東京ステーションギャラリーから東京駅丸の内側を眺めながら
不染鐵展 2017年8月13日
東京ステーションギャラリーにて現在行われている「不染鐵展」を観ました。
不思議な魅力を「山海図絵」のポスターから感じ取り、観ないと悔いを残すと思い、東京国際フォーラムで開催された「ものづくりの祭典」の見学がてら行ってきました。
晩年の画は目にしたことがありましたが、大正から戦前ぐらいまでに描いていた画とは作風が違い、こんなに魅力的な興味を注る画家とは知りませんでした。
東京小石川の寺に生まれ、僧侶になるための教育は受けたものの画を描く道に進んだ不染鐵は、妻と共に大島の漁村に住み、漁師と共に生活したり、旅先の京都にインスピレーションを受け、京都の美学校に進み特待生で卒業したり、奈良の風景に憧れ、唐招提寺の近くに居を構えたり、と、居住地を変えながら描く仕事に没頭したそうです。
唐招提寺のあたりの西ノ京あたりの町並みや、静かに佇む戦前の奈良の風景は、羨ましいほど詫びていて、その侘びた風情に愛情を持って描いてゆくのです。
素直な学習力が技術を高め、そこに不染鐵独特の愛着的感性が筆に籠められていることが、描く画から温もりと共に伝わってきます。
例えば、小さな家並みの一軒一軒に日常の生活を営んでいる人を描き、どんな家にも人の息遣いを感ずるように心を籠めて描かれています。
海には、よく目を凝らしてみてみると、魚がリアルに描かれ、日本画独特の波の技法に崩れが無く、陸地を描くにしても、一線毎に魂が籠められているのが直に伝わってきます。
どこか懐かしく、微笑ましい描き方に、一人で観ている観覧者が多いにもかかわらず、「あらあら、真ん中に電車が走っているわ~」とか「お魚の群れが円形に描かれているわ~」などと声を掛け合ったりして、観ている者が不染鐵ワールドの魅力に取りつかれていく感覚になっていくのです。
描く技術に長けていて、たぶん温和で優しい不染鐵は、戦後に奈良に戻り教育者となり、84歳で亡くなるまで、その性格が歪むことなく淡々と絵筆を動かし続けた人だったのだな。。。ということが、伝わってくるのでした。
やりたいことをやり通す、という気負いが感じられないのですが、感受性に囚われ、それに埋没することなく身を糺して生きてきた老賢人的な不染鐵の暮らしぶりを近くで見てみたかったです。不染鐵の描く奈良の風景を歩いているような不思議な感覚を貰い、奈良好きにとってはたいそう嬉しい展覧会でありました。
不染鐵展は、東京の展覧会後、奈良でも行うようです。
奈良でも観てみたいものです。
8月27日まで 東京ステーションギャラリーにて