元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

最近購入したCD(その17)。

2009-06-06 06:54:24 | 音楽ネタ
 まず紹介するのがシアトルのロック・バンド、フリート・フォクシーズの同名のデビュー・アルバム。最近聴いたディスクの中で最もインパクトが強かったのがこれだ。先日「トワイライト 初恋」という映画について述べたが、あの作品で描かれた米国ワシントン州の幽玄な自然の風景がそのまま音楽になって流れてくると思えばいい。とにかく壮麗でスケールが大きい。旋律はあくまで優美で、コーラス・ワークの素晴らしさはタメ息が出るほどだ。通常のギターやドラムスといったロックを構成する基本的な楽器だけではなく、バンジョー、マンドリン、ピアノ、フルートといった多種多様なインストゥルメントを使い、分厚い音世界を展開させている。



 各ナンバーは一見同じ調子のように思えるが、それぞれ巧みにニュアンスを変えてきており聴き飽きない。録音もこのジャンルのディスクにしては良い方だろう。リーダーでヴォーカルのロビン・ペックノールドをはじめとするメンバーは、何と20歳代前半という若さだ。こういうグループの出現を見ると、アメリカの音楽文化がいかに奥深いものかを痛感する。ヒットチャートではCMやテレビドラマとのタイアップ曲がえらく目立つ“音楽後進国”の日本とは雲泥の差だ。なお、国内盤CDに関してはファースト・アルバムに先立って発売されたEP盤の「サン・ジャイアント」がカップリングされており、その意味でもお買い得感の高い音楽ソフトである。

 フロリダ州を拠点として活動を続けてきたジャズ・ピアニストのマイケル・ロイヤルが、自らのトリオを率いてリリースしたアルバム「トランジション」は、その簡素すぎる装丁に誰しも買うのをためらってしまうだろう。みすぼらしい紙ジャケットにディスクが放り込まれているだけで、CDを入れるビニール状の袋さえない。もちろん別添のライナーノーツも省略されており、ジャケットの裏に簡単な紹介文が書いてあるだけだ。しかし、内容は目を見張るクォリティの高さである。見かけばかりで判断していては、めぐり逢えない音楽もあるのだ。



 「サム・アザー・タイム」や「フットプリンツ」といった良く知られた曲のカバーを中心に、いくつかのオリジナルが挿入された構成。まずそのクリスタルのような透徹した音色に魅せられてしまう。メロディの美しさを存分に引き出すロイヤルの繊細極まりないピアノ・タッチと、マイナーだが手練れのテクニシャンであるドラマーとベーシストの強力なリズム・セクションとのコラボレーションは、スリル満点だ。けっこう緊張感はあるが、決して聴き手を突き放さない。それどころか清涼なサウンド世界にリスナーを引き込んでしまう。録音もかなり優秀で、部屋の空気まで変わってくるようだ。どこにでも売っているディスクではないものの、耳を傾ける価値はある。

 ヘンデルのオルガン協奏曲は良く知られたナンバーであるにもかかわらず、意外と代表盤が少ない。曲の雰囲気からしてモダン楽器よりもオリジナル楽器を使った演奏がツボに入ると思われるのだが、一時期は評判になったトレヴァー・ピノック&イングリッシュ・コンソートによるアルバムは国内盤のリリースが終わったようだし、定番と言われているトン・コープマン&アムステルダム・バロック・ソロイスツ盤は、個人的にはどうもマジメすぎて面白くない。そんな中で久々の快打が、このオッターヴィオ・ダントーネ&アカデミア・ビザンティーナというイタリア勢によるアルバムである。



 まず感じるのは音色の明るさだ。快晴の空の下で野外コンサートを聴いているような爽快感がある。ダントーネのオルガンは実にスムーズで屈託がない。かといって決して軽くはなく、要所を押さえた堅実さも覗かせる。時折挿入されるちょっとしたケレン味も絶妙の効果だ。バックを務めるアカデミア・ビザンティーナの演奏は小気味良く、モタついた部分は微塵もない。聴き手によっては陰影が無さ過ぎると思うかもしれないが、この清新な持ち味は“これでいいのだ!”という説得力を持っている。録音も良好。左右の広がりは程々だが、各楽器の前後の距離感は上手く捉えられている。特にやや腰高に定位するオルガンの響きは、ノーブルかつ鮮やかだ。
コメント
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