元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「リッキー」

2011-01-13 06:35:52 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Ricky )生まれてきた赤ん坊は背中に羽が生えた“天使”だった・・・・というモチーフから予想される定型的なファンタジー路線には、最後まで寄り付くことはない。何せ監督がフランソワ・オゾンだ。描き方はシニカルで、ストーリー面でのカタルシスは皆無である。

 しかし、今回は必要以上に“ファンタスティックに仕上げてくれるかもしれない”という期待を観客に持たせているあたりが少々居心地が悪い。それは、この赤ん坊の造形が上手く行き過ぎているためだ。

 女手一つで小学生の娘を育てているカティは、勤務先の工場でスペインから出稼ぎに来た新人のパコと親しくなり、やがて彼は一緒に暮らすようになる。ふたりの間には男の赤ん坊が生まれてリッキーと名付けられるが、しばらくするとリッキーの背中には大きなあざが出来る。パコが赤ん坊を虐待しているからだと考えたカティは彼を家から追い出すが、そのあざからは翼が生えてくる。翼はリッキーの成長と共に大きくなり、やがて部屋の中を勝手に飛び回るようになるのだった。

 リッキーの背中の羽が次第に発達していく過程は、とてもリアルだ。飛行している姿も、実に良くできている。SFXと特殊メイクは相当に健闘していて、ハリウッド作品と比較しても遜色はない。さらに家族で買い物に出た際、ちょっと目を離した隙にリッキーがスーパーの店内を飛び回り大騒ぎになるシーンさえある。

 当然、一家はマスコミ陣から追い回されるようになって・・・・という展開は、よくあるファンタジー映画のルーティンにハマり込んでおり、それ相応の結末を誰しも予想してしまう。たとえ一筋縄ではいかないオゾン監督の作品であると分かっていてもだ。

 しかし、終盤になると例によって肩透かしのシニカルなオチが待っている。これはこれで異存はないのだが、ならばそれまでのファンタジー趣向は何だったのかと言いたい。要するに、映画のエクステリアと作家性とがマッチしていないのだ。これでは、観客としては釈然としない気持ちで劇場を後にするしかない。

 母親役のアレクサンドラ・ラミーとパコに扮したセルジ・ロペスは好演。社会的に恵まれないカップルの佇まいを良く出している。特に、ちょっと気に入った男を見付けるとスグに一緒になろうとするラミー演じるカティの造型は、女性の扱いに対し容赦のないこの監督のテイストがとても感じられる。あと、娘に扮したメリュジーヌ・マヤンスも印象的。子供のくせに見ようによっては母親よりも色っぽい。特に、生活に疲れたような気怠い表情なんて絶品だ(笑)。末恐ろしい子役である。
コメント
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