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元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「最後の忠臣蔵」

2011-01-11 06:25:48 | 映画の感想(さ行)

 こりゃヒドい。粗製濫造気味である昨今の時代劇の中にあって、とりわけ質の低さが目立つシャシンだ。何より演出が最低。メリハリも何もなく、ただ漫然と面白くもない筋書きを追うのみ。監督の杉田成道はテレビ出身だが、まさに低視聴率に喘いだ挙げ句に1クールで終了させられたドラマのごとく、画面に隙間風が吹きまくっている。杉田を起用したプロデューサーは猛省すべきであろう。

 吉良邸討ち入りの後には大石内蔵助をはじめとする赤穂浪士は全員切腹して果てたはずだった。しかし、実は2人の男が生き残っていて、それは大石から遺族の面倒を見るように言いつけられた寺坂吉右衛門と、討ち入り前夜に行方をくらました瀬尾孫左衛門である。親友同士でもあった二人だが、事件の後は吉右衛門は孫左衛門に会っていない。ところが16年の歳月を経て、思わぬ形で再会することになる。

 いわば忠臣蔵とは別の“外伝”という位置付けであり、本家たる討ち入り映画と同じく昔から幾度も取り上げられてきた素材である。ただし今回の“外伝”の内容はというと、大石には討ち入りの前に身の回りの世話をしていた女との間に娘が出来ていて、孫左衛門はその子が立派な家柄に嫁ぐまで面倒を見ていたというものだ。ハッキリ言って、どうでもいいようなネタである。

 たとえば浪士の一人が“本番前”に別のトラブルに巻き込まれて切った張ったの展開を強いられるとか、赤穂藩士の中に「四谷怪談」の主人公になるべき人物がいたとかいう、過去の“外伝”映画が取り上げたようなエキサイティングな逸話と比べると、随分と気勢の上がらないストーリーだ。

 それでも原作(私は未読)は池宮彰一郎の手によるものだし、それなりの段取りを踏めば説得力のある作品に仕上がったのかもしれない。しかし前述の通り監督が三流なので、盛り上がるべきポイントがさっぱり見えない退屈な映画に終わっている。

 とにかく、各登場人物の描写が内面全然なっていない。討ち入り事件のアフターフォローに人生を費やしてしまった吉右衛門の苦渋や、人知れず内蔵助の遺児を育てるため、これまた自分自身の平凡な幸せを得ることからシャットアウトされてしまう孫左衛門の苦悩などが、まるで出ていない。佐藤浩市と役所広司という手練れのキャストを配しても、低レベルの演出では如何ともし難いのだ。

 そもそも、武士という身分の在り方に対する問題意識のカケラさえなく、当然の事ながら現代に通じるテイストもない。こんないい加減なスタンスで、クライマックスの婚礼の場面に感動しろと言われても、そうはいかない。

 加えてヒロイン役の桜庭ななみが目も当てられないほどの学芸会演技しか出来ず、孫左衛門に心を寄せる元芸者に扮した安田成美も救いようがないほどの大根。一体何を考えてこのキャスティングを採用したのか、頭を抱えるばかりである。

 山も谷もない話がダラダラと続いた後は、何だか思わせぶりでその実たいした内容も意味もない結末が待っているばかり。とにかく観る価値はゼロであり、とっとと忘れてしまいたい映画である。
コメント (3)
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