mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

畦が丸、晴れ模様が何よりのごちそう

2014-10-29 15:04:23 | 日記

 海老名JCTから東名高速に入って大井松田方面へ向かっていると、進行方向真正面の見上げる位置に、富士山が姿を現す。8合目から上を雪に覆われた端正な山のかたちを青空に浮かべて、今日の山歩きが好調に運ぶことを感じさせる。今日は西丹沢の畦が丸山に登る。

 

 これまで東名高速沿いの山へ向かうのは、一苦労であった。首都高速を使って東名用賀入口へ行かねばならない。6時を過ぎると首都高速は大変な渋滞になる。ところが圏央道が東名高速とつながったお蔭で、都内を通らないで済む。圏央道川島ICから入り海老名JCTで東名に合流、大井松田ICを出るまで約1時間。モンダイになっていた高尾山をくぐる、いくつもの長いトンネル。そうして、一挙に山と高速道路の回廊から解かれて立ち並ぶ厚木の街並みが目に入る。

 

 高速を降りるとしばらくは国道1号線を走る。朝の通勤渋滞。車間を気にせずマイペースで走る前の車にちょっといらいらする。だが、信号のところではきっちり渋滞らしく連なっているから、案外、ワケを知ったツウなのかもしれない。国道を外れて山へと向かう。「中川温泉・丹沢湖」と書いた標識がガイドしてくれる。中川温泉の「ぶなの湯」をみておく。町営の日帰り温泉。11月の山行のときに皆さんを案内して来ようと思っていた。ところが、水曜日は定休日。山行当日は別の温泉にしなければならない。

 

 途中、今日の下山口に自転車をおいて、西丹沢自然教室という地名の登山口に着く。すでに10台くらいの車が止まっている。ビジターセンターにはボランティアらしい係員がいる。受付に「登山届」を提出して、話しを聞く。「丹沢山系のヒル」が常識のように私は思っていたが、係員の話では丹沢の東の方だけらしい。シカはいるがヒルは梅雨時も夏も出ないそうだ。「ぜひキャンプなど、遊びに来てください」と紅葉以外もいいと力説する。

 

 西沢に沿って登りはじめる。9時5分。標高530m。紅葉ははじまったばかりと感じながら、吊り橋を渡る。すぐに沢の石を踏み、樹林の中をたどる。沢の渡渉には木を組んだ橋が架けられている。踏み跡もしっかりついている。踏路を外すことはない。今日の相棒、Kさんが先行する。右から支沢が流れ込んでいるところが、権現山への分岐である。35分。コースタイムより少し早い。

 

 西沢から離れる標高750m辺りからジグザグの急登になる。足元に咲く花が目につく。あとで調べたら、オミナエシ、ノコンギク、ヨメナの仲間、イワシャジン、オヤマリンドウ、エゾリンドウなど、秋の花々がけっこう咲いている。

 

 スギの木に50センチおきに3本紐を巻き、その末端をだらりと垂らしている。Kさんはシカ避けではないかという。似たようにして、ビニールひもを巻き付けたのを、見たことがあるそうだ。シカが角で木の皮をむくときに引っかかるので敬遠するのだろうか。紐ではなく、幅5センチくらいの目の小さい網を50センチ間隔で巻き付けてある木もある。これもシカ避けだろうか。もしこれで効果があるなら、シカ柵を設ける費用と面倒が大幅に減るではないか。標高の低いところの途中、「試験観察中」と記したカードを張った金網の柵をみた。そこそこの大きさ。シカの食害などをみるための柵のようだ。もうすでに、柵の中と外の植生には違いが目立つ。外はあまり草が生えていないのに、柵の中は青々として密生していた。まとめて締め出すのと、木々の一本ずつにひもを巻くのと、手間と暇を考えると、どちらが効率的かは分からないが、下草のことまで考えると、シカ柵も効果があると言えそうだ。神奈川県が懸命なのは伝わってくる。

 

 上から熊鈴の音が響く。一人先行者がいる。標高1000mほどの地点でこの方を追い越した。ここまで来ると、山が紅葉しているのがはっきりする。木々の間から見える向こうの山肌も、赤や黄色の葉が緑の中に点在し、陽が当たるとぱあっと際立つ。錦秋ということばが思い浮かぶ。「善六のタワ」と地図に表示しているところが、はっきりしない。「タワ」というから尾根のたわんでいるところであろう。標高1050mほどの、この地点であろうか。

 

 標高1148mの高台地で11時。早いがお昼にする。Kさんが「足のリズムがうまく合わない」という。どうしたのだろう。彼は山岳マラソンや鉄人レースなどをやって来たアスリート。73歳とは言え、身体の調子は一つひとつ手に取るように感じとる力をもっている。その人の「表現」だから気になる。西の方には雲が出てきている。富士山は見えない。追い越した男の人が「お先に」と言って通り過ぎる。しばらくして50年配の女性の単独行者が登ってくる。「大滝橋へ降りる」という。私たちと同じルートだ。

 

 出発する。11時25分。「畦が丸まで0.8km」。標高差は150m。30分と行程を読む。尾根筋の散策、サクラやウルシ、ハウチワカエデ、ミネカエデ、イタヤカエデがそれぞれ単独で色を鮮やかに見せる。ミズナラが背景を彩るように茶褐色に変わっている。でもまだ緑のまんまのカエデ類も多い。これからが紅葉の本番になるのであろう。

 

 11時55分、畦が丸山頂1292m。山名標識と広いベンチひとつを置いてある。先行した男性が食事をしている。「バスに乗っていなかったが、どうやって来たのか」と私たちに聞く。彼は新松田駅から1時間10分かかるバスに乗って来たという。下山してからのバス便の少なさを心配している。ジ、ジ、ジとコゲラのなく声が聞こえる。おやどこだろうと見上げる。「鳥の声が分かるんですね。(そうなると山歩きも)面白いでしょうね」と彼は言葉を添える。50代女性はさらに先へ行ったのであろう。

 

 ストックを出して下山にかかる。12時5分。すぐ下に避難小屋がある。中を覗いてみる。大きなストーブが据えられていて、板敷は清潔だ。毛布が3枚、マットレスが1枚。トイレも備わっていて、紙は持ち帰るようにと注意書きが張り付けてある。神奈川県が管理しているようだが、よく整備されている。下りはそれほど難儀する道ではない。調子よく下る。東海道自然歩道の一部になっている。30分で大滝峠上に着く。標高1010m。コースタイムより15分も早い。Kさんは「下りだから」というが、コースタイムだって下りだ。

 

 そこから標高800m地点の一軒屋避難小屋までは谷に沿って尾根の山体を緩やかに斜行する。小さな落ち葉がふかふかするような気持ちのいい道になっている。大きな枯葉が何枚も落ちている。ハリギリだとKさんがいう。見上げてみるが、ハリギリ特有の彫りの深い木肌が見つからない。と、すぐ脇にハリギリの小さな幼木が大きな葉を何枚か残して立っている。幼木は、なめらかな木肌に何本もの棘を出して身を護っているようだ。ホウノキの大きな葉も落ちている。やがて標高が低くなると、紅葉よりは、まだ緑緑した木の葉が目につく。

 

 一軒屋避難小屋もまた、よく整備されている。ストーブもトイレもないが、身体を休めるには十分な空間と設備がある。でも、この山でどんな時にこれを利用するだろうか。ここから1時間で、バス通りに降りる。道は悪くない。沢沿いに下った山中の舗装路に車が何台か止まっているところに出る。こんなところに? と思ったが、舗装路の向こうに出入りの閉鎖扉があり、「工事関係者以外立ち入り禁止」とある。何かの工事のために林道が設けられているのであろう。それを横切って先へ進むと、ほどなく舗装されていない小石がごろごろしている、少し広い林道に出る。調子よく歩いて1時55分に自転車をおいた登山口に着いた。4時間50分の行動時間。コースタイムより30分早かった。

 

 私は自転車で車を取りに登山口に戻る。Kさんは30分歩いて信玄館へ向かう。以外にも、上りの自転車はきつかった。標高差はわずか70mほどであるのに、たぶん、今日で一番きつかったのではないか。車を走らせ、Kさんを途中で拾い、信玄館に着いた。

 

 どうして信玄館か。この宿に嫁に来た方が、この6月、奥日光の小学生の修学旅行の助っ人ボランティアをしていて、知り合った。私たちは現地ガイドをしていたのだ。はじめ教師だと思っていたのだが、「じつは……」としてボランティアだと分かった。この春に結婚して嫁に行った。その先がこの信玄館だという。「近くに来たらお立ち寄りください」という外交辞令を、そのままに受け取って、今日、やって来たというわけ。ところが宿は改修工事中で、風呂は使えない。帳場へ行くと、女将がいて、その嫁さんは目下海外へ新婚旅行中だという。11月の下山後の風呂をつかわせてもらえるか尋ね、「予約」して帰途に就いた。

 

 来た道を快適に戻り、6時には帰宅した。山歩きには、晴れ模様が何よりのごちそうだと思った。