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壮大なる生物系奇書の世界を楽しむ:ハラルト・シュテュンプケ「鼻行類」

2007-03-19 23:53:04 | 秘密の本棚

モンブランへご来店の皆様、こんばんは。

よく「本棚は人を表す」といいますよね。
友だちに自分の本棚をしげしげと見られるのは、結構恥ずかしい気がするもの。
別にアイドル写真集なんかがあるわけではないんですが・・・。(^^;

私はもともとは本好きな方なのですが、そういうわけで、このブログでも自分が読んだ本・好きな本についてはあまり書かないできました。

しかし、このブログも3年目に突入。
ある意味、怖いものはなくなりつつあります(笑)。
なのでこれから、時々個人的に面白いなーと思った本もご紹介してみようかと思います。
カテゴリも新しく作っちゃったりしました。(^^ゞ

というわけで、私の秘密の本棚のご紹介、いきなり強烈なやつからいっちゃいましょう。

ハラルト・シュテュンプケ著「鼻行類(びこうるい)」(平凡社)です。
これは最高にキテる本なんですよ、もう。

この本が出版されたのは1961年のこと。
日本語訳の初版は1987年に出ています。

これは、南太平洋にかつて存在した「ハイアイアイ群島」にだけ生息していた、「鼻行類(鼻行目)」という奇妙な哺乳類に関する、学術論文を本にまとめたものです。

「鼻行類」という名の通り、この生き物は鼻が極めて特殊な構造をしていて、異様に発達しており、その鼻を使ってジャンプしたり、歩いたり(!)餌をとったりするのです。

鼻行類全体の総論の後、単鼻類、多鼻類など、各グループについて記述があります。
豊富な図版入り。♪

トップ画像は表紙カバーの図版で、「アンケル ヴァニラ ランモドキ」の姿です。
大きく花びらのように広がった鼻と耳、とさかでランの花の擬態をし、鼻からはバニラの匂いがして、昆虫をおびき寄せて食べるのだとか。

こんなのもいます。↓


これは、「モルゲンシュテルン オオナゾベーム」。
鼻を4本持ち、それを使って逆立ちして歩きます。(!!)

こんな面白すぎる生き物たちの秘密のパラダイスだったハイアイアイ群島ですが、第二次大戦で日本軍収容所から脱走した捕虜が漂着し、その驚くべき存在が知られました。
しかし、その外来者が持ち込んだ流感によって、群島の先住民たちはあっという間に全滅してしまい、鼻行類もまた滅びてしまいました。

そして、1957年に行われた核実験で、群島は研究所や研究者たち、貴重な標本もろとも、みな海に沈んでしまったのです。
残されたのは、研究者シュテュンプケが残した、短い学術論文集といくつかの図版だけでした・・・。

という、なんとも不思議な学術本なのですが、
これ、きわめて大真面目なパロディーなんです。
鼻行類もハイアイアイ群島も、シュテュンプケさんも核実験も、
ぜーんぶ、フィクションです。(^^;

でも、ものすごくよくできているんですよ。
生物学を専攻して、生物の分類の勉強もされた方には、もう感心するくらい細部まで徹底した学術本っぷり。(笑)

昔はハードカバーの単行本で、サイズも大きくてますます「それっぽかった」のですが、今普通に手に入るのは、文庫本サイズになったものしかないので、図版も小さくなってしまい、リアリティという点ではちょっと物足りないかもです。

でもこういう本が世の中にあるって、面白いですよねー。
文章の内容が(パロディーとはいえ)かなり専門的なので、しゅんけいにはまだ見せたことはないんですが、いつか見せたら大喜び間違いなしだと思います。

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6 コメント

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壮大なるネタ本! ()
2007-03-20 08:30:19
一瞬信じましたよ(笑)

鼻で歩くのかーって(笑)



核実験あたりで?とか思いましたが。彼のゴジラもビキニ環礁ムルロア環礁あたりの出身だし?

(よく覚えていない)



しかし、本気で書いちゃうあたりが凄い。多分、作者の頭の中ではその世界が出来上がっているのでしょうね



また本の紹介してくださいね。



楽しみにしています。
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まさんへ (ヴィシア)
2007-03-20 08:52:37
まさん、コメントありがとう!
そうでしょう~、一瞬信じますよね。

骨格図や解剖図もあったり、発生学、系統進化的考察も非常にまっとうになされていて、私の持っている「まともな」分類学の本と比べても、基本的な構成は遜色ないんですよ。

この本の巻末の解説にも書いてありますが、マダガスカルの東、モーリシャス島に、中世の頃かつて「ドードー」という飛べない鳥がいました。

入植者によってあっという間に滅ぼされてしまったのですが、現在、ドードーの体全体を残した剥製などの標本はなく、体のごく一部の標本と、スケッチが何枚か残されているだけです(昨年、化石は見つかったそうですが)。
ですから、ドードーが本当にスケッチどおりの姿をしていたかどうか、検証する方法はもうないのです。

しかし、ドードーは実在した鳥であると、分類学者の間では認識されています。
”標本が一つもなく、今後も見つかる見込みのない”鼻行類ですが、ではそういう生き物が「絶対に存在し得ない」と、生物学的見地から断言することができるのか?
ドードーのような”ヘンテコな鳥”は実在したのに?

壮大なるネタ本(笑)なんですが、科学に対して提起している課題は、結構深かったりするんですよねー・・・。

また何か本のご紹介させていただきますね!(^^)
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楽しい想像の世界~ですね。 (並木道)
2007-03-20 19:10:00
こんにちは。ご無沙汰しています。
魅惑的な本ですね。すっかり騙され、楽しい想像をふくらませてしまいました。
ご子息が大きくなったときに見せたいものがあるってとても素敵です!

そして、数日前の記事のPAULのカヌレ…、今いただいたところです。クッキーになりそこねたプリンのような不思議な美味しさで、気に入りました。
また、興味深い書籍、おいしいお菓子、教えてくださいね。
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並木道さんへ (ヴィシア)
2007-03-21 00:34:42
並木道さん、コメントありがとう!
いつでも大歓迎ですよー。(^^)
この本には他にも面白い図版がいろいろあり、本文の生態に関する記述もユニークで、ほんとに想像がふくらむ楽しい本です。
ヨーロッパ系のちょっとシュールなアニメなんかにすると、きっといいものができそうですね。

息子たちには他にも、成長に応じて繰り出してやろうと思っている「秘密兵器」が宝箱の中にいろいろあります。(笑)

PAULのカヌレ、お試しされたんですか。
記事を書いた者としてはとっても嬉しいですねー、ありがとうございます!
「クッキーになりそこねたプリン」・・・すごくいい表現ですね~。ぴったりです。(^^)
私もまた食べたくなりましたー。
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おもしろそう♪ (harry)
2007-03-21 17:39:38
この本おもしろそうですね~。
読んでみたいわぁ。

この手の謎の生物とかの本当かどうか
分からない話ってたいてい渋澤龍彦で
読むよ~。
不思議な気持ちになるのよね。
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harryさんへ (ヴィシア)
2007-03-21 23:47:01
harryさん、コメントありがとう!
この本は文庫サイズですが、学名などの記載が多いため、横に活字が組んであり、洋書と同じ左開きなんですよ。
なので文庫にしては少々高くて、税込み840円です。

ちょっと不気味でユーモラス、「キモカワイイ」といったところでしょうか、そんな図版の数々を見ているだけで楽しいですよ。
「不思議の国のアリス」のジョン・テニエルの絵に通じる世界かもしれません。

澁澤龍彦・・・あ~なるほど!(^O^;
わかる気がしますー。(笑)
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