のメールを書く。
***
Tさま/今荷物を受け取り、驚いています。まるで、実家の親から東京に出ている息子に送ってくるような品々。あなたのお気遣いが籠もっていて、うれしくも恐縮しています。ありがとうございました。/先ごろあなたが「体不調が続いている」とおっしゃっていて、そうだよ、私たちはそういう歳になったのだと相づちを打っておりました。でも、未だあなたは、このような野菜を作っておられるのですね。これはすごい。動かなくなれば動けなくなるというお手本のように心に響いてきます。/うちのカミサンの義兄が亡くなったり、私の叔父が亡くなったりと、訃報続きの今年でした。たぶんこの後は、もっと頻繁に、私やカミサンの兄弟やその連れ合い、長命な叔父や叔母の訃報に接することになりそうです。ひょっとすると私の方が先かも。/でも、そうやって、私たち自身も、一步一步彼岸に向かっているのだと痛感しています。覚悟が決まるものではありませんが、それを寂しいとか悲しいと思う心持ちは、なくなっています。そういうものだ、ある種の必然、成るべくしてなること。そう坦々と受け容れる用意を、まわりとの遣り取りが整えてくれるように感じます。/ありがとうございました。こういうかたちで、あなたの元気な気配を感じることができて、とても嬉しく思います。/奥様にもよろしくお伝え下さい。/お元気で。頑張って八十路を歩んでいきましょう。 F
彼から返信メールが来た。
***
Fさん/無事にお遍路からお帰りですね。かた時も休まず修行や思考にいそしんでおられる姿に感心しきりです。お忙しい中、早々にメールを頂き恐縮です。/突然、重いだけの物をお送りつけてビックリなさったことでしょう。申し訳ありません。出版のお祝いに何かと考えていましたが思い当たらず、ついにこんな物になってしまいました。/自分が育てた作物です。白菜は8月に種を蒔きやっと結球してくれました。柿は御所柿という品種。子供の頃に土蔵の屋根に上って取った記憶がありますから樹齢は100年超。収穫時期はもっと早いのに白菜の結球が遅れ、気をもみました。大根や菜っ葉は私が日常に食べているもので、虫の食べ残しです。ナスが取れるときはナスばかり、キュウリの取れるときはキュウリばかり、その時々の野菜ばかり食べています。これではキリギリスになってしまうと夫婦で笑っています。そんな私の生活の一端を知って頂ければ、幸いです。大根の葉など不要なものは捨てて下さい。(本当は葉の方が美味しいのですが。)/体調は相変わらずで、医者通いが増えています。かかりつけ医からは、この歳なら仕方ないこと、クオリティ・オブ・ライフ(quality of life)が大事だから、様子を見ながら過ごそうと言われています。一日一日出来ることをやろうと思っています。/桜も柿も葉を落としました。これから枝切りなど冬の仕事の始まりです。梯子や脚立から落ちないように用心しながら、やらなければと思っています。心配でもあり楽しみです。/各方面での益々のご活躍をお祈りしています。田中
***
今、さらなる返信を考えている。まず、急がない。隔週に一便ずつくらいかな、それとも月に一便くらいかな。距離感が取れないと、煩わしい。間延びが過ぎて、忘れられるくらいがちょうどいいのかも知れない。そんなことを思いながら、柿の木を剪定しようとして枝が折れて入院したという90歳を越える田舎の義兄のことを思い出している。
「うわあ!」という返信が来た。
早速、Tに御礼のメールを書く。
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Tさま/今荷物を受け取り、驚いています。まるで、実家の親から東京に出ている息子に送ってくるような品々。あなたのお気遣いが籠もっていて、うれしくも恐縮しています。ありがとうございました。/先ごろあなたが「体不調が続いている」とおっしゃっていて、そうだよ、私たちはそういう歳になったのだと相づちを打っておりました。でも、未だあなたは、このような野菜を作っておられるのですね。これはすごい。動かなくなれば動けなくなるというお手本のように心に響いてきます。/うちのカミサンの義兄が亡くなったり、私の叔父が亡くなったりと、訃報続きの今年でした。たぶんこの後は、もっと頻繁に、私やカミサンの兄弟やその連れ合い、長命な叔父や叔母の訃報に接することになりそうです。ひょっとすると私の方が先かも。/でも、そうやって、私たち自身も、一步一步彼岸に向かっているのだと痛感しています。覚悟が決まるものではありませんが、それを寂しいとか悲しいと思う心持ちは、なくなっています。そういうものだ、ある種の必然、成るべくしてなること。そう坦々と受け容れる用意を、まわりとの遣り取りが整えてくれるように感じます。/ありがとうございました。こういうかたちで、あなたの元気な気配を感じることができて、とても嬉しく思います。/奥様にもよろしくお伝え下さい。/お元気で。頑張って八十路を歩んでいきましょう。 F
彼から返信メールが来た。
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Fさん/無事にお遍路からお帰りですね。かた時も休まず修行や思考にいそしんでおられる姿に感心しきりです。お忙しい中、早々にメールを頂き恐縮です。/突然、重いだけの物をお送りつけてビックリなさったことでしょう。申し訳ありません。出版のお祝いに何かと考えていましたが思い当たらず、ついにこんな物になってしまいました。/自分が育てた作物です。白菜は8月に種を蒔きやっと結球してくれました。柿は御所柿という品種。子供の頃に土蔵の屋根に上って取った記憶がありますから樹齢は100年超。収穫時期はもっと早いのに白菜の結球が遅れ、気をもみました。大根や菜っ葉は私が日常に食べているもので、虫の食べ残しです。ナスが取れるときはナスばかり、キュウリの取れるときはキュウリばかり、その時々の野菜ばかり食べています。これではキリギリスになってしまうと夫婦で笑っています。そんな私の生活の一端を知って頂ければ、幸いです。大根の葉など不要なものは捨てて下さい。(本当は葉の方が美味しいのですが。)/体調は相変わらずで、医者通いが増えています。かかりつけ医からは、この歳なら仕方ないこと、クオリティ・オブ・ライフ(quality of life)が大事だから、様子を見ながら過ごそうと言われています。一日一日出来ることをやろうと思っています。/桜も柿も葉を落としました。これから枝切りなど冬の仕事の始まりです。梯子や脚立から落ちないように用心しながら、やらなければと思っています。心配でもあり楽しみです。/各方面での益々のご活躍をお祈りしています。田中
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今、さらなる返信を考えている。まず、急がない。隔週に一便ずつくらいかな、それとも月に一便くらいかな。距離感が取れないと、煩わしい。間延びが過ぎて、忘れられるくらいがちょうどいいのかも知れない。そんなことを思いながら、柿の木を剪定しようとして枝が折れて入院したという90歳を越える田舎の義兄のことを思い出している。