気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

撤退 小松昶 現代短歌社

2020-12-15 09:44:57 | つれづれ
コロナ禍に手術用マスクの不足して替へずに使ふ今日で三日め

パリパリと納体袋は音を立てコロナに逝きし人を呑み込む

人の目に触れしことなき胆嚢のラピス・ラズリのごとき光沢

軋みつつ電車がカーブ切るときに吊り輪の列の一斉になびく

六年半の単身赴任終へたるに妻ゐて娘ゐてつくづく孤独

カーテンの揺るる狭間ゆ枕辺の青き葡萄に淡き日の差す

爪厚く太き指もて先生は野蒜を摘みます名を教へつつ
(小谷稔先生)

幾万の手術の麻酔を担ひしが吾を覚ゆる幾たりありや

集中治療の要(かなめ)は麻酔科と執拗に撤退回避を院長迫る

茜色したたる桜のもみぢ葉の尖ことごとく大地を指せり

(小松昶 撤退 現代短歌社)

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麻酔科医として働いた著者の第三歌集。コロナ禍で毎日報道される「医療現場の逼迫」とはこのことかと思わせられる作品。巻頭の「新型コロナ・パンデミック」の一連は必読だ。
アララギの歌を再認識した。