大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第133回

2017年11月30日 20時08分00秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~ Shou ~  第133回





「あの時は風景を撮ってるってことで話してたけど・・・って、俺が言ってただけだけど。 記者が言うには、あのカメラマン、急に獲物が消えてどこをどう探しても見つからない。 ましてやあんな世界は消えてしまえば話題性がない。 探しているうちに日が経ってしまった。 だから追うのを止めたらしいって言ってたらしい。 こっちが本腰を入れる前で良かった、とまで言ってたよ」 

「それで?」

「今はナントカっていうモデルを追ってるみたいだって。 根性の悪いモデルらしくて、そのモデルに何かされたらしくってさ。 えっと、獲物が目の前から消えたとき、そのモデルから声をかけられて、その時に交換条件を出されたらしくてさ。 獲物の住んでる所を教える代わりに、何を追ってるのか教えろって」

「え!?」

「それで教えたんだってさ」

「どういう事だよ!」

「まぁ、落ち着けよ。 結局、その教えられた住んでる場所っていうのが、デタラメだったってことだよ。 で、その根性ワルのモデルが、どこかの雑誌インタビューで、あのカメラマンに聞いたことを話したみたい。 デタラメを教えられたは、ネタをバラされたは、あのカメラマンかなり怒り狂ったみたいだぜ」

「あ・・・」 奏和の頭の中で、今朝の雅子の言葉が思い出された。 

二人っきりで挙式をあげた新郎新婦。 何故遠方からわざわざこの神社にやってきたのか。

(そうか。 その根性ワルのモデルが翔のことを雑誌で喋ったのか。 その記事を見てあの二人が神社に来たってわけか) 

あの二人以外にどれだけの人が、カケル目当てにこの神社にやって来たのかは分からない。
だがその情報もすぐに消えた。 奏和がカケルを神社から居なくさせたから。

「だからその根性の悪いのを表に出してやるって息巻いてるらしいぞ。 完全な意趣返しだな」

その根性ワルのモデルっていうのがカケルに何かしたのであろうか、チラリと頭に浮かんだが、そんなことはどうでもいい。 過ぎたことだし、カケルもそう言うだろう。

「間違いないか? って、お前を疑っているわけじゃないんだけど、確信が欲しいんだ。 話してて嘘をついてるって感じはなかったか?」

「ああ、それはなかったな。 さっきも言ったけど、本腰を入れる前でホントに良かったって感じが、ありありと声に出てたからな」

商売柄、相手の言葉をよく聞く耳を持っている。 間違いはないだろう。

「他に何か気付いたことはないか?」

「特には」

「そうか。 サンキュ。 助かったよ」

「いったい何を知りたがってんだよ。 それにモデルってなんだよ」

「まぁ、それはな・・・」 と、純也の後ろで赤ちゃんの泣く声がした。

「あ、起きちゃった。 今京子が居ないんだ。 弟のことは今度話すわ。 じゃな」

「ああ、有難う。 親父がんばれよ」

「バーカ、親父じゃないよ。 パパだよ。 じゃな」

切られたスマホを耳から外すと顔の前に持ってきた。

「パ・・・パパー!?」 声がひっくり返ってしまった。


この日を切っ掛けに、翔に解禁令が出た。


後日聞いた話では、弟は元気にしているとのことであった。


卒業式も目の前だというのに、サボってアパートでテレビを見ていた奏和のスマホが鳴った。

「え? 渉?」 画面には『渉』 と出ている。 渉のスマホからだ。

あれ以来、渉とはメールでやり取りはしているが、電話では連絡を取っていなかった。 最初は電話をする勇気が無かったというのもあったが、渉も自分の声を聞きたくはないだろうと思ったことが大きかった。 それに渉からは長くはないが、元気なメールが返信されてきていた。
それが急に渉からの電話。 何かあったのか、それとも立ち直ったのか。 後者であってほしいと願いながら画面に映し出された受話器をフリックする。

「渉か? どうした?」

「奏和君か?」

「あ? え?」 渉のつもりで出たのに、聞こえてきたのは男性の声。 ちょっと頭が真っ白になりかけたとき、相手が続けて話し出した。

「わたしだ。 渉の父親だ」

頭の中を占めようとしていた白いものが霞となってスーッと引いていき、頭の中が鮮明になる。

「小父さん? どうしたんですか!? 渉のスマホからって、渉に何かあったんですか!!」

「何かあった? 奏和君は何か心当たりがあるんだね?」

『どうしたんですか?』 で止まっていれば、父親もそう思わなかったかもしれないが、続けて 『なにかあったんですか?』 なら分かるが 『なにかあったんですか!!』 語尾が強い。 強すぎる。 それは何かを知っているという事だろう。

「え・・・あ、そういう意味じゃ・・・」

「知っているなら教えて欲しい。 急いでいる。 渉がいなくなった」

「え? 居なくなったって?」

「実は、救急で運ばれて入院させていたんだが、病院から居なくなった」

「えっ!?」 救急も勿論ながら、入院していた事さえ知らなかった。

渉は毎日奏和のメールに返信を送っていたのだから。 それも元気だよと。



あの事があってからも渉は会社に行っていた。

「全部終わらせてシノハさんの所に行くんだから」 と。

セナ婆に言われたことは確かに頭にあった。 が、考えれば考えるほど、それでは何も出来ない。 出来ないを温める必要なんてない。 可能性にかける。 そういう考えに至った。 
早い話、シノハと共に居、シノハと笑顔で語り合う。 セナ婆が言っていた色んなことを全部乗り越えてみせる。 だからセナ婆の心配は今の自分には要らない考えである。 よってセナ婆の話は彼方に霧散させた。
霊が分かれ、広く深く何かを知ろうという話などにおいては、到底信じられる話ではない。 ハナから雲散霧消。


樹乃からは

「渉、本当に身体の具合なんともないの?」
「そんなに無理しなくてもいいよ」
「私も一緒にするよ」
「ね、休日出勤なんてやめなよ。 身体がもたないよ」 等々他にも色々言われていたが、どうしても今やりかけていることを全部終わらせたかった。

樹乃だけではない。 両親からもずっと会社を休むように言われていた。 そして病院に行こうと言われていたが、頑として渉が承知しない。
一度は父親が渉を抱き上げて車に乗せたが、すぐに車から飛び出してしまった。 だから、今度はチャイルドロックをかけて病院まで行ったが、しっかりと車から降りた途端、走り逃げてしまっていた。

「渉、そんな状態で仕事なんて出来ないだろう」 ソファーに座る渉。 その隣に座る父親が決して声を荒げては言わない。

「ちゃんとやってる。 それに今の仕事が終わったらゆっくりするから。 あと少しなの心配しないで」 父親と向かいのソファーに座る母親と目を合わせる。

「渉ちゃん、あと少しって随分前から言ってるわ」

「あ・・・」

「そんなに大切なお仕事なの?」

「仕事よ、途中で投げ出すなんて出来ない。 ママ、頑張って勉強して入社できた会社だって知ってるでしょ? 自分の仕事をキチンとしたいの」

「・・・パパ」 大学を卒業してすぐに結婚したOL経験のない真名は大きなことを渉に言えない。

「渉、自分に与えられた仕事をするのは確かに大切なことだよ。 でもね、それは身体があっての事なんだ。 分かるだろ?」

「そんなこと言って、パパだって高熱でも会社に行ってるじゃない」

「それは・・・パパは男だよ。 渉は女の子だろ?」

「それってなに? 女は腰掛けって言いたいの?」

「渉、そんなことは言ってないよ。 渉がやりたい仕事はすればいい。 でも、それで身体を壊したら元も子もないんだよ。 
もしパパが男と言っても痩せ細っていけば、ママは会社に行くパパを止めるよ。 でもね、パパは少々熱が出ても大きく体調を崩すなんてことはないんだよ。 
それにね、パパはママと渉の生活を背負っているんだ。 ママと渉を守りたいんだ。 だからもし、痩せ細っていってもママに止められても会社に行くよ。 大切なママと渉を守りたいんだから。
でも渉はパパのように守らなければならない者は今はないだろう? 渉は今、パパとママに守られているんだ。 渉はパパに任せればいい。 ママに甘えればいい」

「パパは分かってない!」

「パパが何を分かっていないか教えてくれないか?」

「パパには分からない。 ・・・だから言ってるじゃない、あと少しだって!」

「渉ちゃん・・・」 向かいのソファーに座る真名が泣きそうになる。

「・・・ママ」 父親が移動して真名の肩を抱き寄せる。

「渉、ママの気持ちが分からないか? ママにとって渉は宝物なんだぞ」

「タカラモノ?」

シノハの宝物が浮かぶ。 
思っただけで抑えていた気持ちに火がついてシノハに逢いたい。 いや、逢いたいどころではない。 そんなものではない。 ずっと一緒に居たい。 離れたくない。 共に有りたい。

「パパもママも何も分かってない!」

毎日毎日、そんな会話が繰り返される。

(シノハさんのことを何も分かってない!)



駅前に出る日が来た。 会社でのお遣いの日だ。 今回は提携会社との細かな打ち合わせの日であったが、その帰り道。

「信じらんない。 プランを立て直したいだなんて・・・」 これでまた仕事が増える。

「いつになったら終わるのよ・・・」 肩を落としながら駅前を歩いていた。

「シノハさん・・・」 今にも涙が零れ落ちそうになってくる。

「シノハさんに逢いたい・・・」 でもまだ逢えない。

自分で決めた。 何もかも終わらせてシノハの元に行くと。 シノハからの宿題は今は頭の中にない。 唯々、旅立つに後を汚したくない思いだけだ。 早い話、樹乃に迷惑をかけたくない。 
両親のことは頭から離れていた。 と言うか、いつかは嫁ぐ身だ。 それと同じと考えていた。
霧散したはずのセナ婆の言葉が形を作ろうとする。
『元居た場所に帰るのは、元の場所の誰かを思い出すからじゃ』 大きく頭を振って否定する。

「シノハさんのところに行くんだもん。 もう帰ってこない。 1秒たりともシノハさんから離れない」

渉の頭の中はシノハのことだけになってきていた。 が、樹乃への迷惑はかけたくない。 唯一、それだけが今の渉を抑えていた。 
三つ子の魂百まで・・・と言われるが、それに値する想いであった。


『いいかい渉、人に迷惑をかけるのはいけない事だよ』 小さい時からの父親の教えであった。 そして
『やりかけたことは途中で投げ出してはいけないんだよ』 何かを始める時には必ずこれを言われていた。
カップに砂糖とメイプルシロップを入れて溶き、その上にチョコレートを乗せ、そのまた上に生クリームをドッカリ乗せたような甘いだけの父親ではなかった。


それに母親の真名にしても事あるごとに言っていた。

「渉ちゃん、他人(ひと)に迷惑をかけちゃ駄目よ」

「うん」 幼少期の渉が答え、そして続けて言う。

「泥棒もダメだし、泣かしてもダメ。 知ってるよ」

「そうね。 いい子ね。 ママの言ったことを覚えてくれているのね」 でもね、と、真名が続ける。

「渉ちゃんは大きくなったんだから、次のことを言うわね」

渉がキョトンとした顔を真名に向けた。

「自分のしたいことがあるからって、他人を犠牲にしちゃだめなのよ。 分かる?」

「ギセイ?」

「そう、犠牲。 渉ちゃんが何かをしたいときに、他人を巻き込んではダメ。 渉ちゃんのしたいことは渉ちゃん一人で頑張るの。 誰にも迷惑をかけちゃダメなの。 分かる?」

「・・・んっと・・・渉のしたいことで誰かを泣かせちゃダメってこと?」

「今の渉ちゃんにはそういうことかな。 でもね、もう少し大きくなったらもっとよく分かると思うわ。 ママの言葉を覚えておいてね」

「うん。 泣かせちゃダメなんだよね」


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