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その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

映画 「スポットライト 世紀のスクープ」 (監督トム・マッカーシー、2015)

2016-04-28 20:00:00 | 映画


 ボストングローブ紙の記者たちが、地元ボストンのカトリック教会の神父たちによる児童への性的虐待について、粘り強い調査をもとにスクープ。これまで隠し続けられた教会組織の犯罪を暴く実話に基づいた物語。今年の第88回アカデミー賞の作品賞と脚本賞を受賞しているだけのことはある、良質の映画。

 ずいぶん昔に観た、ワシントンポストの記者がニクソン大統領の盗聴事件(ウォーターゲート事件)を暴く映画「大統領の陰謀」を思い出した。最近は政府の広報官と化しているNHXをはじめとして、日本ではジャーナリズムの基盤がぐらついているが、ジャーナリズムの役割、意義について考えさせられる。

 また、編集長、チーフ等、それぞれの立場におけるリーダーシップも興味深い。強くて、しなやかなリーダーからは強いチームが生まれるのだ。

  記者役の俳優さんたちの熱演で、ぐーっとスクリーンに引き込まれる。女性記者役で出ている女優は、どこかで見たことあるなあと思っていたのだが、後で確認したら「アバウト・タイム」でヒロインを演じていたレイチェル・マクアダムだった。個人的に好み。

 テーマは硬派だが、映画自体はシリアスながらもさほど重いつくりにはなっていない。テンポよく作られており、2時間10分を感じずに楽しめる。

 蛇足だが、ボストンって東海岸のまさに保守的でWASPの町という勝手なイメージを持っていたのだけど、カトリック系住民が多いとは知らなかった。



スタッフ
監督トム・マッカーシー
製作マイケル・シュガースティーブ・ゴリンニコール・ロックリンブライ・パゴン・ファウスト

キャスト
マーク・ラファロ: マイク・レゼンデス
マイケル・キートン: ウォルター・“ロビー”・ロビンソン
レイチェル・マクアダム: スサーシャ・ファイファー
リーブ・シュレイバー: マーティ・バロン
ジョン・スラッテリー: ベン・ブラッドリー・Jr.

深い余韻・・・ 映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』 (監督 岩井俊二、2016年)

2016-04-07 22:14:49 | 映画


 先週金曜日(4/1)の夕刊に、マイブームの女優、黒木華さんの紹介記事が掲載されていて、岩井俊二監督の新作に出演していることを知った。岩井×黒木なら見ないわけにはいかないということで、その場で翌日の上映をネット予約。

 監督と主演以外は知識0で突撃したこともあって、イライラ、ドキドキ、ビックリ、シンミリ、ホッと。感情のジェットコースターを味わった3時間だった。この作品、名作と言えるのかどうかはわからないが、深く胸に残り、余韻を楽しめる映画であったことは間違いない。

 正直、前半の一時間弱は苦痛だった。黒木華が演じる主人公皆川七海は、性格は素直だが、あまりにも思慮や自己主張の足りないダメ女。自滅と言われてもしょうがない不幸のスパイラルにはまってしまう。私には、全く感情移入できないどころか、余りの情けなさに苛立ち、腹立たしくなる程だった。見切って退場しようと腰が上がりかけたが、何とか持ちこたえた。

 が、その後、物語は持ち直す。Coccoが演じる里中真白との出会いがきっかけで、主人公に新たな人生が展開しはじめる。物語の「承転結」にあたる中盤以降は私としても落ち着いて鑑賞でき、かつラスト30分はグッと感情が高ぶった。前半は長かったが、中盤以降はあっという間に過ぎて、見終わったら三時間が過ぎていた。

 この映画、俳優陣の個性的な演技と岩井監督ならではの現実と幻想が入り交じった世界のマッチングが素晴らしい。

 黒木華は「幕が上がる」で、個人的に注目度が一気に上がっている(世間的にはもっと前から注目されている)のだが、素朴で自然体の役作りが印象的。主人公の成長物語である本作品で、一人の「普通の」女性の成長を力むことなく演じている。彼女以上にこの役を演じられる女優さんはいないだろう。そして、黒木と同等に映画を支えたのは、怪しげな何でも屋安室を演じる綾野剛と里中真白役のCocco。特に、Coccoが自壊していく様は鬼気迫るものだった。この2人なしには、本作品は成立しなかったことは間違いない。そして最後に登場する里中真白の母珠代を演じるりりィ。凄い存在感と迫力だった。

 久し振りに見る岩井監督の長編作品だが、相変わらずの不思議な岩井ワールドが構築されている。幻想的な映像は日々の日常生活シーンでさえ、意味ありげに再構成される。今回は登場人物に沿ってストーリーを追っていくのが精一杯だったけど、何度か見てワンカットワンカットを味わいたい魅力的な映像に溢れている。

 好き嫌いが分かれる種類の映画かもしれないが、いろんな人に見てもらって、感想を聞きたい作品だ。

2016年4月2日 @新宿バルト9

スタッフ
監督:岩井俊二
原作:岩井俊二
脚本:岩井俊二
エグゼクティブプロデューサー:杉田成道
プロデューサー:宮川朋之

キャスト
黒木華:皆川七海
綾野剛:安室
Cocco:里中真白
原日出子:鶴岡カヤ子
地曵豪:鶴岡鉄也
和田聰宏:高嶋優人
毬谷友子:皆川晴海
佐生有語:滑
夏目ナナ:恒吉冴子
金田明夫:皆川博徳
りりィ:里中珠代

映画『マネー・ショート 華麗なる大逆転』 (監督アダム・マッケイ/2015)

2016-04-02 12:29:04 | 映画


 2年前に読んだマイケル・ルイス著「世紀の空売り」の映画化と言うことを知り、久しぶりに映画館へ。リーマンショックを予見し、逆張りした投資家たちの物語。

 ノンフィクションの書籍はとても興味深く読めたが、映画のほうも書籍がうまく映像化されていると思った。ユーモラスな場面も含ませながら、金融業界の欺瞞、虚栄、緊張がテンポよくスピード感を持って表現されている。かなりエッジが立った登場人物たちを、俳優陣達が好演。

 もともと非常に複雑な金融商品をネタにした巨大システムの破綻なので、理解は簡単ではない(=本でも苦労)。本映画では、レストラン・シェフの料理作り、カジノでの心理学などの喩を使った一コマ解説を挿入して、楽しみながら分かりやすくする工夫が施されている。それでも、難しいものは難しいので、初めて見る人には、この映画の隠れた主役のMBS(Mortgage Backed Securities:不動産担保証券)、CDO(Collateralized Debt Obligation:債務担保証券)、CDS(Credit Default Swap)と言った金融商品の仕組みについて本当に理解できる人は殆どいないのではないだろうか。原作を読んだ私でも、記憶をたどりながら、なんとなく理解するのが精一杯。

 この映画は、金融界のマネー装置が、いかに一般人の常識を超えているかということをまざまざと見せつけてくれる。映画のエンディングには、リーマンショックから7年たった今、形を変えたCDOが売られ始めているという下りが入る。世の中、懲りないインテリ詐欺師に満ち溢れているのだ。



キャスト
クリスチャン・ベイル: マイケル・バーリ
スティーヴ・カレル: マーク・バウム
ライアン・ゴズリング: ジャレッド・ベネット
ブラッド・ピット: ベン・リカート
ルディ・アイゼンゾップ: ケイシー・グローヴズ
マリサ・トメイ: アデペロ・オデュイエ
レイフ・スポール: ハミッシュ・リンクレイター
ジェレミー・ストロング: ジョン・マガロ
フィン・ウィットロック: デイヴ・デイヴィス
メリッサ・レオ: カレン・ギラン
マーゴット・ロビー: セレーナ・ゴメス

スタッフ
アダム・マッケイ:監督
ルイーズ・ロズナー=マイヤー:製作総指揮
ケヴィン・メシック:製作総指揮
マイケル・ルイス:原作
チャールズ・ランドルフ:脚本
アダム・マッケイ:脚本
ニコラス・ブリテル:音楽

映画 「ブラス!」 (監督マーク・ハーマン/1996)

2016-03-27 08:30:00 | 映画


 炭鉱閉鎖に追い込まれるイングランドの小さな町。そこの炭坑夫達が所属する伝統あるブラスバンドのメンバーたちが、ロイヤルアルバートホールで行われる全英ブラスバンド大会を目指す過程での、彼らの生活や社会が描かれます。イギリス映画らしい淡々として抑制された映像により、リアリティ溢れる(実話がベースになっている)作品になっています。

 炭坑を描いた作品としては「ビリーエリオット(リトル・ダンサー)」が私のベストですが、本作も産業構造の転換期の中で時代の波に翻弄されざる得ない炭坑夫達の人生の一幕を切り取った秀逸な映画です。「リトルダンサー」のようなコメディタッチの部分は無く、よりシリアスです。実話ベースなのに、クライマックスはできすぎぐらい感動的です。

 私は知らなかったのですが、ブラスバンド文化というのはイギリスの草の根に根付いたものだったのですね。「ウィリアム・テル序曲」や「威風堂々」など、音楽映画としても楽しめます。

スタッフ
監督 マーク・ハーマン
脚本 マーク・ハーマン
製作 スティーヴ・アボット
撮影 アンディ・コリンズ
美術 ドン・テイラー
音楽 トレヴァー・ジョーンズ
編集 マイケル・エリス
衣装デザイン エイミー・ロバーツ
演奏 グライムソープ・コリアリー・バンド
字幕 細川直子

キャスト
Danny ピート・ポスルスウェイト
Andy ユアン・マクレガー
Gloria タラ・フィッツジェラルド
Harry ジム・カーター
Greasley ケネス・コリー
Simmo ピーター・ガン
Ida メアリー・ハーレイ
Sandra メラニー・ヒル
Jim フィリップ・ジャクソン
Vera スー・ジョンソン
Ernie ピーター・マーティン
Mackenzie スティーヴ・ムーア
Rita リル・ラフリー
Phil スティーヴ・トムプキンソン

映画 「リトル・ミス・サンシャイン」 (監督ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス 2006年)

2016-03-03 20:00:00 | 映画


 「美少女コンテストのクィーンを夢見る少女とその個性的な家族が、黄色いワゴン車に乗ってコンテスト会場を目指す姿を描く。(中略)機能不全に陥った一家族が、旅を通して再生していくハートウォーミングな展開が見どころ。」(Yahoo映画から「シネマトゥデイ」の引用)

 2007年の第79回アカデミー賞で脚本賞と助演男優賞を獲得している。ダメダメ家族が団結していくプロセスが、ロードムービーとして軽やかに描かれていて、笑いあり、少しの涙ありで、ほのぼした気分に浸れる。

 アカデミー賞を取ったのは、おじいちゃん役のアラン・アーキンだが、娘オリーブ役のアビゲイル・ブレスリンが、この映画を支えている(助演女優賞にノミネートはされていた)。後半の山場、美少女コンテストのダンスシーンには腹を抱えて笑わった。

 映画評論家の解説によるとアメリカ的価値観に対するアンチテーゼとの見方もできるようだが、難しいことは考えず、肩肘張らずに楽しみたい。良質のアメリカ映画である。
 

スタッフ
監督ジョナサン・デイトン バレリー・ファリス
製作マーク・タートル、トーブデビッド・T・フレンドリー、ピーター・サラフ

キャスト
グレッグ・キニアリ:チャード・フーバー
トニ・コレット:シェリル・フーバー
スティーブ・カレル: フランク
アラン・アーキン: グランパ
ポール・ダノド: ウェーン・フーバー
アビゲイル・ブレスリン: オリーブ・フーバー
ブライアン・クランストン

映画 「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」 (監督モルテン・ティルドゥム 2014年)

2016-02-27 08:00:00 | 映画


 「第2次世界大戦時、ドイツの世界最強の暗号エニグマを解き明かした天才数学者アラン・チューリングの波乱の人生を描いた伝記ドラマ」(Yahoo映画より)

 私好みの映画だった。第2次世界大戦という大きな歴史的うねりの中での天才の人生というドラマ性、コンピュータや暗号の歴史的一面、戦時下の英国社会、同性愛の社会史といった、多面的要素を織り交ぜた興味深い作品だった。私の好きなつくりの映画。

 実在の人物の伝記に基づいた話だが、どこまでが事実で、どこが映画の中のフィクッションなのかはわからないが、少年期の戦前、エニグマを解き明かすミッションを課せられた戦中期、そして不幸の戦後の3つの時期を、行き来する物語は、見ていて集中が途切れることがなく、映像に引きつけつづけられる。

 各俳優陣の安定した演技、落ち着いて美しい映像、映像効果を高める音楽など、完成度の高い映画。お勧めしたい。


原題
THE IMITATION GAME

監督
モルテン・ティルドゥム
製作総指揮
グレアム・ムーア
原作
アンドリュー・ホッジェズ
脚本
グレアム・ムーア
音楽
アレクサンドル・デスプラ


キャスト

ベネディクト・カンバーバッチ:アラン・チューリング
キーラ・ナイトレイ:ジョーン・クラーク
マシュー・グード:ヒュー・アレグザンダー
ロリー・キニア:ロバート・ノック刑事
アレン・リーチ:ジョン・ケアンクロス
マシュー・ビアード:ピーター・ヒルトン
チャールズ・ダンス:デニストン中佐

映画 「マイ・インターン」 (監督ナンシー・マイヤーズ 2015年)

2016-02-17 07:00:00 | 映画


 劇場公開中に見逃したのでDVDで視聴。肩の力が抜いて楽しめる佳作。ベンチャーのネット・アパレル会社を立ち上げた女性社長(アン・ハサウエイ)と、社会貢献施策として雇った70歳のシニア・インターン(ロバート・デニーロ)との交流を描くハートフル・コメディ。

 アン・ハサウエイ目当てに見たいと思った作品だったのだが、ロバート・デニーロの存在感に圧倒された。私のデニーロは、「タクシー・ドライバー」であり「ディア・ハンター」であるのだが、そのデニーロがこんな役柄をやるようになるとは・・・。驚くと同時に悲しいとことでもあるのだが、それでもデニーロはデニーロだった。人生の年輪を重ね、甘いも辛いも噛分けた熟(老)年の男性を見事に演じている。こんな70歳の高齢者になれたらなあと心底思う中年は私だけではないだろう。

 会話の小気味よさは脚本の良さか。「ハンカチは自分のために持つのではなく、人に貸すために持つんだ」なんてセリフには思わずにんまり。良質のアメリカ映画だ。


スタッフ
監督ナンシー・マイヤーズ
製作ナンシー・マイヤーズ、スザンヌ・ファーウェル
製作総指揮セリア・コスタス
脚本ナンシー・マイヤーズ

キャスト
ロバート・デ・ニー:ベン
アン・ハサウェイ:ジュールズ
レネ・ルッソ:フィオナ
アダム・ディバイン:ジェイソン
アンダース・ホーム:マット

映画 「アンコール!!」 (監督ポール・アンドリュー・ウィリアムズ、2012年)

2016-02-10 20:00:00 | 映画


 劇場公開されている時に気にはなっていたのだが、結局見過ごしたので、DVDを借りてみた。町のコーラスグループで歌う老夫婦の物語。イギリス映画らしい、派手さはないが、身近で心温まる人間ドラマ。

 前半は、見ていて他人ごとではないような気がして怖かった。主人公の常時不機嫌で頑固な老人アーサーのことである。最近、加齢とともに妙に気が短くなって、怒りっぽくなってきている覚えがある私には、年齢設定的には数十歳年上である老人アーサーが、何か私の将来を暗示しているようにも思えてしまったからだ。 ああいう老人にはなりたくないなぁって。でも最終的には、アーサーは自分の殻を破って、一歩前に出る。人間この気持ちがいくつになっても必要だ。

 映画は、主要俳優陣の演技がしっかりしているのでとても安心感、安定感がある。アーサーの奥さん役のバネッサ・レッドグレーブはベテランの味たっぷりだし、コーラスのインストラクターを演じたジェマ・アータートンがかわいい美人で、聞き取りやすいイギリス英語が嬉しい。ストーリーも起承転結がはっきりしていて、飽きさせない。

 素直に楽しめる佳作。
  

スタッフ
監督ポール・アンドリュー・ウィリアムズ
製作ケン・マーシャル、フィリップ・モロス
製作総指揮アリステア・ロスタラ・モロス

キャスト
テレンス・スタンプ アーサー
バネッサ・レッドグレーブ マリオン
ジェマ・アータートン エリザベス
クリストファー・エクルストン ジェームズ


映画 「ブレイブハート」 (監督:メル・ギブソン、1995年)

2016-02-05 12:00:00 | 映画


 スコットランドを旅したとき、いろんなところで出会うのが、英雄ウィリアム・ウォレスの銅像、肖像画、碑文。そのウィリアム・ウォレスの生涯を描いた歴史映画である。1996年の第68回アカデミー賞で、作品、監督、撮影、音楽、メイクアップ、音響効果の6部門を受賞しているが、私は見るのは初めて。

 ハリウッドらしい人・物・金をかけた大作。今回はDVD視聴だが、映画館で観れば迫力が全然違っただろう。ハイランドの険しい風景(ロケは殆どアイルランドらしいけど)、ローランドの荒野などむき出しの自然が良く捉えられていてスコットランドの空気を感じることができる。音楽も映像にマッチしていて効果を高めている。

 ウィリアム・ウォレスを演じたメル・ギブソンはいかにもスターで貫禄抜群。イングランドの国王、エドワード1世のパトリック・マクグーハンなど、脇役陣も重厚。歴史のお勉強題材としてはフィクション部分が多いようだけど、スコットランドが国として全くまとまっていなかったこと、イングランドに対するスコットランドの立ち位置などが理解できる。

 あえて難点を言うと、戦闘における殺戮シーンや処刑場面など、結構目を背けたくなるシーンが多いのが、緩い映画好きの私には結構つらかったことかな。3時間近くの長い映画ということも加わって、見終わった後はぐったり。


スタッフ
監督メル・ギブソン
脚本ランダル・ウォレス
製作総指揮スティーブン・マケビティ
製作メル・ギブソン
アラン・ラッド・Jr.

キャスト
メル・ギブソン William Wallace
ソフィー・マルソー Princess Isabelle
パトリック・マクグーハン Longshanks-King Edward the 1st
キャサリン・マコーマック Murron
ブレンダン・グリーソン Hamish

映画 「第三の男」 (監督:キャロル・リード、1949年)

2016-01-27 22:42:09 | 映画


 イギリス映画史に名を残す古典映画といってよいと思うが、観るのは初めて。戦後のウィーンを舞台に、旧友の死亡事故の謎を巡って繰り広げられるサスペンス映画。

 白黒映画のためか光と影の陰影が美しくかつ効果的。ショットも観覧車での対決シーンや下水道での追跡など、印象的な場面が多く見ごたえがある。

 また全編を流れるアントン・カラスの音楽も印象的。映画のサイコ・サスペンス的な雰囲気とは必ずしもマッチしていないところが、映像の緊張感を緩め、この映画に独特の趣を加えている。音楽を重々しいものにして、より心理的に圧迫感のあるヘビーな作品にすることもできたと思うが、音楽がこの映画に映像やストーリーとは違ったインパクトを視聴者に与えて、個性的な作品になっている。

 名作といわれるのも頷ける映画だった。


スタッフ

監督:キャロル・リード
原作:グレアム・グリーン
脚本:グレアム・グリーン
音楽:アントン・カラス

出演:
ジョセフ・コットン
オーソン・ウェルズ
アリダ・ヴァリ
トレヴァー・ハワード
バーナード・リー
ジェフリー・キーン
エルンスト・ドイッチュ

映画 「マエストロ!」  (監督 小林聖太郎、2015年)

2016-01-07 21:00:00 | 映画


 映画のエントリーが続きますが、こちらも年末年始にDVDで視聴したもの。

 資金難で一度解散したプロオーケストラの再生に向けて、無名だが只者ではない指揮者天道徹三郎(西田敏行)とメンバーたちが織り成すヒューマンドラマ。

 私の好きなクラシック音楽がテーマということで、借りてみたのだけど、気軽に楽しめる良品だった。指揮者とオーケストラのメンバーという、時にリーダーとフォロアーの関係であり、場合によっては敵対関係にもなりうるデリケートな関係をうまく描写している。また、指揮者とメンバーをつなぐコンサートマスターの役割や、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」やシューベルトの「未完成」交響曲のポイントをさりげなく紹介してくれるなど、クラシック音楽入門にもなりうり、クラシック音楽ファンでも、ファンでなくてもは楽しめる(クラシックおたくの人には物足りないだろうが・・・)。

 西田敏行という俳優さんは個性が強すぎるという意味で、ドラマの印象がすべて西田敏行になってしまう可能性があって、なかなか難しい男優さんだと思うのだけど、本作ではその個性がうまく生かされていた。流石の貫録という感じ。今売り出し中の松坂桃李が、才能あるコンサートマスターを演じたが、落ち着いた演技でまずまず。船の上で暮らす、アマチュアフルーティストの橘あまねを演じるmiwaがはつらつとして、比較的地味な映像に色彩を添えていた。

 クラシック音楽がテーマであるけども、肩肘張らずに楽しめるので、いろんな人にお勧めしたい。


スタッフ
監督 小林聖太郎
原作 さそうあきら
脚本 奥寺佐渡子
エグゼクティブプロデューサー 豊島雅郎、小西真人

キャスト
松坂桃李 香坂真一
miwa   橘あまね
西田敏行 天道徹三郎
古館寛治 阿久津健太朗
大石吾朗 村上伊佐夫

映画 「コーラス・ライン」 (監督 リチャード・アッテンボロー、1985年)

2016-01-05 21:30:00 | 映画


 学生時代に観たはずの映画なのだが、全くと言っていいほど覚えてなかった。当時はミュージカルには、全く興味が無かったから。友人に誘われて付き合ったものの、「ふ~ん」としか言いようが無かったことだけは覚えてる。あれから何年も過ぎて、一応、私も世界が広がって、こんな映画も楽しめるようになった。

 ブロードウエイ・ミュージカルに出演するダンサーを決めるオーディション。出演といっても、コーラスチームであって、スポットライトを浴びるような役柄ではない。ステージ上のコーラスのための一線(=コーラスライン)は越えられない役割だ。それでも、将来のスターの卵たちがしのぎを削る中での人間模様が描かれる。一応、演出家ザック(マイケル・ダグラス)の昔の恋人で、スターダンサーだったキャシー(アリソン・リード)が仕事欲しさにコーラスのオーディションに参加する中での、ザックとキャシーの関係も織り交ぜてはあるものの、主役はあくまでも、オーディションに参加している無名の若者たちである。

 アメリカらしさにあふれている。東欧、中南米、アフリカ、アジア系など、ダイバシティ満載のオーディション参加者たち。厳しい競争社会。そして、自己PR・主張なしには理解されない。今のアメリカは良くも悪くもこの時から変化を遂げていると思うが、アメリカ社会のエネルギーの源を見るようである。オーディションの過程で明らかにされる、参加者個々の人生の多様性が特に興味深い。

 画像は随分古めかしく暗く見えたけど、音楽、ダンス、ストーリーなどいろんな楽しみ方ができる映画だ。
 


監督:リチャード・アッテンボロー
脚本:アーノルド・シュルマン
製作:サイ・フュアー
アーネスト・H・マーティン
製作総指揮:ゴードン・スタルバーグ

キャスト:
ザック: マイケル・ダグラス
キャシー: アリソン・リード
ラリー: テレンス・マン
リッチー: グレッグ・バージ
マーク: マイケル・ブレヴィンス
ダイアナ: ヤミール・ボージェス
ポール: キャメロン・イングリッシュ
アル: トニー・フィールズ
クリスティン: ニコール・フォッシー
シーラ: ヴィッキー・フレデリック
コニー:  ジャン・ガン・ボイド
ビビ: ミシェル・ジョンストン
ジュディ: ジャネット・ジョーンズ
マギー: パム・クリンガー
ヴァル: オードリー・ランダース
マイク: チャールズ・マクゴアン
グレッグ: ジャスティン・ロス
ドン: ブレイン・サヴェージ
ボビー: マット・ウエスト

映画 「幕が上がる」  (監督 本広克行、 2015)  ~期待を大きく上回る佳作~

2016-01-02 19:44:54 | 映画


 年末にDVDで視聴。とある演劇部の高校生たちの成長物語。平田オリザさんの原作ということと、ももクロが主演ということで、期待半分、不安半分で借りてみたのだが、私のツボにはまる傑作だった。アイドル映画どころか、演劇をテーマにしたスポ根映画である。

 主演のももいろクローバーZは、私が3年前に帰国した時はグループ名すら知らず、職場の同僚たちからは恐竜を見るような目で見られたのだが、いまだ個々のメンバーは全くわからない。が、本映画での各人の自然で伸び伸びとした演技にはとっても好感が持てた。いまどきの女子高校生があんな感じなのかどうかは知らないけど、演技になんら違和感はないし、はつらつとして良かった。

 映像を引きしめていたのは、新任の高校教師役で彼女たちを指導することになる吉岡先生役の黒木華。CFで見たことあるぐらいだったが、存在感のあるいい女優さんですね。若きころの田中裕子に面影が似ていて、派手な容姿ではないのだが、演技や台詞回しの一つ一つに重みがある。これから追いかけてみたい女優さん。

 演劇がどう成り立っているのかという「演劇入門」の映画版でもある。脚本、演出、俳優・・・それぞれの役割が、結集されて一つの舞台を作っていく。高校の演劇コンクールを舞台として、いくつかの高校生演劇のショットが流れるが、それらも演劇表現の多様性を表し、また映画のリアリティを高めていた。

 大泣きすることはないのだが、場面場面で涙線が緩むこと数多し。自信を持ってお勧めしたい。

スタッフ
監督 本広克行
原作 平田オリザ
脚本 喜安浩平
音楽 菅野祐悟

キャスト
百田夏菜子 高橋さおり(さおり)
玉井詩織 橋爪裕子(ユッコ)
高城れに 西条美紀(がるる)
有安杏果 中西悦子(中西さん)
佐々木彩夏 加藤明美(明美ちゃん)
黒木華 吉岡美佐子(吉岡先生)
ムロツヨシ 溝口先生
清水ミチコ さおりの母
志賀廣太郎 滝田先生

映画 「戦場のピアニスト」 (監督 ロマン・ポランスキー、2002)

2015-12-30 09:00:00 | 映画


 『灰とダイヤモンド』のDVDが近所のTSUTAYAには見当たらなかったので、第2次大戦期のポーランドを舞台にした映画は他にないだろうかと探したところを、本DVDを見つけた。ドイツに占領されたワルシャワにおける、ユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンの体験をもとにした物語である。原題は"The Pianist"。

 とっても重い。目を背けたくなるシーンも少なくない。こうも簡単にユダヤ人たちがナチスに虐殺されていたのかと思うと、胸が重くなる。「第二次大戦でポーランドは六百万以上の犠牲者を出した。ほぼ五人に一人が犠牲になったことになり、人口比ではソ連を上回る被害である。とくにユダヤ系住民はその九十%が殺された」(「灰とダイヤモンド」訳者川上洸氏の解説 同書上巻19ページ)らしいが、当時のポーランドのユダヤ人の悲惨さを十二分に知ることができる。

 悲惨な物語であるが、映像は美しく撮影されている。廃墟と化したワルシャワの風景など、劇場で観ると更に迫力も増したであろう。ショパンのピアノ曲が多数流れるが、物悲しさを引き立てる。

 個人的には、本映画で、欧州の旅行中に何度か出くわしたユダヤ人ゲットー地区の具体的イメージも掴めた。

 映画としても完成度の高い作品であり、現代世界史を知っておくという意味でも一度は見るべき映画である。



キャスト

エイドリアン・ブロディ: ウワディスワフ・シュピルマン
トーマス・クレッチマン:ヴィルム・ホーゼンフェルト大尉
エミリア・フォックス:ドロタ
ミハウ・ジェブロフスキー:ユーレク
エド・ストッパード:ヘンリク
モーリン・リップマン:母
フランク・フィンレイ:父
ジェシカ・ケイト・マイヤー:ハリーナ
ジュリア・レイナー:レギーナ
ワーニャ・ミュエス:ナチス親衛隊将校
トーマス・ラヴィンスキー:保安警察
ヨアヒム・パウル・アスベック:保安警察
ポペック:ルービンシュタイン
ルース・プラット:ヤニナ
ロナン・ヴィバート:ヤニナの夫
ヴァレンタイン・ペルカ:ドロタの夫

スタッフ
ロマン・ポランスキー:監督
ティモシー・バーリル:製作総指揮
ルー・ライウィン:製作総指揮
ヘニング・モルフェンター:原作
ウワディスワフ・シュピルマン:原作
ロナルド・ハーウッド:脚本
ロマン・ポランスキー:脚本
ヴォイチェフ・キラール:音楽

映画 『この自由な世界で』(2007) IT'S A FREE WORLD... (監督ケン・ローチ)

2015-11-13 00:00:10 | 映画


 イギリス現代文化を論じた本の中で紹介されていたので、DVDを借りてみた。イギリスの外国人労働者相手の職業紹介会社を立ち上げたイギリス人女性の主人公が不法移民の斡旋に踏み込んでいくストーリーを軸に、イギリスにおける移民労働者の世界を描く。

 リアリティ溢れるストーリー展開と映像が、現実の複雑さ、深刻さ、困難さを等身大に切り取っていると感じた。正直、見終わった後は、未知の世界を知って勉強になったといいう思いとともに、現実を垣間見てどっしりと重い気持ちにもなった。

 骨太の社会映画であり、大学の国際社会学や移民学の授業で取り上げられそうな映画。


キャスト
アンジー:カーストン・ウェアリング
ローズ: ジュリエット・エリス
カロル:レズワフ・ジュリック
ジェイミー:ジョー・シフリート
ジェフ:コリン・コフリン
アンディ:レイモンド・マーンズ

スタッフ
監督:ケン・ローチ
製作総指揮:ウルリッヒ・フェルスベルク
脚本:ポール・ラヴァーティ
音楽:ジョージ・フェントン