
(原題:PA VILLSPOR )2025年2月よりNetflixから配信されたノルウェー作品。スポ根仕立てのホームコメディだが、ユニークかつ訴求力の高いテーマを扱っており、観て良かったと思わせるものがある。キャストは好調だし、散りばめられたギャグのレベルは決して低くはない。何よりこの映像をチェックするだけでも価値がある。
オスロに住むシングルマザーのエミリーは、前夫との子である小学生のリリーと暮らしていたが、トイレの故障により一時的に兄の家に身を寄せるハメになる。さらにはリリーは暫定的に前夫が引き取ることになり、エミリーの屈託は増すばかりだ。そんな彼女に、兄は自身もエントリーしているリレハンメルで開催予定のクロスカントリースキーのレースに出場することを強く勧める。身体を動かせば、悩みも軽減するんじゃないかという目論見だ。ところがエミリーは本格的なスポーツの経験は無い。それでも彼女は何とか踏ん張って、この難局を乗り越えようとする。
退っ引きならない状況に追い込まれているのはエミリーだけではないというのは、かなり有効なプロットだ。兄は結婚してから長いのだが子供が出来ず、妊活に励んでいるものの、上手くいかない。そのおかげで夫婦仲も危うくなっている。エミリーの前夫は再婚していて相手は妊娠中だが、引き取ることになったリリーとの関係は万全ではない。さらに、エミリーは競技前に知り合った若いスタッフと仲良くなり、兄もスキーインストラクターの若い女と懇ろになる。こんな複雑なシチュエーションを抱えつつも、スキー大会で一応の解決を見出そうという筋書きは悪くない。
クロスカントリー競技はさすがノルウェーの“国技”だけあって、撮り方は堂に入ったものだ。そして、50キロ以上を踏破する難コースに数千人もの市民スキーヤーが参加するというのも驚きである。素人同然だったヒロインは悪戦苦闘するのだが、次第にのめり込んでいくあたりも定番ながら見せる。
そして、競技後の成り行きは、各個人の懊悩はあるにせよ、エミリーを取り巻くすべての者は“家族”であるという、驚くべきポジティヴな地点に着地する。これは大いに納得してしまった。もちろん登場人物には悪い奴がいないという前提はあるのだが、こんな切り口の提示には目から鱗が落ちる思いである。
ハルバル・ビッツォの演出はソツがなく、スポーツ描写もお笑い場面も万全だ。主演のアーダ・アイデはじめ、トロン・ファウサ・アウルボーグにマリー・ブロックス、クリスティアン・ルーベク、シャナ・マタイといった顔ぶれは馴染みは無いが、皆良い演技を見せている。そして大会が行なわれる雪山の風景の、何と素晴らしいこと。周囲の空気まで浄化されるようだ。