元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「青い車」

2005-11-21 06:55:50 | 映画の感想(あ行)
 幼い頃に事故に遭い、心と身体に傷を負った青年とその恋人、そして恋人の妹との三角関係を描く奥原浩志監督作品。

 よしもとよしともの短編コミックの映画化である。題名通りブルーを基調にした清澄な画面が印象的で、センスの良い選曲も含めて肌触りは極めて良いが、内容は物足りない。それは主人公の内面の掘り下げが足りないからだ。

 演じるARATAは髪を金色に染め、目元に傷跡を作り、終始猫背で何やらワケありの雰囲気を作ろうと努力はしているが、しょせん“外見のみ”である。作劇は物語のバックグラウンドをしっかりと語らなければならないのに、ここでは思わせぶりの心象映像でお茶を濁しているあたり、詰めが甘い。麻生久美子扮する恋人に至っては、何を考えているのかさっぱり分からず、主人公との心理的距離がどの程度なのか判然としない。

 だが、妹役の宮崎あおいにスポットが当たると、途端にスクリーンが締まってくる。若い女の純情さとしたたかさを自前の存在感だけで強くアピールさせてしまう、まったく大した女優だと思う。

 結論としてこの作品は“宮崎あおいの演技を堪能する映画”であり、逆に言えば、彼女だけを目立った存在にしないためには相当に力のある作劇でなければならないが、結果としてそれが不足したということだろう。
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「春夏秋冬そして春」

2005-11-21 06:54:07 | 映画の感想(さ行)
 キム・ギドク監督は「魚と寝る女」や「悪い男」などで知られているが、私は彼の作品を観るのはこれが初めて。韓国の山奥の小さな湖に浮かぶ寺を舞台に、そこに子供の頃に預けられた一人の男の人生を季節の移ろいと共に描く。

 こういう寓話性の高い設定では、作者側に観客を自分の世界に引き込む力業と聡明さが必要だが、残念ながら物足りない。とにかく、仕掛けが見透かされているのだ。

 主人公と謎めいた和尚との関係も、彼が語るウンチクも、独自性を出したつもりのセットも、すべてが“語るに落ちる”次元から一歩も踏み出せていない。終盤には和尚が湖の岸から寺に自在に移動できる“理由”を明かすのを始め、主人公にクンフーのポーズを取らせてみたり、大仰な挿入歌と共に汗くさい場面が延々と展開されたり、ヤケクソとしか思えないシーンばかりが続く。

 要するに“常識人が異能作家のマネをしただけ”というレベルであり、単なる自己満足の産物であろう。カネ取って見せるものではない。
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