元・副会長のCinema Days

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「四月の魚 ポワソンダブリル」

2016-01-16 16:38:50 | 映画の感想(さ行)
 86年作品。大林宣彦の監督作は出来不出来の差が途轍もなく大きいが、本作はダメな部類に入る。しかしながら、単なる駄作として片付けるには、妙な存在感がありすぎる。つまりは“珍作”ということになるのだろうか。完成から公開まで1年半もかかったのは、配給側も作品の位置付けが分からずに逡巡したことが想像出来る。

 33歳の根本昌平の肩書きは一応映画監督なのだが、7年前のデビュー作以来、1本も映画を撮っていない。初監督作は評論家筋に大ウケで、その勢いで4歳年上の女優の不二子と結婚してしまったが、今では彼女のヒモみたいな扱いだ。ある日、昌平のもとに数年前CM撮影で訪れた時にお世話になった、アラニア島の日系二世、パナポラ・ハンダ酋長から手紙が届く。今度来日するから、根本家を訪れたいという。



 アラニア島では、友情の誓いとして妻を一晩提供するという習慣があり、昌平も酋長の若妻ノーラと一晩過ごしている(実は一晩中2人で星の数を教えていただけ)。今度は昌平の番なのだが、困った彼は新人女優を不二子の替え玉にするというシナリオをでっちあげる。

 しかるべき作り手がそれなりの役者を集めて普通に撮れば、けっこう面白いシチュエーション・コメディになったことは想像に難くないが、本作は見事にハズしていて少しも笑えない。とにかく描写がユルユルで、展開も脱力系。眠気さえ催す。だが、演技経験の少ない主役の高橋幸宏がヘタな台詞回しでモノローグめいたものを連発しても、それほど不快にはならない。

 それは、主人公の特技であるフランス料理のウンチクが同じくユルい調子で綴られるタイミングが、何となく気持ちが良いからだ。音楽も高橋が担当しているが、これもこの雰囲気とマッチするようなフワフワとした曲調で、全体としていわば“環境ビデオ”の変化球バージョンみたい様相を呈する。これは得難い個性だと思う。

 不二子役の赤座美代子をはじめ、三宅裕司、泉谷しげる、峰岸徹、そしてハンダ酋長に扮する丹波哲郎と、豪華なのか奇を衒っているのか分からないキャスティングも印象的。原作者のジェームス三木もチョイ役で顔を出す。なお、替え玉の若手女優を演じた今日かの子は面白いキャラクターの持ち主だが、この映画だけで芸能界から消えてしまった。ちょっと扱いに困る映画に出るのも考えものだ。

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