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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

二葉亭四迷「浮雲」

2005-11-26 17:59:39 | 読書感想文
 言文一致体の代表作として歴史の教科書に載っている小説だが、実際に読んだのは(恥ずかしながら)つい最近である。舞台は明治中期。静岡県士族の子である主人公・内海文三は、学校卒業後に役所に勤めるために東京の叔父の家に下宿するが、同居する従妹のお勢に恋心を抱いたのも束の間、思わぬ事で役所をリストラされてしまう。物語は文三とお勢、そして要領の良い主人公の友人・本田昇との微妙な三角関係(ようなもの)を軸に展開する。

 これは面白いと思った。時代背景や文体はともかく、上質の青春小説を読んでいるような充実感がある。プライドと劣等感がせめぎ合う主人公の内面。奔放なお勢の言動に一喜一憂し、恋敵の存在も気になり、不安定な心理状態で悶々と毎日を送る文三の姿は、人生の岐路に逡巡する普遍的な若者像そのものではないか。舞台を現代に変えて映画化してもまったくおかしくない題材だ。あえてストーリーが「未完成」に終わっているのも、これ以上続けてあらずもがなの結末をつけていたずらに通俗的になるのを回避した作者の冷静な判断だと思う。

 意外とハイカラな明治時代の東京庶民の生活ぶりも興味深い。
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「Mr.インクレディブル」

2005-11-25 21:46:21 | 映画の感想(英数)

 (原題:The Incredibles)ヒーローの悲哀と栄光を見事に描いたのは「スパイダーマン2」ではなく、紛れもなく本作の方だ。

 ヒーローの“活躍”によって生じた被害に対して市民が民事訴訟を起こしてヒーロー達を普通の人間の生活に押し込めてしまったという設定は出色。まるで“人権原理主義者”の独善をコケにしているようではないか(笑)。

 ヒーロー達をつけ狙う“新たな敵”に立ち向かうべく、たるんだ身体をシェイプアップして出撃する中年超人Mr.インクレディブルよりも、スーパーパワーを持った妻子の方が目立っているのも面白い。特に“一見優しいようで、実は完全に夫を尻に敷いてるカミさん”(声の出演はホリー・ハンター!)の存在感はスゴい(爆)。いくらヒーローでも、やはりオッサンはオッサンでしかないのが微笑ましい。

 悪役キャラの屈折ぶりもかなりのもので、これだけ相手がヒネくれていると、主人公達がどんなに滅茶苦茶に暴れても気にならない。衣裳デザイナー役のエドナ・モードの造形にも脱帽だ。

 技術的には申し分なく、アクションシーンには完全に引き込まれた。ブラッド・バードの演出は冴え渡り、ジェットコースター的展開で観客を圧倒する。まさに目を見張る快作。
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耐震強度偽装事件と規制緩和

2005-11-25 06:55:43 | 時事ネタ
 マスコミを賑わせている一連の「耐震強度偽装事件」。私の知り合いがついこの間まで泊まっていたホテルが“設計元:姉歯建築事務所の物件”であった。何でも“いくら新築といっても、ちょっと「家鳴り」が大き過ぎるんじゃねーの”と思ったほど、夜中にギシギシいってたとか(爆)。

 さて、読売新聞が例の姉歯建築設計事務所関連のマンション2棟の構造計算書について専門家に分析を依頼したところ「巧妙どころかあからさまな偽装。検査機関などの専門家が気付かないはずがない!」と切って捨てられたらしい。見る人が見ればすぐさま違和感を持つのが当然の「インチキ設計」が、どうしてまかり通ってしまったのか。この背景には98年の建築基準法改正があるという。

 この改正は、阪神・淡路大震災で倒壊した建物があまりにも多かったことを教訓に、検査業務を民間機関に開放したものだ。でもちょっと待ってほしい。地震ですぐに崩れる建物が多かったということは、普通に考えれば「検査業務をキッチリやるべく、自治体の建築確認・完了検査体制を見直して充実させるべきだ」という結論になるはずだ。これがどうして「民間機関への規制緩和」という次元に勝手にシフトしてしまうのか。

 たぶんそれは当時の「政・財・官」の癒着による妥協の産物なのだろう。おかげでその「民間検査機関」とやらは不動産業者や建設業者の子会社みたいなところでも運営可能になり、当然の事ながら自分達に都合の良いような「手抜き検査」もオッケーになる。もちろん、消費者(入居者)のことなんか考えない。自分達だけ儲ければそれでヨシ。

 「官から民へ」「規制緩和」というのがトレンドの昨今だが、「官」から仕事を移管された「民」が、すべてのケースにおいて「官」よりも優れている・・・・と思ったら大間違い。族議員と官僚と財界人だけがニコニコで、肝心の国民は泣きを見るという場合だって多々ある。大事なのはそのへんを是々非々で見極めることであり、単なるスローガンに過ぎない「規制緩和」を金科玉条のごとく奉ることほど愚かなことはないと思う。
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「マイ・ボディガード」

2005-11-24 08:35:05 | 映画の感想(ま行)
 (原題:Man on Fire)チラチラとしたケレン味たっぷりの画像処理が鬱陶しい。トニー・スコット監督好みのこういう手法は「スパイ・ゲーム」のようにしっかりとした筋立てのドラマの中に適度に挿入すると効果的だが、残念ながらこの映画は脚本が万全ではない。

 特に後半、誘拐された幼い少女の“復讐”のために鬼と化す米軍特殊部隊あがりのボディガードの暴走を追うくだりは、段取りが非常にまだるっこしく、それに上記の映像ギミックが頻繁に重なるもんだから、観ている側は面倒くさくなってしまう。こういうのは切れ味鋭く短時間にまとめるものだ。

 前半の、心に傷を負った主人公が9歳の女の子と出会って微笑みを取り戻すくだりは、演じるデンゼル・ワシントンとダコタ・ファニングの好演も相まって(少し冗長ながら)いい感じで進んできたのに、誘拐事件が起こった後の展開は無茶苦茶だ。

 かと思えば拷問場面などの残虐シーンは念入りに撮られており(そのためR-15指定だ)、何やら映画のつかみ所が判然としない印象がある。

 それにしても、こういう事件が頻繁に発生する中南米地区はコワいものがあるが、劇中そんな現地の状況をアメリカ人がバカにしているような雰囲気があるのも愉快になれない。A・J・クィネルによる原作(こっちは舞台はイタリアらしい)はシリーズ物になっているとのことだが、映画の場合はどうなるか不明である。
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高杉良「ザ エクセレント カンパニー」

2005-11-24 08:27:57 | 読書感想文
 東洋水産のアメリカ・メキシコへの進出を題材にした企業小説だ(文中では企業名は変えてあるが)。東洋水産のブランド「マルチャン」は北中米でのカップ麺のシェア一位を誇り、特にメキシコでは「マルチャンする」という動詞として定着しているほどだという。

 高杉は綿密な取材力でその成功の過程を追っていくが、正直言って小説としては面白くない。優秀なスタッフが集まって障害を難なくスルリと切り抜けていく場面ばかりで、波瀾万丈の展開もなく、興趣に乏しい。実話だから仕方がないのかもしれないが、何やら人の自慢話を聞かされているような愉快成らざる気分になる。

 しかし、全然読む価値はないかといえば、さにあらず。それは主題が昨今の「構造改革万能」に対するアンチテーゼになっているからだ。感心したのが、この会社は実に社員を大事にするということ。社員教育に力を入れ、一度は辞めた現地従業員も希望さえあれば受け入れる。安易なリストラは絶対しない。「構造改革」の名のもとに首切りと賃下げに奔走し、経営者だけウハウハの「優良企業」が持て囃される中、東洋水産のような「日本的経営」を遵守する企業が海外市場でトップメーカーになっていることは、一種の「救い」ではないだろうか。

 それにしても、文中ではアメリカの労働組合が悪者扱いされていることは印象的だ。「ゴッドファーザー」だったか何だったか、ギャング映画でマフィアの幹部が「ウチのシノギは労働組合だ」みたいなこと言ってたことを思い出した。国が違えば事情も変わるものだ。
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皇室典範に関する有識者会議

2005-11-23 08:00:38 | 時事ネタ
 時事ネタいきます。

 新聞によると、小泉首相の私的諮問機関「皇室典範に関する有識者会議」(座長=吉川弘之・元東大学長)は11月21日の第16回会合で、皇室典範の改正に関する報告書の概要を決めたらしい。懸案になっていた女性・女系天皇を認めるとともに、皇位継承順位は男女を問わず出生順に「長子優先」とすることで一致したとか。また、女性の皇族が結婚後も皇室に残り、宮家を創設できるようになるという内容とか。早ければ政府は来年の通常国会に皇室典範の改正案を提出するという。

 単純に考えても、この案はおかしいと思う。

 そもそもこの諮問機関は、現在の皇室に次の次の代の「男子のお世継ぎ」がいないことから、それをどうするのかという問題があったから立ち上げたのかと思っていたが、どうやら違うようだ。彼らは皇室の伝統を根本から壊そうとしているらしい。今でも「男系」に確固とした合理性があるかどうかは別にして、過去1000年以上も守ってきたその「しきたり」を簡単に反故にしてよいものか。

 しかも「長子優先」とはいったい何だ。新聞によれば、その理由は「国民が(長子を)将来の天皇として、幼少のころから期待を込めて見守ることができる。安定性も優れている」ということらしいが、抽象的すぎて説得力に欠ける。従来の「兄弟姉妹間での男子優先」は「(女子が先に生まれた場合)皇位継承者が不確定な期間が長くなる。不安定な制度は好ましくない」と結論づけたとのことだが、何が「不安定」なのかさっぱり分からない。だいたい、この概要通りに皇室典範が改正された場合、秋篠宮殿下の皇位継承権は小さくなってしまうが、それこそ今まで認知されていた「継承権」が揺らぐことになって別の意味で「不安定」になるのではないか。

 それに結婚した女性皇族が皇室に残って宮家を創設することが可能で、女性皇族と結婚した男性も皇族となるという。別に私は普段皇室には興味はないのだが、何だかこれは胡散臭い。「伝統」よりも「ジェンダーフリー」あたりの価値観が紛れ込んでいるようで愉快になれない。

 しかしまあ、小泉が「コレに決めたっ!」と言うのならば、そうなってしまうのだろう。何せ先の選挙では国民は現政権に「白紙委任」してしまったんだから。国の伝統文化がどうなろうと、後の祭りなのだ。
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朱川湊人「鉄柱(クロガネノミハシラ)」

2005-11-23 07:56:01 | 読書感想文
 「花まんま」で直木賞を受賞した朱川湊人による第10回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作「白い部屋で月の歌を」と一緒に納められている中編。

 「白い部屋~」が“ちょっと良くできた怪異談”というレベルなのに対し、この作品の印象は実に強烈だ。不倫が原因で地方の営業所に飛ばされた主人公とその妻が遭遇する土地の不思議な因習。そこに立つ「ミハシラ」なる“首吊り用の鉄柱”をめぐって展開する不気味かつ切ない物語である。

 どうして住民はこの柱を使って自ら命を絶つのか。終盤明らかにされるその理由は、何ともやりきれない、しかし読者の胸の奥に深く食い込んでくる。「明日は今日より良くなることを信じて生きる」というポジティヴな姿勢は誰しも評価はしていても、実のところ見方を変えればそんなのは「建前」でしかないのではないか。そもそも「人生の幸福」って何なんだろう・・・・。そんな想いが渦を巻き、たまらない気持ちになった。

 朱川の語り口は丁寧で読みやすい。今後とも作品を追いたい小説家である。
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「僕の彼女を紹介します」

2005-11-22 08:47:07 | 映画の感想(は行)
 同じ監督・主演女優のコンビによる「猟奇的な彼女」に続いて“前半はお笑い、後半で泣かせ”という二段構造を取っているが、相変わらず作劇は上手くない。

 冒頭のヒロインの“投身自殺(?)”のシーンをはじめ、普通の映画ではクライマックスになるような場面をずらっと並べすぎて(しかも、それぞれの撮り方は万全とは言い難い)、ラスト近くの本当の見せ場があんまり盛り上がらないのだ。そもそも、このネタで2時間を超えること自体が、脚本の不手際を如実にあらわしている。

 だが、やはり今回も主演女優の魅力は圧倒的で、ドラマ運びの難点など笑って許してしまいたくなるのだから世話はない(爆)。つくづくチョン・ジヒョンはアジア屈指の若手女優だと思ってしまった。キレイな黒髪と堂々とした体格。どんなに粗暴な外れ者の婦人警官を演じようが、品の良さは隠しようがない。全編プラトニックな関係を押し通しても全く不自然ではないところも大したものだ。この監督(クァク・ジェヨン)とのコンビ作がまた製作されたならば、やっぱり観に行きたくなる。

 あと、X-JAPANの曲が“泣かせどころ”で高らかに響くのは日本人の観客としては苦笑いしてしまった。
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「オールド・ボーイ」

2005-11-22 07:03:43 | 映画の感想(あ行)
 カンヌ映画祭で「華氏911」と大賞を争った韓国映画だというが、どうも私は好きになれない。まず、画面が汚い。そして出演者たちの演技が胸焼けを起こすほど過剰。15年ぶりにシャバに出た主人公が日本料理屋(?)で生ダコを食うシーンがあるが、たとえて言うなら食いたくないのに無理矢理にタコの活き作りを口に押し込められたような不快感を覚えてしまうのだ。

 まあ、以上は私の「感想」に過ぎないのだが、それを抜きにしても何とも釈然としない筋書きではある。前半、主人公がコツコツと穴を掘って外に出ようとするシークエンスが何の伏線にもなっていないのを始め、突然解放されたことをまったく疑問にも思わず、さっさと自分の「復讐」に専念してしまうのは脳天気に過ぎるのではないか。

 彼に絡む若い女の「正体」も中盤で観客に勘付かれてしまうし、さらに「監禁の理由」に至っては正直な話アホらしいとしか言いようがない。思わせぶりなエピローグも蛇足だ。

 パク・チャヌクの演出は粘着質に過ぎ、ウェルメイドに徹した前の「JSA」とは雲泥の差。主演のチェ・ミンシクを含め、キャストには個人的に何の魅力も感じなかった。ただし、この血の気の多さはカンヌ審査委員長のタランティーノ好みであった事だけは納得できる。
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「青い車」

2005-11-21 06:55:50 | 映画の感想(あ行)
 幼い頃に事故に遭い、心と身体に傷を負った青年とその恋人、そして恋人の妹との三角関係を描く奥原浩志監督作品。

 よしもとよしともの短編コミックの映画化である。題名通りブルーを基調にした清澄な画面が印象的で、センスの良い選曲も含めて肌触りは極めて良いが、内容は物足りない。それは主人公の内面の掘り下げが足りないからだ。

 演じるARATAは髪を金色に染め、目元に傷跡を作り、終始猫背で何やらワケありの雰囲気を作ろうと努力はしているが、しょせん“外見のみ”である。作劇は物語のバックグラウンドをしっかりと語らなければならないのに、ここでは思わせぶりの心象映像でお茶を濁しているあたり、詰めが甘い。麻生久美子扮する恋人に至っては、何を考えているのかさっぱり分からず、主人公との心理的距離がどの程度なのか判然としない。

 だが、妹役の宮崎あおいにスポットが当たると、途端にスクリーンが締まってくる。若い女の純情さとしたたかさを自前の存在感だけで強くアピールさせてしまう、まったく大した女優だと思う。

 結論としてこの作品は“宮崎あおいの演技を堪能する映画”であり、逆に言えば、彼女だけを目立った存在にしないためには相当に力のある作劇でなければならないが、結果としてそれが不足したということだろう。
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