mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

米中戦わば

2023-05-28 09:11:13 | 日記
 社会学や政治哲学を専門とする橋爪大三郎が、その著書『中国vsアメリカ』(河出新書、2020年)で、米中のf軍事衝突を想定している。珍しいことだ。その主張する要点は次の②点だ。
(1)米中軍事衝突は避けられない。
(2)今は互角。台湾近海では中国が優位。あと何年かすれば中国の軍事力がアメリカを凌ぐ。
(3)米中の軍事衝突の大義には、現在のところ双方ともに優劣はない。
(4)だがもし、南沙諸島海域における中国の横暴な進出をアメリカが抑えることとなれば、それは国際条約を無視して強行している中国に理はない。上記にアメリカが仕掛ければ、現段階では中国は引き下がるしかない。
(5)上記(4)の報復として中国が台湾に武力攻撃を仕掛ければ、国際世論はアメリカに理があるとして、その支持が増えるであろう。
 (1)が必須だとして軍事的な力の差異と衝突の形を検討し、勢力均衡の要素として「国際世論」の支持を取り付けるにふさわしい「大義」を手に入れる手立てを講じんがために(5)を「提案」するという大胆な論考は橋爪の類書に見ないものである。しかも、軍事力を比較考察する際に、全くズブの素人である橋爪が、自身が一つひとつ納得するように、戦艦と空母と巡洋艦と駆逐艦と制空権と船団戦略と上陸作戦などを、まさに素人が納得するプロセスを踏んで記していく。それこそ、知識人として高みから解説するというのではなく、物書きとしての当事者性をもって軍事衝突を語る土台を作っていくように見えて、好感する。ミサイルや核に対する見て取り方も、読むものの肌合いに照らして相応の響きを持つ。
 そして実は、日本がどのような立ち位置に置かれるかを(読者である)私は問われていると感じる。橋爪自身は、日米の枠組みから考えるのが最も必要で、24時間以内に相応事態に反応するしか道はないと日本政治の弱点を見通して進言する。状況の推移と周辺国の様子をうかがって重い腰を上げる「日本政治の弱点」こそが、国際的な信用を失墜させる行為であると、告げているようである。この当事者性の明快さが、従前から彼が展開してきた政治哲学と社会観察の的確さを読んできた者にとっては、腑に落ちる所論だと思う。
 それと同時に、目下のウクライナの成り行きがすでに東アジアにおける緊張の開始を告げる警鐘のように響いてくる。この日々刻々変わる情勢に振り回されないためには、借用した漢字を表記法として用いて、ひらがな、カタカナにまで変貌させ、共用することにした日本語のエクリチュールの由来と、近代的な知恵知識の多くを、もっぱら西欧に学んだ由来径庭の混在という日本文化の来歴を意識的に踏まえなければならないと、我が身の記憶が訴えている。橋爪はそれらを知識人として探求してきて、現在地にある。私は門前の小僧として聞きかじり、耳学問として集積し、いつしか私の無意識に堆積してきただけの市井の老爺である。同列に居並ぶわけには行かない。やはり我が身の経験的に習いとしてきたことを疑いつつ、自問自答してその根拠を問い、橋爪のようには走れないけれども、一歩ずつ歩むしかない。
 そう。走るな、歩け。なにかに間に合わなくても、慌てるな。だって先は、もう見えているんだからさ。