元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」

2015-04-13 06:35:40 | 映画の感想(あ行)

 (原題:THE IMITATION GAME )題材が興味深く、構成が巧みで、キャストの仕事ぶりも申し分ない。高評価も頷けるほどの出来の良さで、惜しくもアカデミー作品賞の獲得は逃したが、今年度の外国映画の収穫の一つになることは間違いなしだ。

 1951年、マンチェスターにある数学者のアラン・チューリングの家が荒らされるという事件が発生。取り調べを受けたチューリングは戦時中にブレッチリー・パークで働いていた頃を回顧する。一方、担当刑事はチューリングの経歴を知って驚く。1939年、思わしくない戦況を打破するために、イギリス軍当局は難攻不落と言われたドイツ軍の暗号“エニグマ”の解読チームを発足させる。集められたのはチューリングをはじめとするエキスパート達。だが、プライドが高く無愛想な彼は他のメンバーとの間に壁を作り、そのため仕事は滞りがちだった。

 そんな時クロスワードパズルの達人の女性ジョーンが参加。チューリングの良き理解者となったことで、チームに結束力が出てくる。やがて彼らは偶然から暗号解読のきっかけをつかむが、上層部からの思わぬ横槍で解読した情報を実際の戦術に反映することが出来なくなる。さらに映画は、チューリングの少年時代における秘められた過去をも描き出す。

 主人公はナチスドイツの暗号を解読し連合軍を勝利に導いた人物とされるが、今までその名前があまり知られていなかったこと自体が彼の不遇を示していると言えよう。その背景を3つの時制をほぼ同時進行させることによって、チューリングの内面描写に重点を置いて進行していくのは適切な処理である。

 彼は当時は罰せられた同性愛者であり、少年時代は挫折を味わい、マイノリティーの哀しみを抱えながらも暗号解読チームに加わることによって次第に“公”に目覚めてゆく。しかし、戦争には勝利したものの自分達の成果が不本意な形で使われ、失意の戦後を迎える。おそらくは、チームに参加せずに自己の研究のみに没頭していれば、面白味は無いがそんなに辛酸を嘗めることもなく人生を全うしていたことだろう。

 ところが他者や当局側に関わり、自らの言動が広範囲な影響を与える立場になると、彼のアイデンティティーは大きく揺さぶられる。またそこに戦争という理不尽な事象が加わることにより、チューリングの苦悩は作劇と同様に重層的になっていく。このあたりの持って行き方は見事だ。

 北欧出身のモルテン・ティルドゥム監督にとってこれが初めて手掛ける英語圏映画だが、堂々とした演出で目立った瑕疵は感じさせない。主役のベネディクト・カンバーバッチは名演というしかなく、アンビバレンツな主人公の内面を的確に表現していて見事だ。キーラ・ナイトレイやマシュー・グード、チャールズ・ダンス等、共演者のパフォーマンスも申し分ない。

 さらに特筆すべきはサミー・シェルドン・ディファーによる衣装デザインで、ブリティッシュ・トラッドの真髄を見せてくれるだけではなく、各キャラクターに応じたコーディネートを工夫している点も感心した。
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