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その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

Ninagawa Company/ Cymbeline (蜷川幸雄演出/ シンベリン(シェイクスピア))@バービカンシアター

2012-05-30 01:23:50 | ミュージカル、演劇
 蜷川幸雄さん演出のシェイクスピア劇『シンベリン』のロンドン公演初日を観てきました。非常に充実した、グイグイ引き込まれる舞台で、あっという間の3時間半でした。以下、手短に感想を。

 最も印象に残ったのは、俳優陣の熱演です。中でも、MVPはやはり大竹しのぶさんでしょう。この方、もう50歳台半ばのはずなのですが、とてもそうは見えないです。王女イモージェンを、小気味良いセリフ回し、テンポよい動作で、美貌、知性、品格を備える王女を見事に演じていました。(くどいですが)50歳台の人が若い女性を演じる違和感が全くと言っていいほど無く、観ていて華があるというか、非常に惹きつけられます。特に、後半の変装した男性役などははまり役で、男性と女性の声の使い分けなど、コミカルかつ素晴らしかった。

 また、ポステュマスを演じ、大竹さんとペアを組んだ阿部寛さんも存在感溢れる演技だったです。ホント、格好いいですね、この人。でも、この公演を盛り上げたのは、この2人を支える脇役陣です。特に、シンベリン役の吉田鋼太郎さん、クロートンの勝村政信さん、ベレーリアスの佐川哲郎さん、ピザーニオ大石継太さんが印象的でした。いずれも骨太の演技で、とっても安定した舞台になっていたと思います。

 実は、舞台が始まった冒頭は、非常に早い台詞回しが落ち着かなくて、舞台全体が地に足がついていないような印象を受けたのですが、舞台設定がイタリアに移ったあたりぐらいから落ち着いてきました。それからは、ぐーっと舞台に引き付ける磁力を持った舞台でした。

 演出も好みでした。平安絵巻の屏風のような立てを置いたり、どこかの惑星を模したような背景カーテンも、時に日本的な雰囲気を加えたり、観る者の意識を地球レベルまで引き上げて観させるような意図が感じられます。ただ、これが理解できないと本演出がわかったことにはならないのでしょうが、幾つかの場面で東日本大地震を一つのメタファーで使っているところがあります。例えば、戦シーンでは、津波とおもわれる波の音や赤ん坊が泣き叫ぶ声などが効果音として使われたり、ラストシーンでは、舞台上の木が、津波を生き残った「希望の杉」を模したもになったりするのですが、正直この劇の文脈と東日本大震災との関連性や意味合いは私には良くわかりませんでした。

 あと、これはこのお芝居に限ったことではないのですが、やはりシェイクスピア劇の日本語公演というのは、難しいなあと思いました。私は、日本語によるシェイクスピア劇の公演は初めてで、シンベリンも英語でも日本語でも読んだことはないですが、日本語で100%内容が分かるというメリットは素晴らしい一方で、やはりシェイクスピアの英語の音や韻を通じたリズム感は失われてしまいます。時折、台詞回しがつらそうに見えるは、言葉の問題としかいいようがないかと思います。ストーリーはシェイクスピアだが果たして、これはシェイクピア劇と言えるのか?というのは、ちょっと考えてしまいます。

 ただ、全体を通じて印象的で、良い公演です。ロンドンに来て以来、シェイクスピア劇は10本近く見ているのですが、この蜷川版も十分トップクラスで通用すると思います。英人にはどう写ったでしょうか?明日以降の新聞レヴューが楽しみです。

 蛇足ですが、大竹しのぶさんや阿部寛さんが出演するということもあってか、会場は半分近くが日本人と思しき人でした。

(舞台開始前。何故か、楽屋を模した舞台で、俳優さん達がウロウロしている)


(カーテンコール)





Cymbeline
Ninagawa Company
29 May 2012 - 2 June 2012 / 19:15
Barbican Theatre

In Japanese with English surtitles

Directed by Yukio Ninagawa
Cast includes Hiroshi Abe and Shinobu Otake

Presented by the Barbican in association with Thelma Holt, Saitama Arts Foundation and HoriPro Inc

ANA (All Nippon Airlines) Ninagawa Company's offical airline




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ロンドン公演の意図 (yukyuk)
2012-06-03 20:55:02
私もこのお芝居を一昨日拝見しました。
ご指摘のとおりその日もお客さんは日本人だらけでした。ほぼ8割近くが日本人、特に女性が多かったと思います。シェイクスピアをベースにした日本のお芝居だと思えばキャストも豪華で集客率もよいので商業的には成功ではないのかと思います。日本人と非日本人のリアクションが(笑うとこ?)あきらかにズレていて違和感がありました。シェイクスピアを英国で日本語でやるというその意図は何なのだろうか、と考えます。阿部寛はかっこいいしいい役者になってきてますね。ただ、最期のころは声が枯れてきていて痛々しかったです。鳳蘭もさすが宝塚、貫録があって動作が大きくてよかったです。そして、大竹しのぶがうまい。ちょっと舌足らずのような喋りのお姫様から少年に変装したあとの変わり様が非常にコミカルで、楽しませてもらいました。
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Unknown (かんとく)
2012-06-04 10:25:43
Yukyukさん、こんにちは。
日本人と非日本人の笑いの差は確かにありましたね。私は単純に英語字幕の出るタイミングの違いなのかなあと思っていましたが、どうなんでしょうか?メディアのレヴューはまずまずのようですね。4つ星の評もいくつかあるようなので、評価はされているようで、単純にうれしいです。ご存知かもしれませんが、グローブ座では今、世界各国の劇団が順番にシェイクスピアをやってますが、それだけシェイクスピアは普遍ということなのでしょうね。ただ、あのリズム感は絶対英語で無いと・・・と思う所はあります。
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