元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「おと な り」

2009-06-17 06:22:44 | 映画の感想(あ行)

 御都合主義の権化みたいなシャシンだ。プロの写真家とフラワー・デザイナー、緻密な仕事ぶりが要求される職業の二人が、生活音が筒抜けの浮世離れした古いアパートで隣同士の部屋にいるという設定からして噴飯ものである。しかも、彼らは実際に会ったことはないという。いくら近所付き合いがないとはいっても、顔ぐらいは見たことはあるはずだ。

 さらに、後半この二人は中学生の頃に同級生だったことが判明するに及び、あまりの太平楽な筋書きに二の句も告げない。この脚本家(まなべゆきこ)は、かような与太話を書いていて恥ずかしくなかったのだろうか。その神経はまったく理解出来ない。

 各キャラクターの掘り下げも極めて浅い。フォトグラファーは自分のやりたいことを実現させるために、あまり努力しているようには見えない。せいぜい契約先の社長に口利きを頼む程度だ。サラリーマンならともかく、自由業のスタンスならばもっと直截的に複数の出版社に売り込むぐらいのことやって良いではないか。フラワー・デザイナーの方も、夢をつかみ取ろうとするガッツが感じられない。何となくこの仕事をやって、何となく海外へ修行しに行くみたいな気合いの無さだ。

 二人を取り巻く連中にしても、気乗りしないまま“売れっ子モデル”になった奴とか、三文小説のネタにするためヒロインにモーションをかけてくる野郎とか、顔も見たこともない“メル友”に入れ上げる若造とかいった根性の入りきらない連中ばかり。別に“ダメ人間が出てくるのがいけない”とは思わないが、こいつらの“ダメっぷり”が中途半端かつ微温的で、全然絵にならないのだ。

 熊澤尚人の演出は凡庸と言うしかなく、作劇におけるメリハリは皆無である。カメラを回していればいつの間にか映像が撮れて、適当に繋ぎ合わせれば映画になるとでも思っているのだろう。主役の岡田准一と麻生久美子、そして岡田義徳や市川実日子、とよた真帆、平田満、森本レオといった贅沢なキャストを使い、音楽には安川午朗まで起用しているのに、実にもったいない。意味もなく雑な画質の映像にも大いに盛り下がる。

 唯一の見どころは、カメラマン宅に押しかけ女房みたいに乱入してくる若い娘に扮する谷村美月である。彼女のように“出てくるだけで楽しくなる女優”というのは貴重だ。しかも今回は役柄が関西人ということもあって、大阪出身の彼女にとってはネイティヴ・スピーカー全開の“お笑いモード”突入。まさに独擅場といった感がある。逆に言えば谷村のパフォーマンスが無かったら、途中退場していたような映画であることは確かだ。
コメント
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