(原題:RED CLIFF PART II/赤壁)今後の映画興行の在り方を示す意味では興味深い一編だ。前作が封切られてから半年近く経つが、続編の公開にありがちな“パート1を観ていることが鑑賞の絶対条件”みたいなスタンスが微塵もないことが面白い。
本当のことを言えば、もちろん前作を観ていないと物語の背景や登場人物の関係は分からないのだ。しかし、興行主のエイベックスはパート1を観ていなくても何ら支障がないように、本編前に十分時間を掛けた“前回までのあらすじ”を勝手に挿入した。もちろんナレーションと画面表示は日本語。CGも効果的に使われ、これが実に分かりやすい。
話自体が日本人にも馴染みの深い“三国志”だったことも大きいが、なおかつダメ押し的に説明を繰り返すことで、観客をスグに映画の中へと引き込むことに成功している。さらに映画が始まると、前回でもお馴染みになった過剰な説明的テロップの洪水だ。主だったキャラクターが出てくると氏名がフリガナ付きで表示される。場面が切り替わると“ここは○○側の陣営です”みたいなフォローが入る。まさにかゆいところに手が届くような、何も考えずに観ていられる至れり尽くせりのエクステリアだ。
パート1はテレビゲームみたいな映画だと思ったが、この二作目は遊園地だろう。観る者は想像力や洞察力を働かせる余地は全くなく、出し物を受動的に楽しんでいるうちに何となく時間は潰せる。こういうマーケティングを編み出したエイベックスのスタッフはアイデア賞ものだ。しかし、私のような昔ながらの(?)映画ファンとすれば、こんなのは“邪道”であることは論を待たない。本作が興行的に成功したのを受けて、他の娯楽映画でも同じように説明的小道具が満載になってしまっては堪らないのだ。
さて、映画自体の出来はどうかといえば、特筆されるものはない。前半までは目立った活劇シーンがなく、観客を焦らしておいて中盤以降にグッと盛り上げる作戦が功を奏し、後半のアクションの釣瓶打ちは大したものである。ただし、元より登場人物の内面描写や歴史に対する骨太な見解などを捨象しているため、深みはない。観た後はすぐに忘れ去られてしまうようなシャシンだ。
もちろん、たかが映画に対して物事を突っ込んで考えない多くの観客にとって、ほどよい“薄味感”だと言うことは出来る。ただ、暗黒街ものを手掛けていた香港映画時代や、ハリウッド進出後の「フェイス/オフ」などでは映像面でも主題の掘り下げ方でも奥行きのある展開を見せていたジョン・ウー監督の作品としては、まるで物足りないことは確か。終盤付近に取って付けたように“戦争の虚しさ”を強調するのもワザとらしく、彼のフィルモグラフィの中では上位に来る作品では決してない。