元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カンパニー・メン」

2011-12-17 06:28:58 | 映画の感想(か行)

 (原題:The Company Men )現代アメリカ社会の一局面を描いたという意味では出色の映画だ。しかも単に事象を並べるのではなく、ストーリーはよく考えられており、登場人物にも血が通っている。良くできた群像劇だと思う。

 ボストンにある総合メーカーに勤めるボビーは30代後半にして販売部長のポストに就き、12万ドルもの年収を得ていた。ところがある日、事業部合併による余剰人員整理のためあっさりとリストラされてしまう。彼は再就職先を探すが、困ったことにプライドを捨てきれない。それなりの高給与と役職を用意してくれそうな会社ばかりを回った挙げ句に、全て断られてしまう。

 生活が段々と逼迫してくるが、それでもゴルフの会員権や高級外車を手放そうとしない。一方で妻と子供達の方が、しっかりと現実を見据えているのは皮肉だ。このボビーのエピソードだけならば単に“脳天気なエリートの挫折”という話で終わっていたはずだが、映画はさらに切迫の度を強めていく。ボビーの上司でもあった事業部長やその盟友の重役もクビになってしまうのだ。

 特に会社が町工場だった頃から現社長と一緒に事業を大きくしていった役員でさえ、無慈悲に切り捨ててしまう暴挙には怒りさえ感じてしまう。それに対して“会社にとって大事なのは、従業員ではなく株主だ!”と断言してしまう社長の夜郎自大ぶりには驚くしかない。

 これはフィクションの世界の出来事ではなく、リーマン・ショック後の切羽詰まったアメリカのビジネス界では日常茶飯事なのだ。主人公達が勤めていた会社は製造業である。昔は産業界の花形であったこの業界は、アメリカにおいては完全に空洞化し、今や投資グループの“草刈り場”になってしまった感がある。だから社長が提唱するリストラ策にも幾ばくかの“理”はあるのだ。

 しかし、昔から会社を支えてきた人材に対して簡単に引導を渡してしまう遣り口は、決して誉められるものではない。しかも、経営状態が大して良くないのに新しい巨大自社ビルの建設を押し進めるあたり、人の道を外れてしまったような印象を受ける。

 主演のベン・アフレックは好調。人は良いが周囲が見えていない“温室育ちのエリート”を上手く演じていた。解雇された重役に扮したクリス・クーパーとトミー・リー・ジョーンズはさすがの貫禄で、このトシになって直面する人生の悲哀を渋味たっぷりに表現。そして、ボビーの妻の兄で彼を一時期雇い入れる工務店の店主を演じたケヴィン・コスナーがめっぽう良い。彼も年を取って体型も変わり、要所を押さえるバイプレーヤーとしての手堅さが出てきたのは嬉しい。

 終盤ボビー達は巻き返しを図るが、それが上手くいく保証はどこにもない。世にはびこる拝金的な強欲資本主義を打倒しなければ、アメリカ国民にとって真の夜明けは訪れないのだ。

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