その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

内田 和俊 『仕事耳を鍛える―「ビジネス傾聴」入門』  (ちくま新書、2009)

2017-05-10 08:00:00 | 



 図書館の「返却本」トローリーに置いてあったので何気なく手に取った一冊だったけど、わかりやすく、良心的で、気づきにつながる本だった。

 「傾聴」の重要性というのは、評価者研修、メンタルヘルスのラインケア研修、自己啓発セミナーなどなど、会社組織にいると否が応でも聞かされるのだが、毎回なんとなくわかった気になるものの、研修と共に去りぬとなってしまう。本書は、ビジネスのシチュエーションで「聴く」ということがどういうことなのか、どう聴けばいいのかを具体的に記述してあり、思い当たるところズバズバで腹落ち感が半端ない。相手が発したキーワードに過剰に反応し、相手の話をさえぎって自分が喋り始めてしまう「自動反応」の解説なんて、穴があったら入りたい気分だった。

 筆者は、「聞く」(言葉から伝わる事実を理解する)を5つのレベル分けをする。まずは、レベルI:聴く意思を持っていない、レベルII:聴いているつもり、レベルIII:都合のいいように聞く、レベルIV:自分本位の目的で聞く、という段階がある。そしてその上のレベルVでは、「相手の立場となり、相手の個性に共感しながら話を聴く。相手を理解しようとして、耳と目と心を総動員して、隠れた感情、相手の真意、肯定的意図をつかむ」というレベルがあるという。言葉で書くと当たり前と言えば当たり前でつまらないのだが、具体的事例が秀逸で、納得感ある。

 常にレベルVで聴けと言っているわけでもない。ビジネスの場面場面で必要な「聴き方」があって、レベルは使い分けることが大事という。くだらないダジャレを繰り返す年配社員にはレベルⅠで聞けばいいということだ。なるほど。

 後段にも参考になった下りがある。「できていないことは何か」を聞くときに、「なぜ、それができないのですか」と聞くのと「何が、その障害になっていますか」と聞くのでは、聞かれる立場の印象が全然違う。whyの質問は具体的な解決策よりもできない理由が浮き彫りにされやすく、Whatに置き換え、「何をしたかったのか」に焦点を当てると発展的な会話になる。

 理解することとできることは違うことだが、今回は、頑張って、読了と共に去りぬにならないようにしたい。


目次
第1章 ビジネスリーダーの現状
第2章 コミュニケーションの実態
第3章 私たちは普段どんなふうに人の話を聞いているのか
第4章 どう聴けばいいのか
第5章 相手の本音をどう引き出すか(質問編)
第6章 相手の本音をどう引き出すか(レスポンス編)
第7章 何が聴けなくしているのか

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