元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「サバカン SABAKAN」

2022-09-16 06:28:38 | 映画の感想(さ行)
 子供を主人公にした一夏の“冒険”を描いた映画は、過去にも秀作・佳作が目白押しだ。それだけ普遍性が高い鉄板の設定ということだが、本作はとても及第点には達していない。違和感なく物語を綴るだけのシナリオが出来ておらず、無理な展開が目立つ。筋書きは行き当たりばったりで、観終っても何のカタルシスも無い。

 86年の夏、長崎県長与町に住む小学5年生の久田孝明は、ある日同じクラスの竹本健次から一緒にイルカを見に行こうと誘われる。ところが孝明はあまり気が乗らない。なぜなら健次は家が貧しくて同級生から避けられていたからだ。それでもクラスで唯一自分を笑いものにしない孝明を気に入っていた健次は、彼を無理矢理に連れ出す。様々なトラブルに遭遇しながらも何とか目的地に到達した2人は、それから夏の間仲良く過ごすようになる。しかし悲しい事件が起こり、2人の夏は終わりを告げる。

 最大の不満点は、健次のキャラクターが練られていないことだ。貧乏なのは仕方が無いとして、コイツは供え物を平気で盗み、畑からミカンを何度も拝借し、町の売店では万引きの常習犯でもある。そして孝明を強引に危険な遠出に誘い、重大事故の一歩手前まで追い込んでしまう。どう考えても付き合うには値しない人間だ。

 また、健次の家は見かけは本当にボロいのだが、中に入ると至って普通なのは拍子抜けだし、タイトルになっているサバの缶詰が大して効果的に取り上げられていないのも不満だ。だいたい、子供が潮の流れが速い海域を泳いで沖の島まで渡るのは不可能だし、助けに入る女子高生の正体も最後まで分からない。

 くだんの“健次が遭遇する悲しい事件”にしても無理矢理にデッチ上げたようなシロモノで、到底納得できるものではない。斉藤由貴のポスターやキン肉マン消しゴムなど、この時代を象徴する事物こそ登場するが、かなりワザとらしい。TVディレクター出身の金沢知樹の演出は平板で、何やら「スタンド・バイ・ミー」あたりを意識したような雰囲気も目立ち、観ていて萎える。

 尾野真千子に竹原ピストル、貫地谷しほり、岩松了、茅島みずきなどのキャストは大して記憶に残らず。子役2人は達者だが、それはこの手の映画にとっては最低限の条件なので殊更評価するほどのことではない。大人になった孝明に草なぎ剛が扮しているが、それ自体は印象に残らず。映し出される長与の風景は別に美しくも何ともなく、その点も愉快になれない。観る必要の無い映画だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「キングメーカー 大統領を... | トップ | 「あの頃。」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(さ行)」カテゴリの最新記事