mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

長兄との旅(3) 奥羽山脈の紅葉を堪能する

2014-10-11 07:05:24 | 日記

 

★ 紅葉の樹林の中を登る

 

 10月4日土曜日。雨は落ちていない。外に出てみると路面も乾いている。空は大部分を雲がおおっているが、切れ間に青空が見える。乳頭山に向かうことにする。くたびれたら途中の田代岱(田代平)までいって下山しようということにした。弁当はもたないが、兄が羊羹、私がビスケットをもっている。お昼ちょっと過ぎに降りてくるだろうと見当をつけた。

 

 孫六温泉の登山口(標高820m)を歩き始めたのは8時半前。すぐに急な登りになる。上へあがるにつれて紅葉がきれいだ。ブナの森、種々のカエデ。ヤマモミジやハウチワカエデ、ミネカエデがところ構わず色美しい葉をみせる。落ちた葉が敷き詰め、上からみると絨毯のようになってみごとである。「そこで止まって。写真撮るから」といって、私はカメラを車の中に忘れてきたことが分かる。兄のカメラを受け取ってシャッターを押す。オオカメノキの色も特筆するほど美しい。

 

 一組の60年配のご夫婦が後ろから登ってくる。道を譲る。「初めてですか? 乳頭山まで行くのですか?」と問われる。地元の人なのだろうか。「お元気ですね」と兄は応対している。先行したその彼らに、ほどなくまた、出逢った。彼らはキノコを採っていたのだ。奥さんが手に下げたビニール袋は、収穫物でいっぱいに膨れていた。

 

 雨が落ちてきた。雨具をつける。樹林の中だから、落ちてくる雨そのものはそれほど気にならなかったが、登山道を流れ落ちてくる水が多くなり、足元がぬかるんで歩きにくい。そのうちすっかり雲の中に入り、雨粒も大きくなる。先へ行ったご夫婦が戻ってくる。「この雨じゃあね。出直しますよ」と笑っている。兄も意気がくじけたかと思い、「どうする?」と尋ねる。「田代岱まではいこうよ」という。もう歩き始めて1時間半になる。先ほどまで息があがり、歩く速さも至極ゆっくりになってきている。何歩か歩いては一休みしているのに、一区切りつくまではやることをやるという気概を見せる。

 

 上から降りてくる人と出逢う。山頂を往復してきたという30歳代の人もいる。6時に孫六温泉を出たそうだ。往復5時間のいいタイムだ。あるいは、黒湯温泉の一本松沢ルートを登り、一回りしてこちらのルートを下山している3人組もいる。その中の一人は、こちらのルートは道が悪く降りにくいと愚痴る。滑りやすく、疲れるわとボヤキながら下って行った。

 

★ 天空の絶景、クサモミジ

 

 標高1100mくらいで雨が止んだ。山全体が明るくなり、紅葉も鮮やかな色に変わってくる。足元は相変わらず不如意だが、ストックを使って兄も着実に体を持ち上げている。標高1250mほどで明るい地点に出る。南の方に乳頭山へつづく稜線がみえるが、上部はすっぽりと雲の中。田代岱の末端に上がった。背の高さよりも低いハイマツが平らな稜線の輪郭を縁どり、クサモミジがすっかり茶色に染まって足元を覆う。その中央部を木道が貫いてまっすぐ伸びる。リンドウが花を開かないままで木道脇に紫の色をつけている。陽光がないと花は開かないよとはいうが、シーズンは終わってしまったのかもしれない、と思う。寒く感じる。5mほどの高いところにピンクのリボンがついている。3,4mは雪が積もるのであろう。広い田代岱の北の方へ伸びる木道もつづき、雪が積もると道を見失うなあと思う。兄は「瓶ヶ森みたいだね」と、昨年次兄と3人で登った四国の石鎚山の傍らの山を思い起こしている。、「Yにみせてやらなきゃあな」とカメラに収める。

 

 乳頭山の方へ寄ったところに避難小屋がある。2階建て。2階から入れるように梯子が掛けてある。冬の登山で使われているのだ。小屋の前に小さな池が満々と水を湛えている。ここまで3時間、コースタイムより1時間余、余計にかかっている。小屋に入ってお昼にする。兄はテルモスの温かいほうじ茶をよく飲んだ。小屋のテーブルの上には、孫六へ下る下山路の探し方を描いた地図とコンパスを描きこんだ図がおいてある。広くて迷ってしまうからだろう。30分ほど休んで、下山にかかる。12時。明るい日差しも見えるが、相変わらず山頂は雲の中。下の方の田沢湖の湖面が雲海のようにみえる。

 

 足の置場に難儀しながらの下山であったが、「登りよりはやっぱり楽だわ」と言いながら、ゆっくり降る。「槍ヶ岳とおんなじくらい負荷がかかるね」とも言う。やっぱり、かなり体に応えているようだ。2時間かかった。「膝は大丈夫」らしい。孫六温泉には入らないで、車で八幡平へ急ぐことにする。「寝ていてもいいよ」と言ったが、助手席でnaviの画面をみながら、あれこれと話をする。運転する私を気遣っているのだろう。気が気でなくて寝ていられないのだろうか。

 

★ 八幡平の紅葉に万感の思い

 

 田沢湖の北岸に入り込み、341号線をたどって鹿角市を回って、八幡平へ入る。秋田駒ケ岳からいえば奥羽山脈の北にあたる乳頭山のさらに北に位置するのが八幡平だ。岩手山は、ほんのちょっと東へステップアウトして、独立峰を為している。その奥羽山脈の西側、秋田県側を回っている。この道路は幹線道路らしく、ずいぶんたくさんの車が往来する。路線バスも走っている。ところどころで道路工事をしているのは冬場に備えての準備だろうか。追い越し可能車線もあるが、くねくねと曲がる道路は危なっかしくて追い越せない。対向車も多い。おおむね50km/hの速度で走る。鹿角市に入って標高を上げると、紅葉が一挙に目を奪う。兄もカメラを構える。「止めようか?」「いや、このままでいい」と、シャッターを押す。陽光も雲から顔を出して、予報通りに晴れてきている。私は車のクーラーを入れる。

 

 「トロコ(有料道路)入口」から南へ折り返して八幡平(有料)道路に入る。もちろん今は、有料ではない。高度を上げ、八幡平の山頂へ向かって道は九十九折れになる。大沼という大きな駐車場を備えた地点に来る。降りて大沼をみてため息が出る。見事な紅葉。「本当にドンピシャリだね」と私。兄は「う~ん陽がさすせばいいのに」と注文を付ける。八幡平ビジターセンターもあるが、沼の周りを歩く道へ踏み出し、紅葉に誘われて一回りした。どこをとっても、シャッターを押したくなるような紅葉の「満艦飾」。黄色のカエデ、赤のナナカマド、ササの緑、山全体がそれらの彩をグラデーションするように、美しく装っている。紅葉の美しさはひとつひとつの彩ではなく、総体としての色の調合だと思った。兄もあちらこちらでシャッターを押す。私も、兄を対象に入れて何枚も写真を撮った。「いや、いい時に来たね」と兄はご満悦であった。

 

 ところが、大沼を出て八幡平山頂に差し掛かると、道路には霧が立ち込めて、山頂のビジターセンターも分からない。車の速度も落とさねばならないほど視界が妨げられた。「八幡平は八割方大沼で観たね」とは兄の弁。そそくさとアスピーテラインを降りて今日の宿泊所、八幡平温泉郷のライジングサンホテルへ向かった。岩手山の裾野は見えるが、山頂部は雲に隠されている。兄は、岩手山が見えないことを繰り返し残念がっていた。「明日になれば見えるさ」と私は、明日の好天を予想して慰めていた。

 

 5時に、宿に到着。部屋に落ち着いて兄は、奥さんへ電話をする。残りの電池残量が少なくなったと言って、ケイタイの電源を切ってバッグにしまった。風呂に入って、身体を休める。6時半からの食事に足を運び、いやはや今日は良く歩いたと、私の万歩計の歩数を確認する。

 

 10/2、15090歩、10/3、9337歩、10/4、12371歩。「なんだたいしたことないな」と兄。だが、平地の歩数と同じに考えちゃいけないよ、と私。「そうだな、ずいぶん標高差があるし、歩きにくいところを踏んでいるからね」と兄。他愛もないことを話しながら、ビールで乾杯。明日どうするかは、後で考えようと頷いて、ゆっくり食事にとりかかった。まさかこの後に、兄との突然の別れが訪れようとは思いもしなかった。

 

 この後のことは、10/7の「長兄H逝去のいきさつ」に記したとおりである。いろいろ感じたこと考えたことはあるが、それはまた別に記しましょう。(終わり)