大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第132回

2017年11月27日 23時10分39秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~ Shou ~  第132回




「渉・・・彼は時が必要だって言ってただろ? “時” って分かるよな? 時間だよ。 今すぐに誰か何人かのことを考えて、それで終わりじゃないだろう? 彼を想っているんなら、彼の言葉の深い所を考えられるだろ?。 それが出来るだろ? 言ってたじゃないか、彼の事なら何でもわかるって」

頷くが、納得はしていない。

「渉のことを心配・・・」 いや、心配という言葉じゃない。 シノハは想っていると言っていた。 一つ息を飲んで言い直した。

「渉のことを想ってるのは翔も翼も、俺の親父や母さんだっているぞ。 それに翔のことを考えてみろよ。 どれだけ考えても尽くせないくらいの想いがあるじゃないか。
それに翔だけじゃない。 渉が小さな時から今まで何人と知り合った? どれだけの人と話してきた? どれだけ笑ってきた? な、ゆっくりと落ち着いて考えてみろよ」

「カケル・・・」

「うん、そうだ。 翔とのことは沢山想うことがあるだろう?」

「・・・」

「そうだろ?」

「・・・シノハさんと出会って・・・すぐにカケルのことを忘れてたの」

「え?」

「カケルが大変な時だったのに、カケルのことを考えることを忘れてたの。 翼君からカケルのことで電話をもらってカケルのことを思い出してたの。 でもすぐにカケルのことを忘れるの」

淡々とした言いようであったが、泥水を飲む思いで言った。 奏和に対して思ったんじゃない。 カケルに対して思った。
カケルのことを心から外していた。 外したくて外したんじゃないし、否が応でも想いを外すという事をしなければならない、それならまだ分かる。 そんな現実が来るわけがないが。 
でも、カケルが入る隙間もなくシノハのことを考えてしまっていた。  カケルのことを忘れていた。 それがどれだけ積年の想いに耐えられない事か。

「渉・・・」

「だから大きな顔でカケルのことを考えられないの」

「それは違うぞ」

「チガウくない。 いっつもいっつも、カケルのことを忘れてたのを思い出すのに、それなのにまたすぐに忘れてた」

「渉、自分を責めるな。 それに責めることじゃない」

「奏ちゃんは?」

「俺?」

「奏ちゃんは私のことを想ってくれてるの?」

「あ・・・当ったり前じゃないか。 でなきゃ、今日みたいなことにならなかったよ」

「そうだね。 奏ちゃんも私のことを心配してくれてるよね。 この間もお化けが出ないか心配してくれて、ここに迎えに来てくれたよね」

余りにも淡々と言う渉に、片手で顔を覆った。

「だから、渉。 箇条書きじゃないんだ。 表をかいてるわけでもないんだ。 並べた言葉や、数字で考えるような問題じゃないんだ。 ・・・じっくり考えるんだ。 渉も相手のことを想うんだ」

シノハの言った“時”  それは長い長い時の事を指しているのだから。

その時

「あー! やっぱりここに居た!」 切り株に手をついたまま後ろを振り向くと、翼が走ってこちらへ向かってきていた。

「奏兄ちゃん! どんだけサボってんだよ!」

「あ・・・しまった、忘れてた。 って、くそっ!」 言うと渉を見た。

「大丈夫か? 落ち着いていられるか?」 下を向いている渉。

「・・・うん」

「渉、一つだけ約束してくれ」 切り株についていた右手を目の高さに上げると、人差し指だけを立てた。

「なに?」

「一人であっちへ行くな。 行くときには俺も一緒だ」 驚いた顔で渉が顔を上げた。

「約束してくれるな?」

「渉ちゃん! 奏兄ちゃんをサボらせないでよ!」 奏和の真後ろに翼が立った。

「約束だぞ」 さっきまでと違って厳しい顔をして小声で言う。

言うと立ち上がり振り返ると翼と向かい合った。

「悪い、悪い。 翔はどうした?」 言いながらスマホを出した。

(着信、入ってないな・・・。 順也のヤツ何やってんだ)

「姉ちゃんならしっかりと社務所に入り込んでるよ。 お蔭で全っ部! なっにもかも! 俺がする羽目になったじゃないか!」

「で? 終わったのか?」

「終わるわけないだろ!」

「じゃ、何しに来たんだよ」

「疲れただろうって、小父さんが休憩を入れてくれたの!」

「ああ、それはご苦労さん」

「はぁー!? なんだよー! その言い方!」

「じゃあ、この場を翼に譲るよ」

「へ?」

「渉を連れて帰ってやって」 言うと、スタスタと歩き出した。

今はいつまでも自分が関わっているのは良くないだろう。 あの場に居なかった翼と一緒に居て、気持ちを入れ替える方がいいだろう。

(それにしても・・・) 頭の中にさっきまでの光景が浮かぶ。 

未だに信じられない。 鹿に人が乗ることも、目に映った風景も、服装も。 ・・・あの話も。 それに何より、取り乱した渉のあの姿・・・。

(ここへ帰ってきても渉の声が掠れてた。 実際に渉が叫んでたんだ。 だから掠れてた・・・) あの時の渉の姿が目に浮かぶ。 夢じゃなかった。 夢ならいいのに、夢じゃなかった。

シリアスに思いながらも、どこかで数刻前の浅慮を思い出す。 ドッキリじゃなかったと。 ドッキリの方がどれだけ楽か。 ドッキリなら、誰に仕掛けられるか・・・。 いや、今はそんなことを考えている時じゃない。

「キツイなぁ・・・」 頭を掻きながら言うと、セナ婆の言葉が浮かんだ。

『それが霊(たま)が呼び合うということじゃ』

(呼び合う・・・か・・・) Gパンのポケットを上から触った。

(俺には一生その辛さが分からないんだろうな) 渉とシノハの姿、顔、声が浮かぶ。

(これからどうしよう・・・) こんな話を誰が信じるだろうか。

(お婆さんの言ってたこと・・・) セナ婆から伝え聞いた助言、それを実行するかどうか。

(信じてもらえないくらいなら敢えて言わなくても、これだけみんなが渉のことを想ってるんだ。 大丈夫だろう) 特に毎日一緒に生活する渉の両親は、並の親以上に渉のことを想っている。

(・・・きっと大丈夫だ) セナ婆からの助言は心に置き、渉自身と渉の両親に預けることにした。



夜、ドラムをやりだしてからは、日課となってしまっていた腕立て伏せをしている奏和のスマホが鳴った。

「よう!」

「よう、って遅いんだよ!」 順也からであった。

「勝手なこと言ってんじゃないよ。 頼んどいてその態度はなんだよ」

「で? どうだった?」

「おい、聞き方ってもんがあるだろうよ」

「出し惜しみしてんじゃないよ。 どうだったんだよ」

「ホンットに腹立つわー」


今朝、奏和が順也に頼みごとをしていた。 綱渡りをしたわけだ。

「順也、悪いんだけど俺を出汁にして連絡を入れてくれないか?」

「へっ? 突然なんだよ。 それもこんな早朝に。 俺寝てたんだけど?」 確かに眠たそうな声だ。

朝の7時、神社では遅い時間だけれど、夜遅くまで働いてる順也には寝ている時間かもしれない。 それに生まれて間もない赤ちゃんもいる。 毎日クタクタかもしれない。 赤ちゃんのことは京子がしているだろうけど、多少なりとも手伝っているだろうし、父親がボケてきてるって言っていた。 東奔西走もどきをしているかもしれない。 そう思うと、何時まで寝てんだよ! と、いう言葉を呑み込んだ。

「悪い。 まぁ、起きちゃったんだし、俺の頼みごとを聞いてくれよ」

「なに? その言い方。 本当に悪いって思ってるわけ? 起きちゃったんだしじゃなくて、お前が起こしたんだろがー」 

赤ちゃんと京子は隣の部屋で寝ている。 少々話していても二人を起こすことはない。

「例の記者に連絡を入れて欲しいんだ」

「俺の質問は無視かよ」

「俺が、アイツの弟のその後のことを、知りたがってるって」

「ああ、それが聞きたいわけね」

「イヤ、それを出汁に聞いて欲しいんだ」

「もしかして例のカメラマンのことか?」

「ああ。 寝起きにしては察しがいいじゃな。 今もまだこっちに来ているか、どうかとかって聞いて欲しいんだ」

「レンタルはしてないから来てないんじゃないの?」

「イヤ、確信が欲しいんだ」

「急ぐのか?」

「出来るだけ早く」

「分かった。 今度おごれよ」

「出世払いで居酒屋100回分」

「真実味ないわぁ・・・」



「お前、ウザったいから、先に言っておく。 相手が全然電話に出なかったんだよ、だからこの時間。 で、結果から言う。 もう手を引いたみたいだぞ」

「どういうことだ?」

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