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その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

日本のオペラ上演史に1ページ追加:新国立オペラ/ロッシーニ「ウイリアム・テル」(指揮:大野和士、演出:ヤニス・コッコス)

2024-12-05 08:58:01 | 演奏会・オペラ・バレエ(2012.8~)

遅まきながら「ウイリアム・テル」の感想です。もともとスケジュールがうまく合わなかったことと、5時間の上演時間にも怯んで、半ば観劇を諦めていたのですが、日本初のフランス語での本格上演、しかも好きなロッシーニの滅多に上演されないオペラということで、半日休暇を頂いてマチネ公演に突撃。でも結果として、本当に行っておいて良かった。

歌手陣、合唱、オーケストラ、演出にグランドオペラらしいバレエも加わり、夫々が持ち味を存分に発揮。その上に、その相乗効果が作品としての一体性を高めた名舞台でした。

一番印象に残ったのは、新国立劇場合唱団の合唱。場面、場面で農民、狩人、愛国者、民衆と兵士たちと様々な合唱が多用されますがが、どれもその一体感、迫力、清らかさなど、聞き惚れるものばかり。素晴らしかったです。

歌手陣も、外国人・日本人問わず、しっかり夫々の存在感を示していました。題名役のゲジム・ミシュケタのバリトンは物語の軸を支え、アルノルド・メルクタール役のルネ・バルベラのテノールは伸びやかで、声量たっぷりの美声。劇場に響き渡ります。マティルド役のオルガ・ペレチャッコマティルダは繊細で清らかなソプラノで、とっても気品がある。第2幕の独唱やアルノルドとの二重唱は、劇場が雑音0で一体となって聞き入っていたのが感じ取れるほどでした。日本人歌手でも妻屋秀和の悪役ぶりも堂に入ったもの。ジェミ役の安井陽子の子役ぶりは、溌溂としていて、第4幕の歌唱も美しかったです。

大野和士率いる東フィルも良かった。直前に大野さんが首(?)の治療で12月の演奏会は急遽お休みというアナウンスがされていたので、まさかこの公演シリーズも途中交代?と冷や汗出ましたが、そんな雰囲気は微塵も感じさせないリード振り。序曲のチェロから、物語の世界にぐぐっと引っ張り込んでくれました。4時間半にわたり、ロッシーニの変化に飛んだ名曲群を躍動感や情感たっぷりに聴かせてくれました。時折、もっと畳み込むような勢いがあっても良いかなと感じる場面もあったのですが、初めて聞くオペラだし、楽譜も知らない(まああっても読めない)ので勝手な印象です。

スイスの山村をイメージしたような青基調の舞台も美しいです。ドラマの場を的確に提供していて、下支えしています。自然で無理がない演出の素晴らしさは、先月物議を醸した、演出の自己主張ばかりが鼻についた読替えオペラとの差が顕著でした。フィナーレでステージ奥のスクリーンに現代のウクライナで被弾した建物の映像が投影されているように見えましたが、最上階二列目からでは三分の一ぐらいしか見えず、全体像がつかめず残念。スイス独立を目指す物語であるので強国からの自立闘争としての現代とのつながりを意識したものであるようです。

日本オペラ史に記録されるであろう、この公演に立ち会え、なんとも嬉しいオペラ体験でありました。

2024年11月26日

2024/2025シーズン
ジョアキーノ・ロッシーニ
ウィリアム・テル<新制作>

Guillaume Tell / Gioachino Rossini
全4幕〈フランス語上演/日本語及び英語字幕付〉

公演期間:2024年11月20日[水]~11月30日[土]
予定上演時間:約4時間35分(第1幕75分 休憩30分 第2幕55分 休憩30分 第3・4幕85分)

スタッフ
【指 揮】大野和士
【演出・美術・衣裳】ヤニス・コッコス
【アーティスティック・コラボレーター】アンヌ・ブランカール
【照 明】ヴィニチオ・ケリ
【映 像】エリック・デュラント
【振 付】ナタリー・ヴァン・パリス
【舞台監督】髙橋尚史

キャスト
【ギヨーム・テル(ウィリアム・テル)】ゲジム・ミシュケタ
【アルノルド・メルクタール】ルネ・バルベラ
【ヴァルテル・フュルスト】須藤慎吾
【メルクタール】田中大揮
【ジェミ】安井陽子
【ジェスレル】妻屋秀和
【ロドルフ】村上敏明
【リュオディ】山本康寛
【ルートルド】成田博之
【マティルド】オルガ・ペレチャッコ
【エドヴィージュ】齊藤純子
【狩人】佐藤勝司
【合唱指揮】冨平恭平
【合 唱】新国立劇場合唱団
【管弦楽】東京フィルハーモニー交響楽団

2024/2025 SEASON
New Production

Music by Gioachino Rossini
Opera in 4 Acts
Sung in French with English and Japanese surtitles

OPERA PALACE
20 Nov - 30 Nov, 2024 ( 5 Performances )

Running time is approx. 4 hours and 35 mins including intervals.
Tue, 26 November 2024, 14:00

CREATIVE TEAM

Conductor: ONO Kazushi
Production, Set and Costume Design: Yannis KOKKOS
Artistic Collaborator: Anne BLANCARD
Lighting Design: Vinicio CHELI
Video Scenography: Eric DURANTEAU
Choreographer: Natalie VAN PARYS

CAST

Guillaume Tell: Gezim MYSHKETA
Arnold Melchtal: René BARBERA
Walter Furst: SUDO Shingo
Melchtal: TANAKA Taiki
Jemmy: YASUI Yoko
Gesler: TSUMAYA Hidekazu
Rodolphe: MURAKAMI Toshiaki
Ruodi: YAMAMOTO Yasuhiro
Leuthold: NARITA Hiroyuki
Mathilde: Olga PERETYATKO
Hedwige: SAITO Junko
Un chasseur: SATO Shoji

Chorus: New National Theatre Chorus
Orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra

 


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