
筆者の著作は中公新書の『オペラの運命』『クラシックの聴き方』など数冊読んだが、どれも構成の骨格がしっかりしており、内容も読みごたえがあった。本書はそれらとは若干、趣を異にし、クラシック音楽を題材にした軽めのタッチのエッセイ集。平易な語り口で、音楽、作曲家、指揮者、聴衆(聴き手)について、政治史、社会史、地理の背景とともに興味深く解説してくれる。
個人的に興味深かったのは1970-1990年にかけてのクラシック音楽の転換期の記述。「カリスマ巨匠」指揮者(フルトヴェングラー、トスカーニ、カラヤンなど)から「アンチエイジング世代」指揮者(アバド、マゼール、小澤、ラトルの系列)への変遷の背景には、大作曲家が存命でクラシックがクラシックで無かった時代を直接もしくはその余韻を知る世代が居なくなった時代に当たる、というのはなるほどと納得。
また、貴族の時代を生きたモーツァルト、フランス革命時代を生きたベートーヴェン、そして革命の反動期(ウィーン体制)を生きたシューベルトと、その曲風の差異を時代の雰囲気と重ね合わせるのも興味深い。
雑誌の連載を編集した書籍なので、似たような話が何度か顔を出すのは、ちょっと残念だが、気軽にクラシック音楽の奥深さ、面白さを知るのに良い一冊だ。
目次
「クラシック音楽」の黄金時代は一九世紀
音楽史の流れ―ウィーン古典派まで
ロマン派は自己表現する
「現代音楽」と二〇世紀
交響曲はクラシックのメインディッシュ
交響曲は一九世紀の頑張りソング?
交響曲にはなぜ複数の楽章があるのか?
オペラは「クラシック」じゃない?
サロンの物憂いプレイボーイたちの音楽
家庭音楽とドイツ教養市民〔ほか〕