気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

楕円軌道 松尾祥子 角川書店

2021-08-03 22:44:44 | つれづれ
母はもう壊れ物なり薬包紙ほどくがごとく肌着を脱がす

家持たぬなめくぢ家を持つ蝸牛あぢさゐの葉の上に濡れをり

育ちたる子にわれの香のもうあらず手をふり別る渋谷の駅に

君は胡麻われは黄粉を選びしを思ひつつ食む彼岸のおはぎ

消灯後両脚消えて腕消えてあらはれ出づる煩悩あまた

青梅雨のひと日こもれば平凡の凡のなかなる点のしづけさ

海を知らぬ蕪と大地を知らぬ鱈ともに煮えたりミルクスープに

木瓜の花咲きて明るし還暦のわれに卒寿の母がゐること

湯に浸かりぴんつくぴんつく両脚を伸ばす赤子に男のしるしあり

ひつたりと触れあふ育児、介護ありて救はれゐるはわれかも知れず

(松尾祥子 楕円軌道 角川書店)

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コスモスの松尾祥子さんの第五歌集。家族詠がこれほど多い歌集を久しぶりに読んだ気がする。家族と深く関わることの喜びと悲しみ。うそや演出はないのだろう。四首目、消灯後の寝付くまでの実感。五首目の平凡の凡、よくわかって巧い歌だと感心する。人生はいろいろ。みんな違ってみんないい。