今回のお気に入りは、「博物学の時間」です。
青木淳一著「博物学の時間」を読みました。
内容紹介を引用します。
=====
昆虫採集、天体観測、化石の発掘……子どものころの心ときめく経験は、じつは「博物学」という魅力的な世界への入口だった。
博物館と大学で永年にわたり博物学の研究・教育に携わってきた博物学者が、そのおもしろさを熱く語り尽くす。
アリストテレスの時代から未来へと受け継がれるサイエンス。
=====
著者は学生時代に読んだ本で「ササラダニ」が「甲虫のように美しく、ほとんど研究されていない」ことを知りました。
「これだ!」と思った彼は、教授に無理を言ってササラダニを研究させてもらいました。
そしてすぐに新種を発見。
お礼の意味を込めて教授の名をつけましたが、オニダニだったため嫌がられたというエピソードがあります。
その後定年まで精力的に研究し続け、数百の新種を発見したそうです。
全ての生物を含めて新種発見数では日本のベスト3に入るそうです。
そんな著者の著作を初めて読み、その業績も初めて知りました。
本書はかなり前に購入していたため、どうして本書を知ったのか記憶が定かではありません。
ノンフィクション書評サイトHONZを確認しましたが紹介されていませんでした。
北海道新聞の日曜の書評コーナーで知ったのかもしれません。
いずれにしても元昆虫少年であり、博物学を愛する者としてとても面白く読みました。
【主要目次】に沿って面白かったエピソードや感想を書きます。
第1章 博物学を楽しむ――大自然に学ぶサイエンス
自然史、博物学とは / 博物学の楽しさ / 役に立たない博物学の意義 / 日本の自然
何事も基礎が大切。
先端科学ばかり脚光を浴びるが、それを支える基礎研究をないがしろにしてはいけない。
博物学はもう役に立たないといわれ、大学は実践的な研究ばかり。
それにかわり博物館の学芸員が多忙な業務の中、基礎研究を続けていると著者は書いている。
国立大学でさえ実践的な研究以外に予算をもらえない今の制度は間違っていると思う。
第2章 名前をつける――生物のラベリング
生物の呼び名 / 世界共通の名前、学名 / 生物の種類 / 生活のなかの分類学
生物の研究は名前を付けることから始まる。
おそらくは全ての生物の中で名前が付けられているのは1%程度。
99%の生物に名前がない?
ということは、99%の生物がまだ研究されていないということ。
生物界の全てを知る日は来るのだろうか?
第3章 生物を分類する――博物学の仕事
分類のための図鑑と文献 / 種の同定依頼 / 新種の発見 / 博物館の役割
第4章 生物を採集する――趣味から研究へ
採集の楽しみ / 子どもの虫採り / 趣味の採集 / アマチュアの貢献
昆虫は子どもが採ったくらいで絶滅しない。
子どもの虫採りは博物学に通じるので応援してほしい。
専門家は専門知識に縛られている。
生物の分布範囲以外は調査をしない。
専門知識を持たない素人が意外な所で意外な発見をするのは、そのため。
ナルホド、先入観念はホドホドに、ということ。
第5章 分布を調べる――生物地理の視点
生物地理区 / 分布境界線 / 生物分布図の作成 / 垂直分布 / 島の生物
屋久島が最も魅力的な垂直分布の研究フィールドだそう。
第6章 野外へ出る――北のフィールドへ
美ヶ原で初めての新種発見 / 日光の森とダニ / 森の地面のマイクロハビタート
/ 志賀山の森でのIBP研究 / 皇居のお化けヒル / 樹上に住むササラダニ
/ 北海道ポロシリ岳での命拾い
皇居で90cmもあるお化けヒルを発見したエピソードは面白かった。
国内新発見を専門家の誰もが疑い、それを契機に次々発見されたのも不思議な話。
北海道での命拾いエピソードもすごい。
ヒグマに襲われた話、全国各地への帰路についた研究チームの誰もが墜落便に乗らなかった偶然など。
第7章 野外へ出る――南のフィールドへ
屋久島の海岸から山頂へ / 小笠原諸島のアフリカマイマイ / 幻の虫、サワダムシ
/ 南海のユートピア、トカラ列島 / アリの巣の同居人 / 真鶴海岸のツツガムシ
/ ダニに喰いついた男
アリの巣に飼われているダニの話。
アリが日々エサを届けてくれ、丸丸太っている。
産卵の手伝いをしてくれる。
有事の際には我が子より先に避難させてくれる。
これはアリがこのダニを非常食として大切にしているからだそう。
社会性昆虫だけにまるで人間のように家畜を飼っている。
こんなに面白い話なのに、かつて読んだ「アリの巣の生きもの図鑑」には出ていなかったように思う。
なぜでしょう?
第8章 博物学を伝える――ナチュラルヒストリーの未来
科学の土台 / 標本と文献は国家の財産 / 後継者の育成 / 分類学者の最期
研究者は後継者を育成し研究を引き継がせることが大切と訴えている。
貴重な研究や資料が研究者の死により消え去ることが多いそう。
それを防ぐためには公的なフォローが必要であり、その仕組みを構築することが公的な利益になると思う。
本書を読んで過去の学問だと思っていた博物学がいまだに大切な分野であることを知りました。
高名な学者が基礎研究の大切さを訴えることはとても大切なことです。
企業も大学も予算がないばかりに基礎研究をないがしろにしています。
薄っぺらな研究ばかりでは未来は心細い。
国はせめて国立大学の基礎研究だけは予算をねん出し続けるべきと思います。
技術立国である日本の未来は、教育と研究が創りあげるものと考えます。
青木淳一著「博物学の時間」を読みました。
内容紹介を引用します。
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昆虫採集、天体観測、化石の発掘……子どものころの心ときめく経験は、じつは「博物学」という魅力的な世界への入口だった。
博物館と大学で永年にわたり博物学の研究・教育に携わってきた博物学者が、そのおもしろさを熱く語り尽くす。
アリストテレスの時代から未来へと受け継がれるサイエンス。
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著者は学生時代に読んだ本で「ササラダニ」が「甲虫のように美しく、ほとんど研究されていない」ことを知りました。
「これだ!」と思った彼は、教授に無理を言ってササラダニを研究させてもらいました。
そしてすぐに新種を発見。
お礼の意味を込めて教授の名をつけましたが、オニダニだったため嫌がられたというエピソードがあります。
その後定年まで精力的に研究し続け、数百の新種を発見したそうです。
全ての生物を含めて新種発見数では日本のベスト3に入るそうです。
そんな著者の著作を初めて読み、その業績も初めて知りました。
本書はかなり前に購入していたため、どうして本書を知ったのか記憶が定かではありません。
ノンフィクション書評サイトHONZを確認しましたが紹介されていませんでした。
北海道新聞の日曜の書評コーナーで知ったのかもしれません。
いずれにしても元昆虫少年であり、博物学を愛する者としてとても面白く読みました。
【主要目次】に沿って面白かったエピソードや感想を書きます。
第1章 博物学を楽しむ――大自然に学ぶサイエンス
自然史、博物学とは / 博物学の楽しさ / 役に立たない博物学の意義 / 日本の自然
何事も基礎が大切。
先端科学ばかり脚光を浴びるが、それを支える基礎研究をないがしろにしてはいけない。
博物学はもう役に立たないといわれ、大学は実践的な研究ばかり。
それにかわり博物館の学芸員が多忙な業務の中、基礎研究を続けていると著者は書いている。
国立大学でさえ実践的な研究以外に予算をもらえない今の制度は間違っていると思う。
第2章 名前をつける――生物のラベリング
生物の呼び名 / 世界共通の名前、学名 / 生物の種類 / 生活のなかの分類学
生物の研究は名前を付けることから始まる。
おそらくは全ての生物の中で名前が付けられているのは1%程度。
99%の生物に名前がない?
ということは、99%の生物がまだ研究されていないということ。
生物界の全てを知る日は来るのだろうか?
第3章 生物を分類する――博物学の仕事
分類のための図鑑と文献 / 種の同定依頼 / 新種の発見 / 博物館の役割
第4章 生物を採集する――趣味から研究へ
採集の楽しみ / 子どもの虫採り / 趣味の採集 / アマチュアの貢献
昆虫は子どもが採ったくらいで絶滅しない。
子どもの虫採りは博物学に通じるので応援してほしい。
専門家は専門知識に縛られている。
生物の分布範囲以外は調査をしない。
専門知識を持たない素人が意外な所で意外な発見をするのは、そのため。
ナルホド、先入観念はホドホドに、ということ。
第5章 分布を調べる――生物地理の視点
生物地理区 / 分布境界線 / 生物分布図の作成 / 垂直分布 / 島の生物
屋久島が最も魅力的な垂直分布の研究フィールドだそう。
第6章 野外へ出る――北のフィールドへ
美ヶ原で初めての新種発見 / 日光の森とダニ / 森の地面のマイクロハビタート
/ 志賀山の森でのIBP研究 / 皇居のお化けヒル / 樹上に住むササラダニ
/ 北海道ポロシリ岳での命拾い
皇居で90cmもあるお化けヒルを発見したエピソードは面白かった。
国内新発見を専門家の誰もが疑い、それを契機に次々発見されたのも不思議な話。
北海道での命拾いエピソードもすごい。
ヒグマに襲われた話、全国各地への帰路についた研究チームの誰もが墜落便に乗らなかった偶然など。
第7章 野外へ出る――南のフィールドへ
屋久島の海岸から山頂へ / 小笠原諸島のアフリカマイマイ / 幻の虫、サワダムシ
/ 南海のユートピア、トカラ列島 / アリの巣の同居人 / 真鶴海岸のツツガムシ
/ ダニに喰いついた男
アリの巣に飼われているダニの話。
アリが日々エサを届けてくれ、丸丸太っている。
産卵の手伝いをしてくれる。
有事の際には我が子より先に避難させてくれる。
これはアリがこのダニを非常食として大切にしているからだそう。
社会性昆虫だけにまるで人間のように家畜を飼っている。
こんなに面白い話なのに、かつて読んだ「アリの巣の生きもの図鑑」には出ていなかったように思う。
なぜでしょう?
第8章 博物学を伝える――ナチュラルヒストリーの未来
科学の土台 / 標本と文献は国家の財産 / 後継者の育成 / 分類学者の最期
研究者は後継者を育成し研究を引き継がせることが大切と訴えている。
貴重な研究や資料が研究者の死により消え去ることが多いそう。
それを防ぐためには公的なフォローが必要であり、その仕組みを構築することが公的な利益になると思う。
本書を読んで過去の学問だと思っていた博物学がいまだに大切な分野であることを知りました。
高名な学者が基礎研究の大切さを訴えることはとても大切なことです。
企業も大学も予算がないばかりに基礎研究をないがしろにしています。
薄っぺらな研究ばかりでは未来は心細い。
国はせめて国立大学の基礎研究だけは予算をねん出し続けるべきと思います。
技術立国である日本の未来は、教育と研究が創りあげるものと考えます。
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