元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「エンジェル・アット・マイ・テーブル」

2009-06-14 20:14:59 | 映画の感想(あ行)
 (原題:An Angel At My Table)90年作品。傑作「ピアノ・レッスン」で知られるニュージーランドの女流監督ジェーン・カンピオンが、自国の女流作家ジャネット・フレイムの半生を描いた伝記映画。90年のヴェネツィア国際映画祭では8つの賞を獲得している。

 映画は3部構成をとっているが、6歳から18歳までのジャネット・フレイムを描いた第一部が素晴らしい。まず主人公の容姿がいい。ぶっくりと太った身体つき、髪が鳥の巣のように爆発していることから、皆に“モジャ”とあだ名される女の子は、誰でも可愛がりたくなるような娘では決してないが、どこか憎めない暖かい人間性が感じられてほほえましい。

 親の財布から小銭を盗み、チューインガムを買ってクラスのみんなに分けてやり、皆の人気を得ようとして先生に叱られるジャネット。不幸な家庭に育ったため、みんなから相手にされないクラスメートの心を開き、親友になってしまうエピソード、グリム童話に夢中になり、宿題の詩が一等賞になる。人づきあいは不器用だが、内面は優しいものを持っているヒロイン像をうまく表現されている。

 貧しいけれども充実していた子供時代。大好きだった姉の水死、てんかん持ちの兄の発作、という不幸な出来事はあったが、誰にとっても一番幸福な時期であるこの時代の主人公を感動的なまでに映し出している。

 しかし、彼女が成人し、そのユニークな性格により周囲から理解されず、一人だけの世界に閉じ込もるようになってしまう第二部の後半から、映画はだんだん暗くなる。精神病院に無理矢理入れられ、誤診とわかって退院しても、失恋やら何やら不幸なことばかりで、ちっとも楽しくない。成人したヒロインを演じる女優の風貌がいかにも根が暗そうでうんざりし、女性監督特有のエキセントリックさ(これって差別だろうか)が鼻につき、そんなに不幸を見せびらかして何が面白いのかと言いたくなる。

 結局のところ、師範学校に通ったり、病院に入れられたり、ヨーロッパに渡航したりしていろいろあったけど、自分の生まれ育った土地に戻って一息ついたらそれでオシマイ、という結末では、作家として内面的に完成されていた主人公にとって、成人してからの外界を覗こうとした人生は時間の無駄で、自分の世界に閉じ込もることが一番よかった、と言っているようだ。ハッキリ言ってそういう人生は、私にとって関係ない。ヨソの世界の話だな、とシラけた気分になってしまった。

 ニュージーランドの自然をうまくとらえた映像に感心し、子役のうまさに感嘆はしたものの、観終わってしまえば、どこか釈然としない印象が残る。物足りない作品だった。
コメント
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