元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

福井晴敏「Op.(オペレーション)ローズダスト」

2009-06-16 06:46:44 | 読書感想文
 賛否両論があるらしいが、個人的には福井の作品の中では一番楽しめた。都内で多発する爆弾テロ事件。この背景には秘密組織である自衛隊の特殊部隊(ダイス)と、それが担うオペレーションの一つが頓挫したことによる不満分子の造反があった。警視庁公安部のベテラン捜査官と、警察に出向してきた若い自衛隊員(実はダイスの構成員)は共同して調査に乗り出すが、事態は思わぬ方向に動き出す・・・・といった活劇編だ。

 「亡国のイージス」に続く“ダイス・シリーズ”であり、人生に疲れた中年男と心に傷を負った若者とのコンビという設定は正直“またか”と思ってしまうのだが、これがなかなかに読ませるのは、従来の作品とは違った前向きなテーマが内包されているからだ。以前の「亡国のイージス」や「Twelve Y.O.」が、文字通り現在の“亡国”の有り様のリポートに終始していたのと比べるれば、ひとつの“進化”だと言って良い。

 テロリストのバックに控える政財界人は、この争乱を契機に日本を“普通の国”にしようと企む。この“普通の国”というのは、外国の干渉を廃し独立独歩で国の主権を堅持する体制のことだ。当然ながら軍事力も自前で揃え、言うべき事を主張できるだけの国力を整えようとしている。政財界に日本の国益よりも他国の利益を優先するような輩が目立つ昨今の状況において、このような動きは一見魅力的に映るのは確か。

 しかし、主人公達が指摘するように、これらは“古い言葉”に過ぎないのだ。かつてこの“古い言葉”が暴走し、無謀な戦争に引きずり込まれて壊滅的な被害を受けたことがあった。今またこの“古い言葉”を引っ張り出してみても、同じ事の繰り返しになる公算が強い。ならば“新しい言葉”とは何か。それは作中では具体的に語られない。おそらくは作者も確定出来ていないのだろう。しかし、大事なのは“新しい言葉”を具体的に紡ぐことではなく、その“新しい言葉”の存在を信じることだ。キーワードは“希望”である。

 文庫本にして全三巻の大作で、文章の“情報量”も高い。特に活劇場面は福井の独擅場であり、まるで映像が前面に迫ってくるようだ。ただし、派手なドンパチが展開するのはお台場であり、いかにもフジテレビに映画化してもらいたいような下心があるのは愉快になれない。それが唯一の欠点だ。
コメント
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