元・副会長のCinema Days

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「ビリーバーズ」

2022-08-21 06:51:21 | 映画の感想(は行)
 カルト宗教を題材にした山本直樹による原作漫画は99年に連載が始まったが、これは95年に起こったオウム真理教事件に影響を受けている。だから現時点で映画化することは証文の出し遅れの感もあったが、何と今一番アップ・トゥ・デイトなテーマを扱った作品になってしまった。言うまでもなく“あの事件”のせいである。改めてこのテーマは風化させてはならないと、強く思う。

 宗教団体“ニコニコ人生センター”は、信者に無人島でサバイバル生活をさせ俗世の汚れを浄化し解脱を図るというプロジェクトを実施していた。現在はオペレーターと呼ばれる若い男と議長と命名された中年男、そして副議長役とされる若い女の3人が島に滞在している。彼らは日々瞑想やテレパシーの実験など、本部からの指示による修行に励んでいたが、勝手に上陸してきたチンピラどもを排除してから、様子がおかしくなる。今後の方向性に関して互いの意見が衝突し、欲望と打算が表面化。やがて、当局側に追われた教祖と信者たちが大挙して島に押し寄せてくる。



 彼らが島でやっていることは、まったく意味が無い。いくら各人が見た夢の報告をしようと、半分地面に埋まって自己を“総括”しようと、それで何かが好転するわけでもない。逆に自分を追い詰めるだけだ。この、外界から隔絶され既存の価値観から切り離された状況こそが、カルト宗教のフェーズの一つであると言えよう。

 しかしながら、絵空事の教義はリアルな人間の本能に勝てるはずもない。後半から3人がカオス状態に突入するのは当然のことだ。対して、教団によるガバナンス(?)が行き届いている教祖に近い信者たちには、それが通用しない。オペレーターの場合、元は母親が信仰ににハマっていて、それを何とかしようと教団に近付いたら自分が取り込まれてしまったという複雑な立場だ。だが、そんな彼でも本音で生きるしかない無人島での生活を体験すれば、考え方を変えざるを得ない。つまりは、カルト宗教こそが“俗世の汚れ”そのものなのだ。

 正直言って、城定秀夫の演出は今回それほど上手くいっているとは思えない。展開が平板で、終盤の“大活劇”のショボさには失笑する。ラストの扱いも釈然としない。しかし、取り上げられた素材の重大さ、そしてキャストの熱演により見応えのある作品になっている。オペレーター役の磯村勇斗は、これまでのイメージをかなぐり捨てた力演。彼のファンは戸惑うだろうが(笑)、評価出来る仕事ぶりだ。議長に扮した宇野祥平も、アッパレな変態演技で場を盛り上げる。

 だが、本作の一番の“収穫”は、副議長を演じる北村優衣である。後半は服を着ている場面の方が少ないほどだが、とにかく物凄くエロい。この若さ(99年生まれ)でこれだけのワイセツさを表現できるとは、端倪すべからざる人材だ。曽我部恵一の音楽は良好で、原作者の山本も顔を見せるという遊び心も捨てがたい。確実に観る者を選ぶ映画ではあるものの、屹立した存在感を示している。

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