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デラシネ日誌

私の本業の仕事ぶりと、日々感じたことをデイリーで紹介します。
毎日に近いかたちで更新をしていくつもりです。

ピエロがいる街

2024-09-19 11:25:28 | 買った本・読んだ本
書名「ピエロがいる街」
著者 横関大  出版社 講談社(講談社文庫)   出版年 2021

電車の中で読む本を探すために書店に入り、いろいろ物色していたなかで、ピエロという言葉が目に入り、購入したもの。作家のこともまったく知識がなかったが、本自体はわりと目立つところに、しかもビニールでしっかり中が見れないようになっていた。本が出たのは2017年、文庫になったのも3年前なのにこの扱いは、どうやら最近この著者の作品がテレビ化(ルパンの娘)されたからのようだ。
ピエロものはいろいろあるので、正直まったく期待してなく、一応読んでおくかぐらいの気持ちだったが、なかなか面白かった。なによりもタイトルだけでなく、ピエロがきちんと主人公になっていて、しかもいい奴だったのが良かった。古くは、スティーブ・キングの「IT」、そしてなにより「ジョーカー」(続編がカンヌだかベネチアの映画祭に出品されたとのこと、これはこれで楽しみ)により、ピエロは怖い奴というイメージが定着されそうな中、この著者はいいやつにしている、それも底抜けのいい奴、人のためになんでもやろう、自分の故郷である街のために自分を犠牲にしてまで、尽くそうという男に描かれているのに、限りなく共感をもってしまった。ストーリー自体も起伏にとみ、物語としても楽しく読めた。最後のどんでん返し(もちろんネタばれはしないが)には正直びっくりしてしまった。エピローグもとても良かったと思う。
人助けの本というのはなかなかいいものだと改めて思った。主人公のピエロはかつてお父さんが大道芸でクラウンを演じていたようだが、著者は子供の頃もしかしたら大道芸でクラウンを見て、とても楽しいという思い出があったのではないだろうかなどと思ってしまった。
仙台から常磐線特急ひたちで読んだのだが、一気に読み、水戸到着前には読了してしまった。それだけ面白い本だった。
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ピコラエヴィッチ紙幣

2024-08-22 19:20:00 | 買った本・読んだ本
書名『ピコラエヴィッチ紙幣』
著者 熊谷敬太郎  出版社 ダイヤモンド社  出版年 2009

この一冊も「月のしずく」で知って読んだもの。ロシア革命のあとの内戦時代、日本がシベリア出兵していたころ、極東は混乱の中にあった。その中で日本がつくっていたルーブル紙幣が流通していたという話は、桑野塾でいつも刺激的な報告をしてくれるブルリューク研究家の鈴木さんが報告してくれたので、多少は知っていた。確か鈴木さんはその時の紙幣も見せてくれたと思う。その紙幣がこの本のテーマとなっているピコラエヴィッチ紙幣だったかどうかはわからない。ちなみに本来はニコラエヴィッチなのに、HではなくPという誤植からこの名前になったらしい。
この紙幣を印刷するためにニコラエフスク・ア・ムールに派遣された日本人の印刷技術者が、ここでロシア人と恋に陥りながら、尼港事件に巻き込まれていくという小説である。読みごたえはあった。それはかなりきちんと尼港事件という、日本史では語られることがすくない日本にとっても、革命ソ連にとってもあまり触れたくない事件について書かれているからだろう。紙幣の図案にもなっている島田商会の島田元太郎については、初めて知ったのだが、日ロ交流史や極東研究の中で取り上げられているのだろうか。とても気になる人物である。革命軍の残虐行為、ニコラエフスクに進出した日本の荒っぽいやり方など、いろいろな意味で現代この事件を問いかけることは意義のあることではないかと思った。もう少しいろいろな本を読んでいければとも思う。先日見たNHKのサイパン玉砕、この尼港事件、満洲もそうだが、海外に渡った日本人たちは、植民のため海外に進出することの怖さということを認識して海外に渡ったのだろうか、そんなことも気になった。
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天才伝説横山やすし

2024-08-20 18:27:01 | 買った本・読んだ本
書名『天才伝説横山やすし』
著者  小林信彦  出版社 文藝春秋社   出版年 1998

横山やすしという漫才師は、こういう人だったのだろうなと思わせる筆力はやはりたいしたもんである。ただなにかいやーな感じが残るのはなぜなのだろう。著者の小説「唐獅子株式会社」が映画され、その主役をやすしが演じたということで、ふたりの交際は深まる、この話が半分近く、いわばこの小説の核となっている。これがあったから書けたのだろう。ここで見たやすしの姿、特に著者をホテルに呼んで、息子の一八が芸能界入りするということを著者に言いながら嗚咽するやすしの姿などは、実際にあったことなのだから、迫真に迫る。ただあざといのである。自滅するしかなかったやすしは、格好の小説のネタであり、そんな男と実際に付き合えた、それをそのまま書いている、それがあざとく感じるのだろう。
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熱源

2024-08-10 19:18:27 | 買った本・読んだ本
書名 「熱源」
著者 川越宗一   出版年 2022    出版社 文藝春秋社(文春文庫)

最近気になっているサハリンやアイヌをテーマにした小説ということで飛びついた。教えてくれたのは兵庫県でキノコ文化の普及をよびかけ、日本史をはじめ文化歴史に独自の視点で迫る「月のしずく」という機関紙の記事だった。明治に樺太で生まれたふたりのアイヌの生きざまと、リトワニアに生まれ、樺太に流刑されたポーランド人の文化人類学者ピウスツキという実在の人物の生きざまを交錯させた、壮大な歴史小説。圧巻の迫力、一気に読み終えた。明治からソ連の樺太進撃までを、さまざまな実在人物をこれでもかこれでもかと盛って、歴史絵巻までに昇華させたのはお見事というしかない。
樺太は、かつてはロシアと日本が北と南を分け合って領有していた、しかしそのどちらも元々住んでいたわけではない、もともとはアイヌたちが住んでいたところである。北方四島を含む千島列島もそうである。日本とロシアの領土争いばかりが問いただされるが、そこにもともと住んでいたのはアイヌはじめ先住民たちであった。ふたりのアイヌの主人公たちの一貫した行動指針は、アイヌという民族を失わせてはいけないということだった。この小説の面白さは革命家、逮捕、流刑、アイヌの出会い、ヨーロッパに戻ってのポーランド革命への参画とまさに数奇な人生をおくったピウスツキを重厚にからましていったことである。彼のアイヌ愛というか、アイヌ発見がこの小説を圧倒的に面白くした。最後のサハリン侵攻してきたソ連女子兵士が、アイヌの唄を聞いたときのエピソードは胸に迫ってきた。
ピウスツキに関する本は何冊かあるようだし、サハリン紀行を書いた梯久美子はその中で、ピウスツキについて書きたいと書いていた。かなり気になる人物であることは間違いない。
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ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命

2024-08-10 17:12:52 | 買った本・読んだ本
書名 「ソ連秘密警察リュシコフ大将の日本亡命」
著者  上杉一紀     出版社 彩図社   出版年 2024

ソ連の大粛清で指揮をとっていたソ連秘密警察の大物が、極東からモスクワに召還されると知って、間違いなく処刑されるだろうと察知、満洲との国境で亡命を図った。本書はこの亡命からソ連侵攻後関東軍によって殺害されるまでの足跡を丹念にたどったノンフィクションである。一気に読んだ。そしてつくづく思うのは、この男は歴史の闇の中にしか居場所がないだろうなということである。なぜ亡命したのか、それは身の危険を感じたからであったことは間違いないだろう。リュシコフが自ら指揮をとったソ連史の暗部となる粛清の政治学をおさえていることによって、彼が身の危険を感じていたことを実証するその説得力を増すことになった。
亡命後、もしかしたらソ連が派遣したスパイではないか、そう思う日本側の諜報機関の人間がいても不思議はない。その意味でもソ連のスパイだったゾルゲの動きを視座に入れていたのは、この謎の男の周辺を探るうえではよかったのではないかと思う。
この本に触発され、「謎の亡命者リュシコフ」という西野辰吉の本も読んだが、この男は歴史の闇にしか存在しえない、そんな運命にあったのだろうとあらためて思った。西野の本に収められているリシュコフ自身の書いた現ソ連共産党批判や彼自身の手記を読んでも、スターリン体制を批判するにもなにか力がないというか、まっとうなことを言っているはずなのに説得力を感じないのは、彼自身が血の粛清に手を汚している人間で、命が惜しくて逃げてきたということがある。
闇の中で生きる宿命にあった人間をなぜいま掘り起こされようとしているのか、それはスターリン体制の闇をそっくり受け継いだとしか思えないウクライナ侵攻を続けるプーチン体制の闇の正体を暴きたいということがあるのかもしれない。その意味で、西野の本ではほとんど登場しなかった、勝野金政の存在が大きかった。リュシコフとも一緒に仕事した勝野は、ソ連の粛清に巻き込まれ、実際にラーゲリを経験して、そこから脱出、ソ連の暗黒の部分を身をもって体験した人間、日本に帰ってから徹底してソ連を告発する仕事をしている。自らの生きざまで、反ソを生きることになった。その反ソが、かつてソ連に寄り添っていた男がやっている、それは裏切りではという目で見られていたことろもあった。実際共産党の転向者には本書にでもでてくる田中清玄や、高谷覚蔵とか、なにか胡散臭い人間も多い。だが勝野の反ソは筋が通っている、それとリフシェフの日本での活動を呼応させることで、スターリン制の闇を告発している、そんなようにも読めるような気がする。
謎の人物の全貌を明らかにするのは難しい、ただいろいろな意味で情報操作、収集が、いまほど重要な意味をもつ時代はないときに、その足跡を追ったことは、重要な意義をもつことになったのではないだろうか。
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