元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ショート・カッツ」

2009-06-20 06:44:22 | 映画の感想(さ行)

 (原題:Short Cuts)93年作品。アメリカ西海岸のとある地方都市を舞台に、22名の登場人物が交錯するグランドホテル形式のドラマが展開する。原作レイモンド・カーヴァー。監督はロバート・アルトマン。93年ベネツィア国際映画祭グランプリ作品で、22名全員に特別賞が与えられている。さて、率直に言って全然面白くない映画である。冒頭“メドフライ”と呼ばれる害虫の駆除薬を撒くため夜の住宅地を低空飛行するヘリの一群があらわれ、これは何か起きそうだと胸騒ぎを覚えたが、映画が進むにつれ段々と緊張感が切れてきた。

 ニュース・キャスターの夫(ブルース・デヴィッドソン)と妻(アンディ・マクダウェル)、抑圧されている感じのプール清掃人(クリス・ペン)、浮気症の警官(ティム・ロビンス)と倦怠気味の妻(マデリーン・ストウ)、酒好きのリムジン運転手(トム・ウェイツ)と元妻である中年のウェイトレス(リリー・トムリン)etc.いろいろなキャラクターが二人一組で細かいカット割りで次々と紹介されていく。映画はこれらカップルのエピソードをオムニバス形式に羅列するのではなく、それぞれが他のすべてのカップルに何かの影響を与え、運命を変えていくように仕向けるような、込み入った脚本を用意している。

 一つ一つのエピソードについて説明すると長くなるので省略するが、全体的に言えることは、キャラクター全員が嫌になるほどエゴイスティックで、自分勝手な行動が関係ない他人の不幸を呼び、それがまた自分たちにかえって行くという、人間の持つどうしようもなさを一歩引いた意地悪な視点で捉える作者のイヤらしさだ。それによって現代アメリカ社会の人間関係の不安定さをブラックな笑いと共に風刺しようという魂胆だ。

 この方法のどこがダメか具体的に言うと、映画の中での混乱した人物関係の危うさは、映画が始まる前から事象的に完結しているのであって、わざわざもう一度かき回して見せていただく必要などない点だ。アルトマンの最良の作品「ナッシュビル」(75年)と一見同じ手法ながら決定的に違うのは、「ナッシュビル」がバラバラの人間関係を断片的に繋ぐうちに、それが大きなうねりとなってラストに大きなテーマとして組み上げられていくスリリングな構成で観客を圧倒したのに対し、今回は最初からバラバラな人間関係をあれこれいじりまくって“結局、やっぱりバラバラでした”といういい加減な結論にしか達していないところである。

 これではヤバイと思ったのか、ラストは突然大地震が起き(爆笑)、無理矢理ドラマを終わらせている。現実をデフォルメすることによってもう一つの“映画的現実”を作り上げてきたアルトマンは、今度は現実の追認に終始し、結局現実に負けている。この気勢の上がらないドラマがなんと3時間9分の長さである。それにしてもせっかくトム・ウェイツとヒューイ・ルイスが出ているんだから、一曲でも歌わせて退屈を紛らせてほしかったと思うのは私だけだろうか(^_^;)。
コメント
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