骨太の歴史長編『地図と拳』以来の小川哲。今回は短編集であるが、テーマ(多くは「神」に関連)やストーリー展開は引力が強烈で、読書の楽しさを満喫した。
テーマ・時空ともにスケールが大きいSF(「七十人の翻訳者たち」/「神についての方程式」/「啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで」)、日常に潜む歪みや人間・社会心理(「密林の殯」、「スメラミシング」)、ほろっとする人情SF(「ちょっとした奇跡」)など、その作風の振れ幅も短編集ならではの面白さがある。
硬軟を組み合わせた作品の並べ方も編集の妙。最後に「ちょっとした奇跡」が置いてあるのは、その前の2作が短編とは思ないほど思考の汗をかいた後の清涼剤で、デザートのシャーベットのような爽快な読後感が得られた。
【目次】
七十人の翻訳者たち
密林の殯 (※読み方「もがり」)
スメラミシング
神についての方程式
啓蒙の光が、すべての幻を祓う日まで
ちょっとした奇跡