元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「わたしの可愛い人 シェリ」

2011-01-28 06:33:13 | 映画の感想(わ行)

 (原題: Cheri )舞台設定の説明に終始した序盤こそ冗長だが、次第に達者なキャストの“腹芸”に引き込まれ、結果として観賞後には決して小さくはない満足感を得ることが出来た。ベテランのスティーヴン・フリアーズ監督の円熟味を堪能する一編である。

 20世紀最高の女性作家と言われるコレットの代表作「シェリ」(私は未読)の映画化。1906年のパリ。主人公のレアは19世紀末の華やかだったベル・エポックの時代に生きた元高級娼婦である。全盛期には稼ぐだけ稼ぎ、50歳に手が届こうとする今では引退して悠々自適の生活だ。そんな彼女が、元“同僚”でもあるマダム・プルーから、19歳の一人息子シェリの面倒を見てほしいと頼まれる。

 シェリはおよそ考えられる限りの道楽をやり尽くし、この若さにして人生に飽き飽きしているような奴だ。マダム・プルーは、修羅場も体験してきたレアに息子を叩き直してもらい、マトモで金を稼げる男にしたいのだ。当初数週間のつもりで“軽くあしらう”つもりだったレアだが、逆にシェリに惹かれてしまう。

 要するに本当の恋愛をしたことがなく金儲けのことだけ考えて中年になってしまった女が、思いがけず魅力的な年下の男に出会って“よろめいて”しまったという話だ。これを下手な演出家が手掛けると冗長なメロドラマにしかならないが、さすがコスチューム・プレイでは定評のあるフリアーズ監督、堂に入ったキャストの動かし方で説得力のある作劇を達成している。またそれに応える俳優陣の頑張りも素晴らしい。

 レアを演じたミシェル・ファイファーは、セレブを気取りながらも胸のときめきを抑えられない女心をヴィヴィッドに表現。終盤、思わず我に返って鏡を見つめ、自分がもう若くはないことを自覚するようなショットなど絶品だ。

 シェリ役のルパート・フレンドも一見軽佻浮薄ながら、実は苦悩を抱えている若者像をナイーヴに好演。ドラマが進むほど内面描写に磨きが掛かってゆくのが見ものだ。シェリのその後の運命も十分に納得出来るものがある。マダム・プルーに扮するキャシー・ベイツは相変わらずの海千山千ぶり。

 特筆すべきは衣装や美術で、アールヌーボー・スタイルの小道具・大道具、ヒロインが身にまとうハイセンスなドレス等は、その方面に興味のある人ならば一層楽しめるだろう。ダリウス・コンジによるカメラワークもなかなかのもので、観る価値十分の佳作である。
コメント
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