元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「カンフーハッスル」

2005-11-26 18:04:33 | 映画の感想(か行)
 チャウ・シンチーの前作「少林サッカー」を世評ほどに面白く感じなかったのは、サッカーという“ルールのある競技”をネタとして選んでいたにもかかわらず、実際は“クンフーでのドツキ合い”に終わっていた点である。これではサッカーを題材にした意味があまりない。我が国の往年のマンガ「アストロ球団」を見習って欲しいと思ったものだ(笑)。

 ところが本作は、最初から“主人公と悪者との肉弾戦”といった香港製活劇の伝統スタイルを踏襲している関係上、戦い方においては“何でもアリ”の状況を可能にしている。これは正解だ。しかもグラウンドでの平面的な舞台設定がメインだった「少林サッカー」に比べ、本作は豪華なセットの中での立体的なアクションが展開。個々の活劇場面についても良くアイデアが練られており、爆笑と驚愕のポイントは極めて高い。

 そして何よりキャラクターが濃い。どいつもこいつも観ていてゲップが出そうなほどのテンションの高さだ。展開もテンポ良く、ラストに“泣かせ”の場面をも用意しておく等、チャウ・シンチーの監督としての“成長”が感じられる。

 とにかく“娯楽の殿堂、香港映画”を地でゆく快作で、誰にでも勧められる映画である。
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二葉亭四迷「浮雲」

2005-11-26 17:59:39 | 読書感想文
 言文一致体の代表作として歴史の教科書に載っている小説だが、実際に読んだのは(恥ずかしながら)つい最近である。舞台は明治中期。静岡県士族の子である主人公・内海文三は、学校卒業後に役所に勤めるために東京の叔父の家に下宿するが、同居する従妹のお勢に恋心を抱いたのも束の間、思わぬ事で役所をリストラされてしまう。物語は文三とお勢、そして要領の良い主人公の友人・本田昇との微妙な三角関係(ようなもの)を軸に展開する。

 これは面白いと思った。時代背景や文体はともかく、上質の青春小説を読んでいるような充実感がある。プライドと劣等感がせめぎ合う主人公の内面。奔放なお勢の言動に一喜一憂し、恋敵の存在も気になり、不安定な心理状態で悶々と毎日を送る文三の姿は、人生の岐路に逡巡する普遍的な若者像そのものではないか。舞台を現代に変えて映画化してもまったくおかしくない題材だ。あえてストーリーが「未完成」に終わっているのも、これ以上続けてあらずもがなの結末をつけていたずらに通俗的になるのを回避した作者の冷静な判断だと思う。

 意外とハイカラな明治時代の東京庶民の生活ぶりも興味深い。
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